057 学年代表戦 準決勝戦
昼休憩を挟み、学年代表戦の準決勝戦が始まった。
準決勝の第一試合は俺とモニカの試合だ。
対峙するモニカは静かに俺を見つめている。
「……」
何か話しかけるべきだろうか?
……いや、やめておこう。
モニカの冷徹な眼差しに体が強張るのを感じる。
そのまま会話らしい会話もないまま試合開始の合図を待った。
審判のルシアン・イングが大声を上げる。
「準決勝戦第一試合、試合開始!」
来るか!?
俺は身構える。
モニカは突進、ではなく横へ走っていく。
賭けに勝った!
俺が負ける可能性が一番高いのは、試合開始後のモニカの速攻だった。
魔法発動が間に合わずボコボコされれば負けるしかない。
なんとか初手敗北という最悪の結果を回避することができた。
一瞬の安堵、視線だけはモニカに向けて警戒を続ける。
距離を取ったまま俺の側面に回り込もうとするモニカから火弾が四発まとめて発射された。
火弾は俺を囲むようにして直進してくる。
機動力の無い俺には回避しようがない。
真っ直ぐ向かってくる火弾に狙いを定めて空気砲を放つ。
空気の塊が火弾を押しつぶして散らす。
モニカはどこだ?
視線を火弾からモニカへと変更するため体の向きを変える。
モニカはまだ走っている。距離を空けたまま。
一呼吸で俺の懐まで踏み込むのは難しい距離だ。
モニカと視線が合う。
それを合図にしたかのように、また火弾四発が襲い掛かってくる。
速い。やはり逃げられない。
そう判断した俺は空気砲で火弾を吹き飛ばす。
ついでにモニカに当たれと思ったが、俺が撃った時にはモニカはそこにいなかった。
俺がモニカを追って視線を投げる。
モニカの姿を視界に捉える。
また火弾が四発襲ってきた。
また同じパターンか。
視界から逃げていくモニカを見て思った。
!?
挙動が違う!
モニカが剣を地面に突き刺している。
剣まで使っての方向転換、モニカが全力で突進してくる。
まるで獣だ。
両手で地面を掴み、急転換でぶれる全身を押さえつけて突進してくる。
それでも火弾の方が速い。
俺はモニカよりも火弾を優先して空気砲で火弾を吹き飛ばした。
俺はすぐさまモニカに向き合う。
低い体勢のままのモニカ。
武器はなく殴り掛かる気なのかもしれない。
懐に入られるのは不味い。
そう判断した俺は剣の切っ先をモニカに向けた。
剣が障害物となって俺を直接攻撃できないだろう。
剣の払うのに一手、その後、直接攻撃で一手、合計二手。
モニカが俺にダメージを与えるのに二手掛かる。
俺はその間に空気砲をモニカに当てる、それが勝ち筋。
成功確率はかなり高い。
モニカの右手が俺の剣を掴もうと伸びてくる。
ここだ!
俺は空気砲を放った。
「ぐっ」
突然風が押しかかってきた。
体が煽られる。風の威力で足が地面から浮かされる。
俺の空気砲が俺に逆流している。
なぜ!?
モニカが何かしたはずだ、そう思いモニカを見澄ます。
モニカもまた風に耐えていた。
右手を突き出し低い体勢を維持している。
どうやらモニカも空気砲を放ったらしい。
それで相打った。
お互いに魔法の撃ち終わり。
転ばないように何とか着地する俺。
低い体勢で我慢していたモニカが矢のように襲ってきた。
喰らえば終わる。
モニカ渾身の右ストレート。
背筋に悪寒が走る。
ああ、良かった。
念のため用意していた空気砲をモニカに放った。
轟音と共にモニカが決闘場を転がっていく。
地面にしがみつこうとして爪を立てているモニカ。
ああ、今度こそ追撃が必要だ。
必死の努力のおかげでモニカは決闘場の内側に留まることが出来た。
モニカが顔を上げる。
自分の不利を悟った口元。
逆転の一手を探る瞳。
まさに手負いの獣だ。
一秒たりとも時間を与えてはいけない。
こちらはモニカが転がっている間、魔法を編む時間があった。
俺は、風が唸り声を上げてモニカ周辺を全て吹っ飛ばした。
空高く舞い上がるモニカ。
決闘場の外まで吹っ飛んでいるので、俺の勝ちだ。
勝利が確定したのでモニカの心配をする。
このまま落下すると危険だ。
俺は決闘場の外に控えている教師を一瞥する。
教師はモニカをキャッチしようと動き出している。
これなら大丈夫そうだ。
地面に激突する前に教師がキャッチするだろうと思ったが、そうはならなかった。
「丈夫過ぎだろ……」
俺は呆れた声をもらした。
モニカが宙に浮いている。
そして俺を見下ろしている。
どうやらモニカの意識を刈り取ることは出来なかったらしい。
怖い。
人一人を吹っ飛ばす威力の風をもろに喰らって、まだ臨戦態勢を維持している。
喰らったのが俺なら死んでいる可能性が高いのに。
肉体の耐久値が違い過ぎる。
モニカがするすると俺の前に降りてくる。
「……」
「……」
二人は沈黙。
審判のルシアン・イングが咳払いをして俺達の注意を引く。
「勝者、カイル・フット」
「「……」」
俺達は沈黙したまま見つめ合う。
モニカは兜を落としたのか砂まみれの茶髪を整えもせず晒している。
闘志が消えていない瞳で俺を凝視している。
まだ闘うつもりなのか?
俺は若干身構える。
「負けました」
荒い息遣いの間に吐かれた短い敗北を認める言葉。
悔しそうに眉間に皺を寄せているモニカ。
何と返事をすればいい?
「ま、また闘いましょう……ね?」
モニカが欲しいのはリベンジの機会のはず、そう思って言葉にしてみた。
ドキドキしながらモニカの返事を待つ。
「ええ、必ず」
モニカはそれだけ言うと、俺の前から立ち去った。
準決勝戦、第二試合
学年次席 メイソン・ミルズ
対
剣術代表 ロジャー・レイン
結果はメイソン・ミルズの勝利。
勝敗の結果に驚きはない。
ロジャーは剣術一位の生徒だ。
剣での勝負はメイソンに分が悪い。
メイソンは剣での勝負は避け、中間距離での魔法攻撃で闘った。
ロジャーが接近戦を挑んでも守勢にまわり丁寧に攻撃を捌いて距離を取った。
自分の強みを活かした闘い方だった。
これで学年代表戦の準決勝戦が終了した。
しばしの休憩の後、決勝戦が始まる。
決勝戦
学年次席 メイソン・ミルズ
対
魔法代表 カイル・フット
メイソンには悪いが優勝するのは、この俺だ。




