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063 社交会に行こう

獣人の街での目的は達した。

フット家を受け入れる穏健派、フット家を拒絶する独立派。

独立派の存在を直接確認できたのは大きかった。


だが、俺がフット領に戻ってきたのは、獣人の派閥調査だけが目的ではない。

もっと大きな目的がある。


そう、それは社交会の準備だ!


俺はずっしり重い旅行鞄を持ち直す。


「御祖母様、有難うございました」


「いや、大した手間ではないから気にしなくていいよ。

それより、フロー伯爵に宜しく言っといてくれ」


「承知しました」


俺は畏まって礼をする。

フロー家が主催する社交会に出席するために、デイムに衣装と贈り物を用意してもらった。

俺はこのあたりの目利きに自信がないので非常に助かった。


早朝の爽やかな風が吹き去っていく。

空は青い。

空を飛ぶのに絶好の日だ。


俺は馬車を使わず飛行魔法でフロー領まで移動するつもりだ。

貴族が他の貴族の屋敷を訪れるのに身一つというのは身軽過ぎるが、今回の社交会は学校行事の一環、学生のための催しなので、そこまで形式に拘らなくても問題ないはずだ。


屋敷の扉が開いて誰かが出て来た。


げぇ! 何であいつが?


ロイの制止を振り切ってこちらに向かってくる少女。

三つ編みのツインテールがぴょんぴょんと跳ねている。


デイムが振り向き少女に声を掛ける。


「ライラ、見送りに来たのかい?」


「違います!」


間髪入れず否定する少女。


ライラ・フット。

デイムの孫娘でカイルの妹。

異世界召喚で俺とカイルが入れ替わっていることを知っている秘密の共有者。


そして、俺のことを嫌っている少女。


ライラが俺を嫌う気持ちは分かるつもりだ。

ある日突然、兄が何者かに変貌してしまった驚愕、その何者かがそのまま兄として振舞う違和感、そしてそれを容認する大人達への怒り、それらの感情がライラに俺の存在を否定させるのだ。


異世界召喚は俺とカイルの契約だ。

対等な契約だった。

第三者にとやかく言われる謂れはない。

それなのに、ライラが一方的に嫌ってくるので俺もそれ相応の態度で接している。


「じゃあ何の用だ?」


俺はカイルより小さいライラを冷めた目で見下ろす。


さすが兄妹というべきなのか、ライラはカイルと目鼻立ちが似ている。

まるで小さいカイルと対峙しているような気分になる。


「貴方が出ていくのをこの目で確かめるためよ。

居ないと思って屋敷の中でばったり鉢合わせしたら最悪でしょ」


子供の高い声に、これでもかと棘が付いている嫌味。


俺はデイムの屋敷に滞在中、こいつと鉢合わせしないように気を遣って生活していた。

だから今の発言はイラっとした。


「お陰様で、今、最悪の気分だよ」


俺の反撃に一瞬目を丸くしたライラだが、すぐに気を取り直して笑みを浮かべる。


「そう。それは良かったわ。

気分が悪いなら早く出て行けば?」


イラっとする。


「言われなくとも出て行くよ」


俺は捨て台詞を吐いてライラを視界から追い出した。

ライラに会わずに出て行くために早朝を選んだのに台無しだ。


俺はデイムに向き直る。

出発は早朝にしたためデイムにも早起きさせてしまった。

もう一度頭を下げておこう。


「では、お世話になりました」


「ああ、気を付けて行っといで」


デイムが穏やかに微笑む。

白髪の混じる茶髪が風に遊ばれる。

ライラは強まる風に堪らずデイムの後ろに隠れる。


いい気味だ。


俺は彼女達を下に見ながら意地悪く笑う。

遠くにいるロイに会釈をして顔を上げる。


魔獣除けの城壁が幾重にも築かれている。

フット領の都。

カイルの故郷。


二度目の旅立ちだ。

一度目は馬車に揺られて学術都市に、二度目は自分の力でフロー領に。


目覚ましい進歩だ。

この半年でこの世界にかなり慣れた感がある。


どこまでも行けそうだ。


太陽は昇り始めたばかり、時間はたっぷりある。

行く目的が社交会というのは少し気落ちしてしまうが、新天地に向かうのはいつだって心が躍る。


「行くぜ、新天地」


気合を入れ、俺はフロー領がある南へと飛び出した。

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