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070 メイソンの妹と幼馴染

どうしてこうなったんだろう?


俺は気まずい場面を目の前にして途方に暮れていた。


不機嫌そうなメイソンと申し訳なさそうな少女、

そしてその少女を庇うようにメイソンに睨みを利かせている女騎士。


事情はメイソンに聞いているので把握している。


あそこで困っている少女、エレイン・ゴルドがメイソン家に遊びに行く旨を伝えてから、

メイソン家が返事をする前に、やって来てしまったのだ。


見切り発車もいいとこだ。

断られるかもと思わなかったのだろうか?


図々しい……ようには見えない。


先程からエレインはオロオロしながらメイソンと女騎士の顔色を窺っている。


「それでは、このまま帰れと仰るのですか?」


気の強そうな女騎士がメイソンに詰問する。


「そんなことは言っていません。

ただ、なぜ、こちらの返事を待たずに訪ねて来たのか、

その理由を教えて欲しいだけです」


「メイソン様、アリシア様とお茶をしたいという

お嬢様の願いが無下にされるとは考えてもおりませんでしたから、

ご返答を待たずに出立してしまっただけです」


女騎士が悪びれる様子もなく堂々と答える。


アリシアはメイソンの妹だ。

エレインは、メイソン、アリシアと既に親交がある。

つまり友達だ。


友達の家に遊びに来て門前払いを喰らう、というのはなかなか酷い扱いだ。

体面を気にするならば、ゴルド家に非があったとしても受け入れるしかない。


「承知しました。

では、お入りください」


メイソンは渋々受け入れを表明した。


「有難うございます、メイソン様」


礼を述べた女騎士はエレインを馬車に押し込むように乗せる。


「メイソン、一緒に乗っていかない?」


押し込まれながら、誘うエレイン。


「友達と一緒だから遠慮しておくよ」


疲れた声で断るメイソン。


「「……」」


エレインと目が合う俺。


紹介してくれてもいいんだよ?

俺はメイソンの横顔を見上げるが、メイソンは俺を紹介するつもりがないようで小さく頭を振った。


エレインを乗せた馬車がミルズ家の正門を通過する。

それを見届けて歩き出すメイソンと俺。

門衛と挨拶を交わしミルズ家の敷地に足を踏み入れる。


屋敷はまだ見えない。

どこぞの公園を歩いている気分だ。


「防壁はないんですね?」


敷地を囲むのは鉄柵だった。

ただの無骨な鉄柵ではなく、蔦が絡み所々で花が咲いている様を表現した鉄製の芸術品だ。

高さは人間の数倍はあるが、巨躯の魔獣の突進には簡単にへし曲がりそうな不安さがある。


「そうだね。

防壁は都市の外側にあれば十分だと思っている。

うちまで堅固な防壁を築いたら、住民が都市内も安全ではないと思って不安がってしまうからね。

うちはあれ位でいいのさ」


「いろいろ配慮が必要なんですね」


俺はフット領との差異に好奇心を刺激される。


「フット領は魔獣災害に目を光らせている。

ミルズ領は、王国の外縁部より内側にあるから魔獣災害にそこまで神経を使う必要はないんだ。

その代わり、人に気を使っている。

向いている方向が違うだけで、掛かる苦労は同じだと僕は思っているよ」


魔獣か人か。


「人間相手の方が面倒が多そうですけどね」


魔獣は駆除することが出来るが、人間はそうはいかない。

面倒事も真摯に向き合わなければ解決できないので、手間暇がかかる。

やはり人間はめんどくさい。


「そうかもしれない。

でも直接命のやり取りをするわけではないからフット領よりはマシだと思うよ」


メイソンは俺の発言を肯定しつつ、フット領の苦労にも理解を示してくれた。


「確かに命を落とす危険はあります。

それを覚悟で、フット領にいらっしゃるのですか?」


俺は改めて確認する。


モニカの社交会でメイソンにお願いされたフット領への訪問。

日取りを決めるためメイソンと話し合いの場を設けようとしたら、

帰る方角が同じだから一緒に帰ろうと誘われ、

ついでにミルズ領にも寄っておいでよと誘われ、今、ここ、ミルズ領にいる。


日取りはまだ決めていない。


「行くよ。

だからこそ、行きたいんだ。

ミルズ領とは違う、危険と隣り合わせの領地の雰囲気を体験しておきたいんだ」


真剣な瞳で俺を見つめるメイソン。


遊びでも好奇心でもなく、

為政者として、見識を深めるためにフット領訪問を熱望しているようだ。


「じゃあ、一緒に魔獣でも狩りに行きましょうか?」


俺はからかい半分で提案してみる。

メイソンは一瞬驚いた顔をしたが、


「喜んで!

絶対行こう。

約束だよ、カイル君!」


興奮気味に笑みを浮かべた。


魔獣狩り、男子にとってはテンション上がるイベントだろう。

俺は、メイソンの気持ちに共感を覚えた。


しばらく歩いて、屋敷にたどり着いた。

玄関先にエレインと見知らぬ少女がいる。


「お兄様、お帰りなさい!」


飛び出してくる少女。

真っ白のワンピースが夏の陽光を浴びて輝いている。


背中まで伸びた明るい茶髪。

大きな瞳はメイソンを見つめ、膝丈のスカートから細い脚が伸びている。

背丈はカイルと同じ位。


そんな少女が勢いそのままメイソンの胸に飛び込む。


「ただいま、アリシア。

熱烈な出迎え、ありがとう」


妹であるアリシアをしっかりと抱き止めたメイソンが言葉を返す。


「当然です。

お兄様がお屋敷にいらっしゃるのは夏休みの間だけなんですから」


兄への好意を隠そうともしないアリシア。

メイソンは複雑な表情を浮かべ、俺に妹を紹介する。


「僕の妹のアリシアだ」


「アリシア・ミルズです。

お初にお目にかかります」


スカートの裾を持ち可愛らしく挨拶するアリシア。


「そして、こちらが僕の同級生で、

フット伯爵家のカイル君だ」


「カイル・フットと申します。

以後お見知りおきを」


真面目な顔で挨拶を返す俺。


「メイソン、……私の事も紹介して頂けませんか?」


アリシアの後ろをついて来たエレインが遠慮がちに尋ねる。

それを一瞥したメイソンが平坦な声音で彼女を紹介する。


「ゴルド伯爵家のエレイン。

僕の幼馴染だ。

今は王都の宮廷学校に通っている」


「エレイン・ゴルドと申します。

同じ外縁部を守護するフット家の方とお会いできて嬉しく存じます」


強張った笑みを浮かべるエレイン。

メイソンが素っ気ないからだ。


ここは、第三者の俺が頑張るところだな。


「カイル・フットと申します。

こちらこそ、北の開拓者と名高いゴルド家の方とお会いできて光栄です」


俺は明るい声と笑顔でエレインの存在を肯定する。

エレインは、俺の好意的な対応を意外と思ったのか戸惑いの様子を見せる。


「そ、そう仰って下さると、ゴルド家に連なる者として心が軽くなる思いです」


エレインは笑顔を浮かべるが、その笑みには陰りがあった。


彼女は負い目を感じている。

その理由も察しがつく。


北の暴れん坊。

その異名を持つ彼女の祖父。

フランク・ゴルド。

ゴルド領の領主にして伯爵。

そして宮廷魔法士。


そんな圧倒的な実力者のゴルド伯爵が他領への野心を燃やしている。

そのため、貴族達は警戒感を強め、ゴルド家への態度を硬化させている。


王都の宮廷学校に通っている彼女なら、その風評を浴びて生活していたはずだ。

心が陰っても仕方がないと思う。


エレインには同情してしまうが、正直言えばゴルド家の人間には会いたくなかった。

運が悪かったなと俺は思ってしまった。

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