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064 モニカさんちの社交会

夏休みのビッグイベント!

魔法学校の1年生が集まってはっちゃけるお祭り!


……嘘です。

はっちゃけないです。

礼儀正しく美しく上流階級の皆様と交流を深めるために開催される社交会です。


気を引き締めていきましょう。


俺は茶髪を撫でつけ黒の礼服を着て、貴族のお坊ちゃま然としている。

周りからも咎められないので、及第点は取れているのだろう。


俺は蒼穹寮のメンバーと一緒にフロー伯爵の敷地内にある建物を見上げている。


「まさか、舞踏会用の建物があるとは思わなかったですね」


俺は感想を呟く。


少人数の舞踏会なら本邸の広間を使用すれば良いが、今回は大人数だ。

社交会に招かれた一年生をどうやって一堂に会させるのか疑問だったが、専用の舞踏会館があれば収容問題で悩む必要はない。


さすがモニカさんのご実家。

大人数にも対応できるフロー伯爵家の貴族としての実力を見せつけられた気分だ。

ちなみにフット伯爵家には、舞踏会館はない。


「やあ、カイル君」


後ろから声を掛けられた。


振り返ると、夕日に照らされた彼がいた。

黒の礼服を着こなし胸ポケットに水色の装飾布を挿している。


「メイソンさん、お久しぶりです」


俺は愛想笑いを浮かべる。

話し掛けてきたのは、メイソン・ミルズだった。


気まずい。

メイソンは学年代表戦で優勝を目指していた。

そんなメイソンを決勝戦で盛大に吹っ飛ばしてしまった俺。

吹っ飛ばした事はちゃんと謝ったし遺恨はないはずだが、だが気まずい。


俺はメイソンの出方を窺う。


「久しぶりだね。

どう、夏休み楽しんでいるかい?」


柔和な笑みを浮かべるメイソン。

俺を恨んでいるような気配はない……たぶん。


「そうですね。

やはり地元は刺激的で退屈する暇がありませんね」


「フット領か。

後学のために一度行ってみたいな。

今度遊びに行ってもいいかな?」


え!?


突然のお宅訪問のお願いにテンパるおれ。


このお願い事、断っていいの?

断りたいけど、断ると不味いやつか?


「危険な場所ですけど、いらっしゃるのであれば歓迎致しますよ」


社交辞令の可能性はある。

具体的な日取りは避け、歓迎の意だけは表明する。


「日程は、今夜の社交会が終わった後にでも決めようか?」


メイソンが話を進める。

俺の受諾の言葉から、すかさず日取りの話を持ってくるのだから、これは本気だ。


え? マジでフット領に来るの?

……いや、そんな事より!

仕事終わりに次の仕事の予定を立てるか?

きつすぎるよ。


「……」


絶句してしまう俺。

その隙を突いてルーシーが声を上げる。


「あ、あの、メイソン様」


「何でしょうか、ルーシーさん?」


メイソンがルーシーを見つめる。

見つめられたルーシーは緊張で身を固くする。


「あ、あの、お時間があれば、今夜の社交会で私とも踊って頂けませんか?」


「……分かった。必ず誘うよ」


数秒考えこんだメイソンが真面目に返事をした。


「有難うございます!」


勢いよくお辞儀をするルーシー。

その声から喜んでいるのがよく分かる。


「僕は先に行くよ。

じゃあ後でね、カイル君」


「は、はい。後で」


ルーシーが勇気を出して誘ったメイソンに誘われた俺。

ちょっと鼻が高い。

……いや、待て、そうじゃない。

断りそこなったぞ、俺。


「よし、よし」


小さくガッツポーズを繰り返すルーシー。


「ルーシーって、メイソン様、狙っていたの?」


ミックが皆が思っていた疑問を戸惑いながら尋ねる。


「え~狙ってない、狙ってないって。

せっかく、こんな綺麗とこに来たんだよ。

だったら、一番格好いい男子と踊らないと損ってもんでしょ」


ルーシーはからからと笑いながら否定する。


「顔、赤いけど?」


ツッコミを入れる俺。


「いや、それはあれだよ。

名前覚えられてて、びっくりしただけだよ」


慌てて両頬を両手で隠すルーシー。


なるほど。嬉しかったんですね。


「なぜ、面の良い奴はモテるんだ?」


ネイトがしかめっ面でミックに問う。


「妬くなよ。めんどくさい」


ミックが冷たくネイトをあしらう。


「なっ、何だよ。

妬いてねーし、っていうかお前、冷たくね?」


ネイトが友人の態度に戸惑う。


確かに、いつもより機嫌が悪いような気がする。


俺もミックを凝視してしまう。

ミックが気まずそうに顔をしかめる。


「俺も気持ちは同じだよ」


ミックが自棄気味に自分の気持ちを吐き出す。


同年代のモテる男。

そのモテる現場を目撃して何も思わないはずがない。

だから、気持ちは同じなのだ。


「友よ!」


ネイトが最高に良い笑顔で握手を求める。


「うるさいな」


ミックが自分の感情に勘付かれた気恥ずかしさから悪態を吐くもののネイトの握手に応える。

同じ感情を共有出来てネイトは殊更に嬉しそうだ。


「そんな男同士で励まし合わなくても、ちゃんと二人とも踊ってあげるから心配しないで」


ご機嫌なルーシーが慈悲を垂れる。


「「何言ってんだ、お前」」


ネイトとミックがご無体なルーシーに怒る。


「えー、踊りたくないの?

今日のうち、かなり可愛いと思うけど」


そう言ってルーシーが一回転してみせる。


薄緑のロングドレスの裾が真円に広がる。

背中の部分が大胆にカットされていてルーシーの素肌が露になっている。

舞踏のためか、ルーシーのために仕立てたためか、普段では分からない身体のラインが鮮明になっている。


紛うことなく、そこには一輪の華が咲いていた。


「さ、誘ったら、ちゃんと受けてくれるんだな?」


ルーシーに頭を下げるのを良しと出来ないネイトが苦渋の表情で質問する。


「ちゃんと受けるよ。心配しないで」


ルーシーが真面目に返事をする。

茶化しのないルーシーの態度にネイトも気が緩む。


「分かった。誘います」


「待っているから、ちゃんと誘ってね」


ルーシーが楽しげに笑う。


「お、おう」


ネイトも少し嬉しそうに頬を緩めた。


「では、女性陣が空いていたらお誘いするということで、その際は宜しくお願いしますね」


俺は場を閉めようとルーシーとナタリアに話し掛ける。


「もちろん。お任せ!」


ルーシーが気前よく応じる。


「ウン、ダイジョウブ」


ナタリアも応じる。


何で片言?


抑揚のない声音に驚いた俺はナタリアの様子を窺う。


ナタリアは真っ直ぐに立ち、真っ直ぐに前を見据えている。

話し掛けた俺を見ていない。


「ナタリア、緊張しなくても大丈夫ですよ」


「ウン、ダイジョウブ」


俺の励ましの言葉も届かないようだ。

明らかに緊張している。


踊り始めれば緊張も解けるだろう。


そう判断した俺は蒼穹寮のメンバーに前進を促す。


「フロー伯爵家の社交会に乗り込みましょう!」

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