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075 友人、来たれり

やはり貴族が他領を訪問するという事は、面倒が多い。


俺は馬に乗って空を見上げていた。


快晴。

空は青く雲は白い。

太陽の光は眩しく、大気は灼けている。

まさに盛夏。


「暑いなぁ」


「そうですねぇ」


俺の独り言に暢気な声が返ってきた。


レックス・アスター。

王国軍フット領支部の軍人で階級は少尉。

二十歳過ぎの青年で、俺がこの異世界に来てから何かと顔を合わせる人物だ。


「すみません、余計な仕事を増やしてしまって」


俺は隣に馬を並べる少尉に謝罪する。


ここは、フット領の領都の防壁の外側だ。

俺達は仲良くメイソンとアリシアの到着を待っていた。


「カイル殿、謝らないで下さい。

自分達もフット領も守る軍人ですので、

他領からお越しになる来賓を護衛する事は当然の任務です」


人好きする笑顔を浮かべる少尉。


「有難うございます。

支部の方が護衛に加わって頂けて大変心強いです」


俺はメイソン達の安全を確保するために、デイム経由で支部に護衛を依頼していた。

メイソン達の護衛は、彼らが信を置くミルズ騎士団が務めているので戦力的には十分だと思うが、

万が一に備えて、フット領の境まで支部の小隊とフット騎士団を出迎えに向かわせていた。


「こちらこそ、お声掛けして頂き感謝しております。

皆、滅多にない護衛任務に我先にと志願しておりました」


その光景を思い出し、楽しそうに告げる少尉。


軍の仕事は魔獣駆除。

仕事仲間は同僚で仕事相手は魔獣なので、人間関係が硬直している。

彼らは新しい出会い、刺激に飢えているのだろう。

それで張り切って仕事してくれるのであれば、こちらとしても文句はない。


……少尉の発言で改めて思い知る。


「こんな辺境に来る物好き、いませんよね」


俺は自嘲気味に笑った。


フット領は、エンマイア王国の東端で出っ張った位置にあり、西側以外の三方は山野に囲まれている。

しかも、その三方から魔獣が侵入してくるので、フット領は他の領地より危険度が高い。


そんな危ないと分かっている土地にわざわざ足を運ぶ者はいない。


「立場のあるお方は難しいかもしれませんが、

フット領が危険地帯だからこそ、腕試しに来る軍人や狩人は多いですよ」


死線を潜って強くなる。

強力な魔獣を仕留めて名を上げる。

そんな野心を燃やす命知らずの者しかやって来ないという事か。


「であれば、フット領は物好きしかいませんね」


俺は笑う。


「そうですね。

自分もその物好きの一人でしょうね」


そう言って少尉も笑った。


俺と少尉の会話を俺の隣で黙って聞いていた男が口を開いた。


「カイル様、見えてきました」


その男の名はダグラス。

フット騎士団の団長を務める中年の男だ。


街道の先の方で王国軍と騎士団が見える。


「本当だ」


慌てている様子もないので道中何事もなかったのだろう。


「何事もなかったようですね」


団長も同じ感想を抱いたようだ。


メイソン達を乗せた馬車が俺達の前までやって来る。

前後左右を王国軍、フット騎士団、ミルズ騎士団で囲まれている。

皆、武装して騎乗しているので、凄く物々しい。


俺は馬を進めて馬車に横付けする。


「馬上から失礼します」


俺はメイソンに話し掛ける。

馬車の小窓が開き、メイソンが顔を見せる。


表情に陰りは見えない。

俺を見つめる茶色の瞳も明るい。

決闘の敗北を乗り越えたのかもしれない。


「こちらこそ、車内からで申し訳ない」


「いえ、気にしないで下さい。

領都に着いたとはいえ、まだ屋外ですので、そのまま車内でお過ごし下さい」


「ここまで手厚く護衛されるとフット領に来たなって感じがするね」


メイソンが護衛団の物々しさを茶化す。


「ようこそ、フット領へ。

……と言いたいところですが、メイソンさんが体験したいフット領はまだ先です。

明日は奥地に魔獣狩りに行きますので、楽しみにしておいて下さい」


「ふふ、楽しみだね」


魔獣狩りにやる気を見せるメイソン。

やはり、ゴルド伯爵に負けたことは吹っ切っているみたいだ。


馬車の中にはもう一人の客人がいる。

メイソンに身体をピタリと寄せ、アリシアが顔を見せた。


「カイル様、お久しぶりでございます」


元気な挨拶。

アリシアも調子が良さそうだ。


「お久しぶりです、アリシア様。

馬車での旅で、お疲れではありませんか?」


「お気遣いありがとうございます。

ですが、こう見えて、私、身体は頑丈なんですよ」


そう言って兄を抱きしめるアリシア。


「苦しいよ、アリシア」


嘘か本当か弱音を吐くメイソン。


笑っているので嘘だな。

俺は二人のイチャイチャを静かに観賞する。


二人とも目鼻立ちが整っていて美しい。

馬車の小窓が額縁の機能を果たし、一枚の絵画のようだ。


う~む、タイトルは、美形兄妹だな。


そんな益体の無い事を考えながら鑑賞していたら、団長に声を掛けられた。


「カイル様、護衛任務の引継ぎ、騎士団、王国軍ともに完了しました。

いつでも領都に入る事が出来ます」


領境から領都まで護衛してきた騎士、軍人はここで解散だ。

お疲れ様です。


街に入れば大人数で移動するのは障りがあるので、ここからは人数を絞って護衛する。


「有難うございます。

では出発しましょうか」


「承知しました」


団長が出発の号令を掛け、一行は防壁の門へと進み始めた。


「我が家まで、もうしばらく掛かりますので、それまでご辛抱下さい」


俺はメイソン達に話し掛ける。


「ああ、大丈夫だよ。

友人に護衛させるのは心苦しいが、宜しく頼むよ」


なるほど、心苦しいか。

なら、おちゃらけて、メイソンのストレスを軽くしよう。


「お任せ下さい、メイソン様、アリシア様。

御身は、この私が必ずお守り致します」


俺はわざと慇懃にお辞儀をする。


「まあ!

嬉しいです、カイル様!

お兄様ともども宜しくお願い致します!」


俺の騎士プレイに感銘を受けたのかアリシアが小窓に詰め寄る。

間にいるメイソンが潰されている。


「え?、ええ、お任せください」


俺は、アリシアの圧のたじろぎながら答えた。

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