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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第3章 ピカピカの1年生
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042 入学式

春うらら

柔らかな日射しが地上に降り注いでいる。

冬の間に凍てついてしまった心もその日射しに溶かされ、何か新しいことにでも挑戦してみようかなと前向きになってしまう。


春って怖いね。


心が弾んでいるのが分かる。

もしかしたら真新しい制服に袖を通したせいかもしれない。


新装備とはテンションが上がるものだ。

そして新天地もまた然り。

迷宮や遺跡、密林、新たな冒険の予感は、いつだって心をワクワクさせてくれる!


……だが、俺がこれから赴く新天地は、魔法学校なので若干テンションが下がる。


馬車に揺られ山の中を進む。

この山は魔法学校の施設しかない。


だが、流石は国一番の魔法学校だ。

道の舗装は完璧で歩行者用も併設されている。

これなら歩いて通学することも可能だ。


道の両脇も木々が伐採され開放感があり、眼下には学術都市が一望できる。

散歩コースには持って来いだ。


「この景色をこれから三年間眺めるのか」


ため息がこぼれる。


「申し訳ない。あれから何度か話し合いの場を設けたが、あの頑固おやじめ、魔法学校への入学だけは頑として譲らなかった」


隣に座るデイムが忌まわし気に顔をしかめる。

頑固おやじとは、王国軍フット支部の支部長のことである。


「いえ気にしないでください。魔法学校への入学は真っ当な進路ですから。逆に有難い位ですよ」


乾いた笑みを浮かべる俺。


この進路がエリートコースであることは認める。だが俺はこの国のエリートになりたいわけではない。

俺がなりたいのは自由人だ。

それを実現させるために狩人ギルドにも加入した。


この三年は、俺にとって雌伏の時。

この三年間で一人前の狩人になって、卒業とともにこの国からおさらばする。


完璧な計画。

だから魔法学校に通うのは都合が良いと言えば都合が良いのだ。


「俺のことよりも、デイムさ……お祖母様のほうこそフット領を空にして入学式に出てよかったんですか?」


気を抜くとデイムさんと他人行儀な呼び方をしてしまう。

今の俺は、カイル・フットのなりすまし。

ボロが出ないように常日頃から言動には注意しなければいけない。


「孫の節目の行事だ。出ないわけにはいかないよ」


デイムは口角を上げる。


この笑みがどういう笑みなのか俺には分からない。

だが、少なくとも嫌々義務感で来たというわけではなさそうだ。


デイムの思惑は計り知れない。

そして計り知ってはいけない類の物だ。


フット領領主であり宮廷魔法士であるデイムの視点は権力者の視点だ。

同じ視点でこの国を見れば、他の権力者の視界に入ることになる。


権力闘争には巻き込まれたくない。

そのためにも一学生として学業に励むのが一番安全だと思う。


行きたくないが行くっきゃないと!


俺は気合を込めて馬車から降りた。

目の前に聳えるのはレンガ造りの大講堂。

新一年生の関係者がまるっと収まってしまうのも納得の大きさだ。


「では行こうか」


俺が大講堂を見上げているとデイムが俺の肩を抱き歩を進めるように促す。

その後ろに執事のロイが付き従っている。


フット領貴族のお出ましだ!


意気揚々と俺達は大講堂の内部に足を踏み入れた。


「おお」


感嘆の声が少しこぼれる。


明るい。

大きな窓ガラスから春の陽射しが差し込み会場全体を柔らかく包んでいる。


演壇は会場が半地下構造のため一番底にあるようだ。


「私達は後ろの席だから」


デイムが指差す会場後方の席には大人達が我が子の節目を見届けようと式が始まるのを心待ちにしている。


「新入生は前の方だ。行っておいで」


「はい」


俺はデイムから離れ一人歩き出した。


「前から詰めて席についてください」と案内役の学生が誰彼構わず同じ発言を繰り返している。


着席する場所は貴族平民の区別はなさそうだ。

つまりこの魔法学校ではそういうイズムで学校運営を行っているという事だ。


別に貴族風を吹かせるつもりはないので全然問題ないが。


俺は案内役に言われるがまま席に着いた。


隣は女の子だ。

座る時に会釈だけはしたが特に会話はしない。

俺がコミュ障だからではなく皆静かに座っているから会話するのが場にそぐわないのだ。


しかしなんだね。この学校の制服、男女ともにズボンなんだね。


隣の女の子の太腿部分に視線を落とし、そのまま横に視線を流し座っている新入生の下半身をチェックする。

やはり男女とともにズボンである。


これはあれだね。楽しくないよね。

この学校の伝統なのか、動きやすさを重視した結果なのか分からないが、

もしよろしければ選択肢としてスカートがあってもよいのではないでしょうか?


選べる選択肢が多いのは良い事である。

理事長に進言してもいいかもしれない。


「隣いいかな?」


真剣に制服改革を思案していたら、男子生徒に話しかけられた。


「ええどうぞ」と言おうと顔を上げる。


「ええ……!」


俺の言葉は止まった。


整った眉、切れ長の目、澄んだ瞳、筋の通った鼻梁。

微笑んだ口元から白い歯が輝いている。


は!? イケメンなんだが!?


ビックリドッキリして男子生徒の顔をまじまじと観察してしまう。


イケメンである。


顔面ジャッジをなんとか完了させて、「どうぞ」と告げた。


俺の妙な間に気分を害した様子を見せず、「ありがとう」と告げて俺の隣に座った。


流石はエリート校。入学してくる生徒のレベルも高い。


なんだかんだと目新しいものがあり俺はそわそわした気持ちのまま式が始まるのを待った。

新入生用の席は大分埋まってきた。


そろそろかな。


各所にいた案内役の生徒が会場脇に移動して行く。


動く者がいなくなり会場が静かになる。

そのタイミングで、演壇に一人の男が現れた。


白髪。高齢だと分かる。

だが足取りはしっかりしていて老いを感じさせない。


老人は演壇の中央に立ち新入生を見澄ます。


「皆、良い顔をしておる」


老人も顔面ジャッジを済ませたらしい。

満足気な深い息継ぎをして、そして声を張る。


「私はこの魔法学校の校長を務めるマイケル・ワイマン。ようこそ、新入生諸君! ガジャ魔法学校は諸君らを歓迎する!」


こうして、校長の歓迎の言葉で俺達の入学式が始まった。

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