071 アリシアのお茶会
ミルズ家の中庭
綺麗に剪定された庭木の中に佇む東屋
夏の日差しを遮り涼を楽しむささやかな宴が開かれた。
そこに俺、メイソン、アリシア、エレインが集まっている。
「カイル様、エレイン様、そしてお兄様
本日は、私アリシアのお茶会にお越し下さり誠に有難うございます」
ひとり元気なアリシアが開始の挨拶を始める。
お茶会なんて当初の予定にはなかったが、誘われてしまえば断ることは難しい。
「お招きいただき有難うございます、アリシア様」
「こちらこそありがとう、アリシア」
「お茶ぐらいいつでも付き合うよ」
名前を呼ばれた順番に俺達は応える。
「ありがとうございます!
お兄様が魔法学校に入学されてから、ここを訪れる方も少なくなり寂しい思いをしておりました」
メイソンは領主の息子だ。
昔は、領地の貴族の子弟がメイソン目当てで頻繁に遊びに来ていたのだろう。
「ですが、こうして新しいご友人をお招きしてくださいました。
カイル様!」
アリシアは瞳を輝かせ俺の名を呼ぶ。
「はい?」
俺は戸惑いながら返事をする。
「私ともお友達になってくださいませんか?」
「え? ええ、僕で良ければ、喜んで」
「嬉しいです。
他領の方とお会いすることも珍しいことなのに
その方とお友達になることができるなんて今日はなんて幸運な日なんでしょう」
満面の笑みを浮かべるアリシア。
俺と友達になる位でここまで喜んでくれると悪い気はしない。
「そんな大袈裟ですよ」
「そんな事ございません。
私含め子供は自領の外には出掛けませんから、
他領の方でお会いできるのはお客様としてお越し頂いた時位です。
そのお客様も成人した大人の方々。
カイル様のように未成年で他領を訪問される方は、カイル様以外いらっしゃらないでしょう。
今現在エンマイア王国においてカイル様は稀有な存在として、私達子供から羨望の眼差しを向けられているのですよ」
同年代の子達からすれば、好き勝手行動している俺は羨ましい存在なのだろう。
「さらに学年代表戦で優勝したから、この夏から拍車がかかっているね」
メイソンが補足を入れる。
「……そうなんですか?」
「ああ。
ミルズ領に帰省してから、カイル君について友人達から質問攻めを受けたよ。
まあ、どう負けたのか根掘り葉掘り質問されたから複雑な気分だったけど……」
苦笑いするメイソン。
自虐ネタに、どう対応すればよいのか分からない俺。
「あの日は、楽しかったですね」
思い出し笑いをするアリシア。
「楽しんでもらえたのなら何よりだよ」
力なく笑うメイソン。
アリシアの発言で不機嫌になった様子もない。
メイソンの敗北を面白おかしくネタに出来るということは、その友人達はかなりメイソンと親しい仲という事になる。
仲良しが多くて羨ましいな。
「カイル様のご活躍は、王都の宮廷学校でも話題になっていましたよ」
エレインが俺に微笑む。
貴族の情報網を甘く見ていたわけではない。
だが、俺が警戒していたのは権力者つまり大人だ。
子供は眼中になかった。
その子供からここまで注目を集めていると危機感を覚える。
「出しゃばりとか、目立ちたがり屋とかですか?」
ストレートに質問してエレインの反応を窺う。
「……いいえ、そのような悪し様に仰る方はいらっしゃいませんよ」
エレインが困った顔で否定する。
彼女の様子からは本当かどうか判断できない。
「どう思います?」
メイソンに話を振ってみる。
「宮廷学校に通っている子女は、政治、経済を中心に勉強しているから
カイル君が若い、強い、ならどう付き合うのが一番得になるか考える者が多いと思う。
嫉妬したり敵視したりする者は少数だと思うから安心していいよ。
そうだろ?」
さすがメイソン。
俺が安心できる回答を示してくれた。
それに加えてエレインに話を振り返した。
メイソンはエレインのフライング訪問を水に流そうとしている。
偉い。
この二人が会話してくれたら俺の気遣いがぐっと減って楽になる。
「ええ、メイソンの言う通りです。
皆さま、どうすればカイル様とお会いできるのか熱心に話しておいででしたよ」
エレインの肩の力が抜けた。
メイソンに話し掛けられて安心したようだ。
「将来の首脳陣に関心を持ってもらえて光栄です。
ですが、田舎者の僕にとって王都とは縁遠い場所。
一体いつ王都に訪問できるのか皆目見当もつきません」
「では王都にいらした際は、私にお声掛けください。
不慣れではございますが、精いっぱい王都をご案内させていただきます」
エレインが積極的に俺を捕まえに来た。
「有難うございます。
機会があれば是非お願いします」
「王都かぁ。
私も行ってみたいです」
感想を呟くアリシア。
「後二年の辛抱だよ。
十五歳になったら王都でお披露目会が開かれる。
その時好きなだけ王都を見てまわればいいよ」
メイソンに聞かされた情報によると、カイルとアリシアは同年代だ。
そのため、そのお披露目会も一緒に参加する事になるはずだ。
知らん奴より知っている子と一緒の方が心安らぐ。
期待を込めた眼差しでアリシアを見つめる俺。
その視線に気づいたアリシアが話しかけてくる。
「カイル様も今年十三歳になりますよね?」
「ええ、秋には十三歳になります」
「私も春に十三歳になりましたので、
二年後のお披露目会はご一緒できますね」
親しみの笑みを向けてくるアリシア。
春かぁ。
この子の方が年上か。
この場で、一番年下な事になんかショックを受ける俺。
「アリシア様とご一緒できれば心強いです」
「では二年後、お二人をご案内しますね」
エレインが話を持ち掛ける。
「お願いします、エレイン様。
とても楽しみです」
アリシアが微笑み、エレインが微笑み返す。
二年後の予定が決まってしまった。