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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第3章 ピカピカの1年生
56/140

056 学年代表戦 一回戦

学年代表戦の当日。

山から涼しい空気が訓練場に流れ込んできている。


天気は晴天。

抜けるような青空に太陽が燦然と輝いている。

今日も暑くなりそうだ。


学年代表戦の進行は、午前中のうちに一回戦を済ませ、午後から、準決勝戦、決勝戦をやる予定だ。


三回勝てば優勝。

体力的にも問題ないはずだ。


一回戦、第一試合

学年首席 モニカ・フロー

剣術代表 ダン


結果はモニカ・フローの勝利。


良い試合だったと思う。

今日のオープニングマッチに相応しい剣戟から始まり、モニカの距離を取ってからの魔法の乱れ撃ち、ダンがそれを懸命に回避しながら肉薄、モニカが距離を詰めたダンに剣と魔法の混成攻撃をくわえ手数の差で押し勝った。


剣の隙を魔法で補い、魔法の隙を剣で補う隙の無い戦闘スタイル。

モニカは強い。

隙がないのだから強いに決まっている。


どうやって勝とう?


俺はモニカ対策を考えながら歩く。

向かう先は訓練場の中央。

白線で区切られた決闘場だ。


この決闘場から外に出ると場外負けとなる。


ヤバいと思ったら場外に逃げるのも手だ。

もちろん降参宣言も負けと認められている。


学校側に生徒達を死ぬまで闘わせる気はないのが唯一の救いだ。


今日の代表戦は生徒達の殺し合いの場だ。

授業で刃引きしてあった剣も今日は刃がついている。

魔法で人間を攻撃するのも今日がお初だ。


入学してからぬるま湯だった学校生活が、今日だけ激熱の熱湯風呂と化していた。


……いちおう頭部への攻撃は禁止されている。

気休めかな。


俺は決闘場の中央で足を止めた。

対峙するのは格闘代表のケントだ。


全身鎧に剣を携えているケント。

俺も同じ装備だ。


重くてしょうがない。

俺は接近戦をする気が無いので装備品は捨てた方が闘いやすい。


ケントもそれは同じだろう。

全身鎧を着込んでいるので、着膨れしている。

その着膨れ分だけ手足の可動域が減少しているので、繊細な動作を要求される格闘戦を得意とするケントには着ているだけでストレスだろう。


まあ格闘戦になることはないだろうな。


俺はケントを観察しつつ試合展開を予想する。


最初は剣での勝負だ。

ケントの剣の実力は平凡だが、俺相手なら余裕で勝てるほどの実力がある。

わざわざ剣を捨てる危険を冒すとは考えづらい。

そのままケントが剣で押し勝つだろう。


分の悪い勝負だ。


俺は剣を中段に構える。


「では規則の確認をする」


審判役の剣術担当教師が真面目な顔で告げる。


剣の先生ルシアン・イングも帯剣している。

おそらく試合を中断する時に使用するのだろう。


イング先生「もうよせ!」

ケント「なんで邪魔するんだ!?」

イング先生「カイルは気絶している」

ケント「なんだと……? 俺の勝ちか?」

イング先生「そうだ。だから剣を収めるんだ」


こういう展開の時にケントの攻撃を受けるための剣なのだろう。


「まず頭部への攻撃は禁止だ。行えば反則負けだ。


次に白線の外に出れば場外負けとする。足が外に出ていなくても体の一部が出ていれば適用されるので注意するように。

また戦闘範囲の絡みで上への飛行魔法は禁止する。


そして、降参宣言は負けと認める。


勝負が決着した後の攻撃は禁止だ。行えば教師陣が力尽くで止めにはいる。

それが故意である場合は失格にすることもあるので、自分の名誉に傷を付けたくないのなら自重するように。


あとはこの規則を順守した上で全力で闘え。

以上だ!」


イングが俺とケントに目配せする。


俺もケントも首肯する。


それを確認したイングが大声を上げる。


「一回戦第二試合、試合開始!」


俺は剣を構えたままケントを見ていた。

真っ直ぐに突っ込んでくるケント。

速い。

そしてやっぱり開始位置が近い、あっという間に目の前だ。


ケントが袈裟切りしようと剣を振り上げる。


間に合うか?


俺は防御のため剣を掲げる。

剣と剣がぶつかる直前、ケントのがら空きの胴に俺は空気砲を叩き込んだ。


くの字に曲がって宙を飛ぶケントが見える。

人間ってあんな感じで飛ぶんだと場違いな感想を抱いてしまう。


単発の風魔法だったので追い風を受けられずケントが失速していく。

追撃を検討する俺。


「……」


不要だな。

ケントは白線の向こう側に落ちた。金属鎧を鳴らしながらさらに遠くに転がっていく。


「……」


ちょっと転がり過ぎじゃない?


心配になる。


教師の一人がケントに駆け寄り容態を確認する。

どうやらケントは無事らしい。良かった。


「勝者、カイル・フット!」


イングが大声で俺の勝利宣言を行う。


良し良し勝った!


俺は小さくガッツポーズをする。

派手にはしゃぎ過ぎないように気を付けつつ決闘場から離れる。


訓練場の端には観戦している一年生達がいる。


見ていてくれたかな、モニカさん?


俺はモニカに視線を投げる。


モニカは一試合闘った後なのに涼しげな表情を浮かべている。

あれだけ動き回っていたのに疲弊しないなんてちょっとズルいと思う。


まあそれはいいや。

大事なのは俺の仕込みが効いているか否かだ。


俺はケント戦で頑張って初手魔法ぶっぱを成功させた。

これで観戦していた者に、初手突撃はカウンターの餌食になると認識させたはずだ。


そうですよね、モニカさん?


「……」


モニカの瞳は冷たく静かに凪いでいた。

普段ならもっと自分の強さへの誇りや負けん気などを素直に表に出しているのに、今はそれすら読み取れない。


……本気だと判っただけで十分か。


俺はモニカから視線を外す。


「うおおおーすげーぞ、カイル!」


ネイトが大きく手を振っている。

俺も手を振りながらネイト達に近づいていく。


「「いえーい」」


俺とネイトはハイタッチする。


「早業すぎるぞ」


ミックともハイタッチする。


「すごいすごい、カッコイイ」


ルーシーとも何度もハイタッチする。

ルーシーが遠慮なく叩くので手が痛い。


「おめでとう」


ナタリアとは優しく手を合わせる。


俺の勝利に蒼穹寮の一年生達は笑顔を浮かべて喜んでくれた。

それが嬉しい。


蒼穹寮の面子とはしゃいでいると、次の試合が開始されそうな雰囲気になり俺達も決闘場に意識を向ける。


一回戦、第三試合

学年次席 メイソン・ミルズ

格闘術代表 グレン


優勝を目指すメイソンとグレンの闘いが始まった。


両者とも前進し剣を激突させる。

甲高い金属音が響き渡る中、グレンがメイソンの側面に流れ込む。


そのままメイソンの側頭部に拳打を叩き込めばメイソンを倒せる絶好の機会。

だがそれは反則だ。

グレンは冷静にメイソンの背中に拳打を叩き込んだ。

衝撃を受けたメイソンが前方に体勢を崩す。


グレンが半歩詰め、拳の間合いとメイソンの背後を確保する。

いつの間にかグレンは剣を捨てていた。

自由になった両拳でこのままメイソンを沈めるつもりだ。


俺はメイソンが体勢を立て直すと思った。

そう思ってから数瞬、メイソンは動きを止めていた。


俺は強烈な違和感と悪寒を感じた。


グレンもそう感じたのだろうけど、遅かった。

メイソンを中心に爆風が起こった。

気づけばグレンは場外まで飛ばされていた。


爆風の余波が俺達の所まで到達し、観客の生徒達は身を縮めて耐えた。


やはりグレンがメイソンに勝つのは難しかったようだ。

為す術なく場外負けしてしまったグレンが地面を叩いて悔しがっている。


俺は何とも言えない気持ちでその姿を見つめていた。


一回戦、第四試合

剣術代表 ロジャー・レイン

魔法代表 ローザ


結果はロジャー・レインの勝利。

ローザが迫りくるロジャーにビビリまくり降参した。


俺のライバルが一回戦で負けてしまった。

魔法を一発放つ時間があればローザにも勝ちの目があったと思う。

その余裕を与えなかったロジャーが見事だったと称賛するしかない。


これで学年代表戦の一回戦が終了した。

午後から準決勝戦が始まる。


準決勝戦、第一試合

学年首席 モニカ・フロー

魔法代表 カイル・フット


準決勝戦、第二試合

学年次席 メイソン・ミルズ

剣術代表 ロジャー・レイン


俺とモニカの試合が事実上の決勝戦だ。


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