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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第3章 ピカピカの1年生
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045 魔法の授業

ついに始まってしまった学校生活。

だだっ広い訓練場の片隅に新入生が集まっていた。

俺も他の新入生と同じように訓練服に身を包み授業が始まるのを待った。


これから魔法の実技訓練が始まる。


俺達の前に20代位の女が立っている。

茶色の髪を腰辺りまで伸ばし一本に纏めている。


温和そうな雰囲気でニコニコと俺達を眺めている。


「では授業を始めようと思います。

私はローラ・アトリーです。これから1年間君達に魔法を教えることとなります。

宜しくお願いします」


ローラが頭を下げる。


「「宜しくお願いします」」


生徒一同も頭を下げる。


「まずは皆さんに質問です。良い魔法使いになるには何が必要でしょうか?」


ローラがにこやかな顔で俺達を見る。


良い魔法使いとは何だろうか?


俺は自問自答する。


それは誰にも負けない魔法使いだ。


そのために何が必要だ?


それは魔法の形を決める想像力、その形を満たす魔素、そして魔法を素早く発動させるための技術力。

さらに強敵に立ち向かう勇気、信念、根性。戦い続けるための体力、状況に応じて臨機応変に対応できる柔軟な思考。

あとなんだ? 優しさ?

とにかく全部だ!


正解は全部!


俺はドヤ顔でローラを見た。


「では……」


ローラは誰かを指名しようと生徒達を見渡す。


「モニカ・フローさん。如何ですか?」


「圧倒的な魔素量です」


モニカは自信満々に断言した。


何言ってんだこの人? 他にもあるでしょ?


俺はモニカの横顔を見る。


魔素一点突破の豪快な回答。

時間が経てば自分の回答に不安を覚えるかもと思って見ていたが、その瞳は揺るがなかった。


っていうか何でこの人俺の隣にいるんだろう?


「た、確かに魔素は魔法を構成する大事な要素の一つですね」


モニカの堂々とした態度にローラが少し狼狽える。


「しかし、困難の状況を打破する際に必要なものは想像力です。

その場その場で最適な行動しなければ死んでしまうような極限の状況下でも想像力があれば生き抜くことが出来ます。

先程モニカさんが答えてくれた魔素量ですが、保有魔素量が多ければ多いほど、魔法の質も規模も回数も向上しますので、あらゆる場面で有利を取れます。

ですが保有魔素量の多寡は個人差があり、その差を埋めるのは至難の業です」


ローラの言葉に生徒達の間で失意の雰囲気が広がる。


保有魔素量の差がどういう結果をもたらすか、15年という短くない人生の中で何度か経験したのだろう。


気落ちしてしまった若者達にローラが明るくも真面目な声で勇気づける。


「差があるものは仕方ありません。そこは割り切りましょう。

そして考えましょう。そういう優位な魔法使いを相手にした時に、どうやって出し抜くかを。

きっと何かあるはずです。

諦めずに活路を探し続けましょう。

諦めずに活路を探し続けることが想像力の源泉となります。

想像力があればどんな困難も乗り越えられる凄い魔法使いになれます。

私は皆さんにそういう魔法使いになってほしいのです!」


ローラが握り拳を作り皆を鼓舞する。

ローラの熱い気持ちが、次第に生徒達に伝わり表情に明るさが戻っていった。


やる気が満ちた。何でもやってやるぜ!

そんな雰囲気だ。


熱い授業になりそうだなと俺も思った。


「というわけで想像力を鍛えましょう。

皆さん、この訓練場を覆いつくす位の炎を想像してみてください」


え?


ローラが課題を出してきた。


訓練場は広い。

山の斜面を切り拓いて造られているので、周囲に民家などの壊してはいけない物も存在しない。

そして思う存分魔法をぶっ放していいように造られているので、とにかく広い。


この範囲の炎を創り出すのにどれだけの魔素が必要になるのか見当がつかない。

その景色を想い描けるのは、村1つ焼き尽くした位の経験がないと無理だと思う。


俺は周囲の反応を窺う。


「そんなデカい炎創ったことないぞ」

「現実感ないよな」

「想像できても魔法にはできないよ」


戸惑いの声が密やかに交わされる。

同意である。


「皆さん、魔法にできないからと諦めていませんか?」


ローラの問い掛けに生徒達の注目が集まる。


「普通に魔法とすると魔素を大量に消費します。

それではできないという人もいるでしょう。

でも、そこで思考を止めないでください。

普通の炎で無理なら、できそうな炎にすればいいんです。

表面だけ高温、内部は低温の炎、それなら出来そうな気がしてしませんか?」


そんなのアリなの? ……アリ……なんだろうな。


ズルのような解決方法だが、ローラが伝えたい想像力とはそういう事なのだろう。

思い込みに囚われるな、ってことだ。


そして、生徒一人一人が実践することとなった。


俺達の目の前に幾度も炎の壁が現れた。

だがその炎の壁は数秒もせずに消えてしまった。


無理もない。


そもそも経験のない広範囲魔法で魔素の消費量が分からないので、完璧な炎を創り出すことが難しい。

その上、炎も均一な熱ではなく表面と内部で熱量が違う。

これを実現させるにはかなりの技術力が要求される。


課題の内容が難しすぎるのだ。


また一人失敗した生徒が項垂れながら、こちら側に戻ってきた。

そしてモニカの番がまわってきた。

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