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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第3章 ピカピカの1年生
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047 蒼穹寮の一年生

「いってらっしゃい」


ケイトに見送られながら、俺達は蒼穹寮から学校に向かった。


今年の一年生で蒼穹寮に入ったのは五人。

俺、男子二人、女子二人だ。

俺以外は平民だ。


そして、田舎から出てきたお上りさんだ。

なので、まだこの学術都市のスケール感に衝撃を受けているようだ。


学校に行くのも楽しそうで足取りも軽い。

羨ましい限りだ。


「どうした、カイル? 雰囲気暗いぞ?」


元気いっぱいの少年が話しかけてきた。

名前はネイト。


「今日も剣術の授業があるから憂鬱なんだよ」


俺もタメ口で返す。


平民四人の中に貴族が一人混ざると、貴族に気を遣って本音を出しづらくなる。

よそよそしい雰囲気は俺も避けたいので、四人と話し合った結果、タメ口で行こうとなった。


そのため俺も雑な口調を心掛けている。


「あーあー確かに」


俺の回答に何かを察したネイトは気まずそうに目を逸らした。


俺は、肉体強化の魔法が出来ない。

そしてそれを公表した。


肉体強化の魔法は、自然と身に付く魔法で、出来ない人間がいるなんて信じ難い話のようだ。

公表した後でも本当に出来ないのか疑いの眼差しを向けられている。


「気にするな。僕は気にしてないから」


嘘です。めっちゃ気にしてます。


でもネイトを慰めるために敢えて強がった。

俺の鋼のメンタルに安心したのかネイトの隣を歩いていた少年ミックも会話に加わる。


「でもさ。本当に肉体強化できないの?」


悪意はない。

ミックは心底不思議そうな顔をしている。

それだけ肉体強化の魔法が出来ないことは有り得ないことなのだ。


「できないね。何回やってもできない」


これは事実です。


「何回聞いても信じられないな。あ、カイルが嘘ついてると思ってないよ」


自分の感想を呟いたミックは俺へのフォローも忘れなかった。


「ありがとう。それだけで十分だよ」


俺が男子達と話していると後ろからひょっこりと少女が顔を出してきた。

名前はルーシー。

さばさばした性格で話しやすい。


「カイル、肉体強化できないから剣術の授業の時、貴族の女の子としか打ち合わないじゃん。

たまには、うちらともやろうよ」


ルーシーからお誘いを受ける。


剣術の授業では、二人一組になり交互に打ち込む訓練がある。


普通の生徒は、訓練が白熱していくと自然と肉体強化の魔法が発動し攻撃力が強くなっていく。

俺はそれに付いていけないので、俺の相手をしてくれる生徒は熱くならず俺の剣のレベルに合わせなければならない。


「えー、それだとルーシー達の足を引っ張ることになるから遠慮するよ」


ルーシー達は平民で、地元領主からも優秀な成績を取ることを期待されているので、強くなることは半ば義務みたいになっている。

俺に付き合っても強くなることはないので遠慮するしかない。


「遠慮するな。うちは全然問題なし。ナタリアも問題ないでしょ?」


ルーシーは軽やかに笑った。


「う、うん。カイルがいいならいいよ」


話を振られたナタリアが賛意を口にする。

だがこの少女は、一歩引いた性格をしていて相手の出方を窺う癖がある。

この返答もルーシーの勢いに合わせた可能性がある。


「気持ちだけ受け取っとくよ」


俺はやんわり断る。

善意を無下するのは心苦しいが彼女達の将来を考えれば甘えるわけにはいかない。


「えー何でさ? あ! あーカイルは田舎娘より淑女の方がいいんだ」


ルーシーが大声を出す。

発言内容は俺を非難するものだが、声はからかう響きがする。


「あーゆう大人しめの子が好みなの?」


ルーシーが俺の顔を覗き込む。


大人しめの子とは誰のことだろう?

ユーニスかな。


剣術の授業の時に良く付き合ってくれるのは、ユーニス・ヘインズビーだ。

ユーニスは、モニカの付き人として学校にやって来ているので、好成績を取る必要がないらしい。

そのため俺の相手をしてくれている。


優しい女の子だ。


「ルーシー、そういう質問は貴族相手にするもんじゃないぞ」


俺は呆れながら注意する。


「えーだめなの!?」


「だめに決まってるだろ! 

仮に僕がその子のことを好きで、そのことを両家にバレたらもしかしたら婚約させられるかもしれないし、……これは特に問題ないな。


問題になるのは、既にその子に婚約者がいた場合だ。僕がその婚約者に喧嘩売ったみたいになるだろ」


「略奪愛だ」


パンっと手を叩くルーシー。


「嬉しそうに言うな。

本当に略奪したら、貴族社会での立場がどう転ぶか分からないんだぞ」


これマジだから困る。

婚約者の一族に嫌われる位ならさして問題ないが、一線超えて嫌がらせを仕掛けてくる恐れもある。

貴族社会に火種を持ち込む時点で、不快に思う貴族もいるかもしれない。


略奪愛は悪手でしかない。

だからこそ


「恋バナ禁止」


俺は力強く宣言する。


「えーつまんない」


抗議するルーシー。


「つまんなくていいの。貴族の恋愛は密やかにかつ慎重に行われるものなの。

分かったか、ルーシー。

お前が貴族のお坊ちゃんと恋愛するときも慎重に動けよ」


俺は向こう見ずなルーシーを心配して警告しておく。


ルーシーは驚いたように目をパチパチさせる。


「うちは貴族様とは付き合わないよ」


そう言いながら笑い出した。


「そんなの分からないだろ」


俺は半ば本気で否定した。


男女の仲はマジ意味不明だ。

今笑っているルーシーが今日学校に行って誰かを好きになっても俺は驚かない。


「貴族様が俺ら平民と本気で恋愛するわけないだろ」


ネイトが振り返り俺の発言を否定する。


「だから、そんなの好きになるまで、どうなるか分からないだろ」


俺は反論する。


基本的に貴族と平民の恋愛は成立しない。

貴族側にメリットがないためだ。


だが、ガジャ魔法学校に通う平民は普通の平民ではない。


将来有望な人材だ。

地元領主の騎士団にはじまり、王国軍、上手くいけば王族の近衛騎士団に入る可能性もある。

優秀であればあるほど、彼我の身分差は己の才覚で埋めることが出来る。


対等以上になれば貴族とも恋愛も結婚もすることが出来る。


まあ、これは理屈だ。


恋は盲目という言葉もある。

好きになったら地位も名誉も要らない、駆け落ちしますって展開もある。


「好きになるかなぁ?」


懐疑的なネイト。

可能性は低いので、ネイトが疑うのは仕方がない。


俺が何か言う前に、ルーシーがネイトとの距離を詰める。


「なに? 誰かに好きになってもらいたいの?」


「はあ、何でそうなる! 一般論だ」


慌てたネイトの声が大きくなる。


「それはそれとして、ネイトは誰が気になるの?」


ネイトの怒りを軽く流したルーシーは、恋バナを続ける。


「そういえば、ネイトが剣術の授業の時、女の子と一緒でカイルが羨ましいって言ってたな」


「おい、ミック何言ってんだ!」


ネイトがミックに飛びつきヘッドロックを掛ける。


「ユーニスさんを狙ってるのか。お目が高い」


俺が真面目な顔でネイトを褒める。


「うるせい、お前も何言ってんだカイル!」


ネイトが勢いよく飛んできて俺にヘッドロックを掛ける。


痛いです。


俺とネイトのじゃれ合いを横で見ていたルーシーが一言。


「やはり男子はあーゆうお淑やかな女の子が好きなんだねぇ」


「「……」」


俺もネイトも無言。

これ以上の恋バナは危険だと判断した。


「行くか」


「行こう」


俺とネイトは速足で前へ出る。


「あ、ちょっと待ってよ」


ルーシーが慌てて追いかけてきた。


「「待たない!」」


俺達二人はついに走り出した。


「走るのやめようよ」


「置いていかないで」


ミックとナタリアが文句を言いながら走り出した。


通学路が賑やかなのは、どこの世界でも同じのようだ。

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