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魔鳥の餌となれ

モーリス村で一泊した俺は

今度は山で一泊するために指定された地点に移動していた。


整備された果樹園から脇の逸れ山中に入ると木々に視界を遮られ自分がどこにいるか分からなくなる。

迷子にならないように大人達の背中を追う。


前を歩いているのは兄弟子マーカスを含む大人組。

マーカスの隣を歩くのは、カレンの姉弟子であるエリノア。

二人の先を歩くのは先導役であるチャドとデレク。


一行はそれに俺とカレンを加えた計六人。


モーリス村に集合したアーロン組はもっと大勢いるが

魔鳥の警戒心を刺激しないように少人数の班に分かれて移動している。


俺はカレンの横顔を盗み見る。

生真面目な表情で前を見つめている。

だが、その顔色は青白い。


顔色が悪いのは寒さだけが理由ではないと思う。


今回の作戦は、参加者のほとんどが何もしない。

やる事といえば二人一組になって

魔鳥を誘き寄せるための餌となり、決められた地点に留まり続ける事だけだ。


餌である。

俺達は今、魔鳥の餌となるために自らの意志で足を動かしている。

まるで見えない檻に向かって歩いているようだ。

どうかしている。


足元がふわふわしていて歩けている気がしない。

自分でも緊張しているのが分かる。

頭では平静であろうと努めているが肉体は怖気づいているのだ。


それでも足を動かし続ける。


狩人としての責任感なのだろうか?


命を懸けられるほどの責任感が自分の中にもあったとは驚きだ。

なんて自画自賛して気を紛らわせてみる。


俺は気持ちを上向かせて顔を上げる。

エリノアが後ろを向くタイミングと重なった。


「「……」」


しばし見つめ合う。


「どうした少年、元気ないぞ」


エリノアが笑みながら近づいてくる。

玩具を見つけた子供のような目だ。


いじられる!


瞬時に理解する俺。

だが回避する術はない。


「緊張してる?」


俺を気遣うような問い掛け。

ここは素直に答えるべきだ。

ここで意地を張ると余計に面白がられていじられる。


俺はエリノアの反応を学習していた。

エリノアと意地っ張りマーカスの会話によって。


「そうですね。かなり緊張しているみたいです」


俺の返答にエリノアは目を丸くする。

俺が肯定するとは思ってもいなかったようだ。


そもそも俺には張る意地などない。

怖いものは怖い。


「ふーんそうなんだ。確かに緊張するのは仕方ないよね。今回の作戦は無茶が過ぎるからね」


エリノアは納得と言わんばかりに頷く。


「カレンは緊張していない?」


「してません!」


エリノアの問いにカレンが即答した。


え?


俺はカレンを見上げる。

やはり顔色は悪い。

その表情からも余裕のよの字も感じられない。


あなた緊張してるでしょ? カレンちゃん。


内心でツッコむ。

俺がそう思うのだから


「アンタ、緊張してるでしょ?」


当然エリノアも同じツッコミをする。


「いえ、そんな事ないです」


再度否定するが、言葉尻が弱くなる。

カレンの弱気な態度がエリノアを引き寄せる。


「本当に~嘘はいけないな~」


「嘘じゃないです」


カレンはエリノアに肩を組まれ逃げ場を失ってしまった。


理解できない。

なぜカレンは意地を張るのか?


カレンが緊張しているのは明白だ。

ビビっていると思われるのが嫌なのだろうか?


もしそうだとしても嘘の申告は仲間を窮地に追いやる愚行だ。


出来ない事を出来ると言われれば信じて任せてしまうし、

その結果、フォローが遅れ、最悪失敗してしまうこともある。


だがら仲間内では正確な情報を共有すべきなのだ。


「エリノア、あんまり絡むなよ」


マーカスが釘をさす。


「え~何でさ~」


エリノアが不満の声を上げる。


「新人が気合入れてんだ。水差すんじゃねーよ」


「気合? 入れてるの?」


エリノアがカレンに問う。

カレンはエリノアに後ろから抱きしめられた格好になっていて居心地が悪そうだ。


「はい」


カレンは小さい声だがしっかりと答えた。


「ふーんそうなんだ」


エリノアは独り言ちる。

さらなる追求をしようかカレンの様子を見ながら迷っているようだ。


そこに助け船が出る。


「もういいだろ。これから体張るんだ。

へらへら笑って情けない事言う奴よりよっぽど覚悟決まってるぜ」


マーカスが俺に衝突しながらカレンに救いの手を伸ばす。


嫌味な奴だ。


だがそういう事なのだろう。


出来ない、怖いと弱音を吐けば

マーカスのような先輩狩人に悪印象を持たれてしまう。

そして今日みたいなことが幾つか重なれば、狩人に向いていないと評価を下されてしまうかもしれない。


カレンは狩人の道を断たれることを恐れている。


良くない考えだ。

先輩が無慈悲な査定をすれば後輩は失点を恐れ萎縮してしまう。


現にカレンはマーカスが発言してから表情が強張ったままだ。

マーカスの発言がカレンを追い詰めている。


俺が「弱音吐いてもいいだろ」と抗議してもマーカスは強く否定するだけだ。

その否定の言葉は俺だけでなくカレンにも傷をつける。


ここは黙っておくのが正解か。


俺は小馬鹿にするような目を向けてくるマーカスを睨みながら沈黙を選択する。


「お前ら、仲良くしろよ」


睨み合いの最中、仲裁の声が割って入る。

先導役のチャドだ。

この中では一番の年長者でもある。


「無理」


「嫌」


即断で拒否する俺達。


そんな俺達の態度にチャドは盛大にため息を吐く。


「お前らなぁ、これから囮になるんだぞ。協力しないと助かる命も助からないからな」


「チャドさん、協力するっていっても何するんですか? 魔鳥に襲われたら二人仲良くマヒるだけでしょ?」


苦言を呈したチャドにマーカスが食って掛かる。

マーカスはムカつくが発言内容には同意する。


俺達が二人組で囮になるのは、

麻痺ガスによって行動不能になる時間を二人でずらす事による時間稼ぎのためだ。


魔鳥は慎重な性格をしているため一人目が完全に行動不能になっても二人目が行動可能ならば襲ってこない。

そのため魔鳥は二人が完全に行動不能になるまで麻痺ガスを吐き続けることになる。


二人でいることにメリットはあるが、だからといって協力することはない。

二人で麻痺ガスを浴び、頑張って抵抗して、最終的に二人仲良く行動不能になる。


俺達の仕事はそれだけだ。

それが魔鳥を狩る者への俺達の捨て身の協力だ。


「むしろチャドさん達が頑張って下さいよ。俺らの命、チャドさん達に預けるんですから」


軽口のようにも聞こえるがマーカスの瞳は真剣だった。


先導役であるチャドとデレク。

隠密行動を得意とするためウォルトより今回の魔鳥狩りに指名された狩人達だ。


この二人が魔鳥を狩る。

この二人だけが魔鳥狩りを許されている。


俺達は待つだけだ。

成功か失敗かを。

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