表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/140

072 ゴルド伯爵

アリシアのお茶会は続いていた。

王都の様子やら国王陛下の人となりやら

モニカの舞踏会でのメイソンのモテっぷりやらあれやこれや。


楽しいお茶会に慌ただしい足音が近づいてくる。

エレインの護衛の女騎士が険しい顔で、

メイソン達の護衛の騎士が困惑した顔でミルズ家の使用人を見送る。


「ご歓談中、申し訳ございません。

ゴルド伯爵、フランク・ゴルド様がエレイン様をお迎えにいらっしゃいました」


使用人の報告に目を丸くする俺達。


伯爵がここに!?


事前通告がないのは、メイソン達の驚き様で明らかだ。


「なぜ、ここに!?」


その問いは使用人に言ったのか、姿を現した当人に言ったのか。

俺達は静かに立ち上がり、この場で一番偉い人物を出迎える。


白髪の老人。

背が高く、大柄な体躯。

お供に二人の騎士を従えている。


「何を驚く?

儂は孫娘を迎えに来ただけだぞ」


低く尊大な声で、俺達のお茶会にゴルド伯爵が割って入ってきた。


エレインを?


「孫娘が不調法を働いたらしいと聞いてな。

ミルズ家に門前払いされた孫娘を回収して、ついでにミルズ家に詫びを入れておこうと思って来たんだがな。

どうやら、受け入れられたようだ」


ゴルド伯爵はにやりと笑う。

それを見てエレインの身体が強張る。


「やはりメイソン君は優しいな。

君にならエレインを任せられるよ」


!?

嫁にやる、という意味か?


突然の展開に完全に蚊帳の外に追い出された俺。

こうなっては、二人のやり取りを見守るしかない。


「任せるとはどういう意味ですか?」


メイソンが真意を問い質す。


「エレインと結婚し、ゴルド家の一員として活躍して欲しいという意味だよ」


ゴルド伯爵の発言で一同に戦慄が走る。


この爺、とんでもないこと言いやがったぞ。


メイソンは嫡男だ。

このまま年を重ねれば、家督を継ぎ、次代のミルズ伯爵となる存在だ。

ゴルド伯爵は、その将来を歪め、ゴルド家の傍流に落とし込めようとしている。


喧嘩を売っている、としか言いようがない。


俺はメイソンの様子を窺う。

メイソンが激怒して殴り掛かったら、止めに入らなきゃいけない。


「伯爵のご期待に沿う事は出来かねます」


メイソンは動揺を見せず冷静に返答する。


「エレインでは不満か?」


「そういう話ではありません」


「では、どういう話だ?」


言葉を重ねるごとに緊迫感が増していく。

アリシアの身体が小刻みに震えている。

エレインは自分の結婚話と先に読めない展開にどう動けばよいのか分からなくなっている。


「私は父の跡を継ぎ、このミルズ家の当主となりこのミルズ領を治めます」


ゴルド伯爵の圧力の中、メイソンは自分の意志を主張した。


「良い夢だ。

だが、単純すぎるのではないか?」


瑞々しい決意をあっさりと受け流すゴルド伯爵。


「どういう意味ですか?」


目つきが険しくなるメイソン。


「領主の嫡男に生まれたから、領主を目指すという単純ではないのかと言っているんだ。

もっと視野を広く持って現実を見たらどうだ。

君に相応しい将来があるはずだ」


ゴルド伯爵はメイソンの未来を否定した。


「私に領主は相応しくないと仰りたいのか、ゴルド伯爵」


メイソンは荒くなる息を押し殺し、対話し続ける。


「端的に言えば、そうだ」


無遠慮に断言するゴルド伯爵。


何の権利があって、ここまで言えるんだ。

傍で聴いているだけの俺でも腹が立ってくる。


「何故ですか?」


「君が弱いからだよ、メイソン君」


ゴルド伯爵が俺に目を向ける。


おっ? なんだやんのか?


「君は誰かな?」


伯爵に誰何されれば答えるしかない。

俺は怒りを顔を出さずゴルド伯爵に答える。


「フット領を治めるデイム・フットの孫、カイル・フットと申します」


俺の正体を知ったゴルド伯爵が目を眇める。


「ミルズ領に何用だね?」


「友人のうちに遊びに来ているだけですよ、伯爵閣下」


俺は伯爵に対して下手に出ないように気を張る。


「カイル君、

君はメイソン君がミルズ領を守れると思うか?」


ゴルド伯爵が核心的な質問を投げて来た。


「思います」


俺はメイソンの味方をする。


「理由は?」


「為政者として己を高めようと努力しているからです」


俺は語気を強め言い放つ。

こんな堂々と他人を称賛した事はない。

赤面しそうだ。恥ずかしい。


ふっと鼻で笑うゴルド伯爵。


「高めようとしているという事は、現状は弱いという事だろう」


しまった!

ゴルド伯爵の発言を追認する格好になってしまった。

否定しなければ!


そう思ったが、俺は俺の本音を告白したのだ。

メイソンへの評価を否定することは出来ない。


俺は、二の句を告げられず歯噛みする。


今弱くたっていいじゃないか。

メイソンは魔法学校の学生だぞ。


「メイソンさんは学生です。

今、領主としてその能力を問うのは、無茶が過ぎます」


俺はゴルド伯爵の理不尽を責める。


領主の能力不足は、領主に言えよ。

メイソンを責めるのはお門違いだ。


「事情を知らぬ者はそう思っても仕方がないな。

ならば教えてやろう。

現領主のミルズ伯爵は、ミルズ領の命運をメイソン君に委ねたんだよ。

だからこそ、次代の領主としてこの領地を守れるか問うておる」


ゴルド伯爵の発言は、衝撃がデカい。


諦めたのか?

ミルズ伯爵はミルズ領を諦めたのか?

ゴルド家に明け渡す気なのか?


俺はメイソンを見る。

端正な顔が苦渋で歪んでいる。


否定の言葉は出てこない。

ゴルド伯爵の言葉は、少なくとも嘘ではないということだ。


有り得るのか?

領地の乗っ取りなんて?


現実感がまるでない現実が俺の目の前にある。

ドッキリでした~と言われれば素直に信じるだろう。


だが、この緊迫感とメイソンの葛藤する姿が、そんな安易なラストを許さない。

メイソンは眦を決し叫んだ。


「ゴルド伯爵!

貴方に決闘を申し込む!」

20万文字、達成しました。

ここまでお読みくださり有難うございます。

ブックマーク、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ