055 学年代表戦 選手発表
期末試験は終わった。
長く険しい戦いだった。
魔法科目は一位を取ることができた。
そのため目標だった学年代表戦にも出場できるようになった。
俺は感慨にひたりながら出場者リストを眺めていた。
カイル・フット
しっかりとその名が記載されている。
「ふふ」
ニヤニヤしちゃうね。
学年代表戦の出場者リストは校内の掲示板に貼り出されている。
出場者リストは昼休みに貼り出され、掲示板前は大いに賑わった。
今は放課後なので誰もいない。
学年代表戦に出場するのは八名。
総合成績上位者代表
モニカ・フロー
メイソン・ミルズ
格闘術科目代表
グレン
ケント
剣術科目代表
ロジャー・レイン
ダン
魔法科目代表
カイル・フット
ローザ
さすがモニカとメイソンだぜ。
首席と次席とは凄すぎる。
俺には逆立ちしても出来ないことだ。
この二人が俺達の学年、最強のツートップというわけだ。
俺達各科目の代表者は一芸突破でこの最強達に挑まなければならない。
万能か一芸特化か、どちらが強いのか?
その問いに答えを出す戦いでもある。
俺は魔法こそが最強だと思っているのでマジで優勝する気だ。
……そうなるとライバルは二人に絞られる。
一人目はモニカ。
二人目はローザ。
モニカは、魔法の授業を力押しでクリアしてきた。
1つの正解を見つけると是が非でもそれを実現させようとするきらいがある。
頑固者、融通が利かないというのが彼女の弱点だろう。
ローザは、平民の少女だ。
幼い頃に魔法の才能を認められ、それから魔法の訓練を続けてきた努力家。
1つの問いに複数の正解を用意する周到さがある。
発想は柔軟だが、それ故1つの正解に固執する気持ちが薄く、移り気なところが彼女の弱点と言えるかもしれない。
格闘術と剣術は距離さえとれば脅威ではないので考慮しない。
俺が出場者リストを眺めていると、格闘術代表のグレンがやってきた。
まだ距離はある。
今なら立ち去ることも出来るが、後で絡まれるのも面倒なのでここで対処する。
「まだ残っていたんですか、カイル君?」
横柄さを感じる声でグレンが話しかけてきた。
短く刈り込んだ茶髪。
野性味の強い眼差し。
日に焼けた肌。
まさに若さを持て余した男子といった感じだ。
「ええ、これをじっくり見たかったもので」
そう言って出場者リストに視線を移す。
「俺もそうですよ。昼間は人が多くて近づけませんでしたからね」
グレンは、ははっと笑いながら俺の隣に立つ。
二人並んで出場者リストを眺める。
「順当な顔ぶれですね」
話を振ってみる。
「そうですね。授業中、目立っていた奴が試験でも結果を残したっぽいですね」
まさに順当。
マグレは起こらなかった。
つまり俺の隣にいる、この男は強いということだ。
グレンは格闘術の授業の時、一番元気に躍動していた。
幼少期より鍛錬してきたはずの貴族の子弟達よりもだ。
「流石というか当然というか、格闘術代表はやはりグレンさんでしたね」
「当然ですよ。俺はガキの頃から闘技場で拳闘やってたんで、歴が違いますよ」
グレンは闘技場経験者であることが自慢らしい。
誰かがグレンの強さを褒めると、決まって闘技場の話を出す。
自慢であり事実である。
積み重ねた努力がグレンの拳を形作っている。
ちなみにグレンが出場していたのは、子供部門だ。
さすがに子供を大人と闘わせるなんて悪趣味な興行をしていなかったようだ。
「そうですよね。
ケントさんもですが闘技場経験者は動きのキレが違うから一目で分かります」
ケントは俺の一回戦の相手だ。
格闘術成績、第二位。
グレンと同じ子供拳闘士だった男だ。
「ケント、あいつも結構できますからね。
一回戦、大丈夫ですか?」
グレンはケントと仲が良い。
同じ経歴を持つ仲間意識とライバル意識をケントに向けている。
今の発言も俺への心配ではなくケントの肩を持つ発言だ。
もっと直截な言い方をすれば、俺のライバル強いけど、勝てんの? といったところだろう。
「まあ何とかなると思います。
懐に入られたら諦めますけど」
「何とかなる……」
気に障ったのかグレンの声が硬くなった。
代表戦の試合の開始位置は、――肉体強化した上での話だが――相手に近い。
そのため魔法発動より剣が相手に当たる方が早いといわれている。
その想定通りだとしたら、魔法しかない俺は相手の攻撃を一撃受けてから反撃するしかない。
グレンはそう思っている。
そして、ケントは俺の懐に簡単に踏み込むことが出来るし、懐に入ったら後は何とでもなると思っている。
「剣持ちで開始ですからね。一回防御にまわって魔法使いますよ」
代表戦は全員が剣を装備して闘いに臨む。
なぜなら代表戦は、実戦を想定した総合能力を問われる闘いだからだ。
魔法が得意、格闘が得意だからといって、武器というアドバンテージを最初から捨てるという選択肢はない。
「なるほど。防御できれば勝ち目がありそうですね」
言うは易く行うは難し。
グレンは疑いの眼差しを向けてくる。
俺の試合のことはもういいだろう。
「グレンさんは、一回戦はメイソンさんですけど、何か策はあるんですか?」
グレンがメイソンに勝っているものは格闘術しかない。
剣術も魔法もメイソンが上をいっている。
代表戦で格闘戦になることはほぼ無いので、グレンは不利な闘いを強いられる。
「懐に入れば何とかなりますよ」
グレンが軽く言ってのける。
それしか策がない。
不利な闘いなのは最初から承知の上。
逆境の中、勝利の光明は一筋。
それを掴めばいいのだ。
グレンは表面上は平静を装っているが、その内面は闘争心が滾っている。
ギラギラした瞳でメイソン・ミルズの名前を見つめている。
十中八九、メイソンが勝つ。
だがグレンの横顔を見ていると、
「決勝で会いましょう」
俺は回りくどいエールを送っていた。
嫌いではないのだ。グレンのように熱い男が。
無茶を貫くというのなら見届けてやろうと思う程度には。
グレンは虚を突かれたように目をパチパチするが、俺の言葉が腑に落ちたのか炎が吹きあがるように口角を上げた。
「優勝は俺がします」
「優勝は僕です」
「「……」」
どちらともなく俺達はがっちりと握手を交わした。
やべーな。ワクワクしてきたぞ。
早く代表戦、始まらないかな。
俺も楽しくなってきた。
夏休み前の最後の闘いが始まる。