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俺の弱点発覚

作戦会議でモーリス村には明日の昼に集合することが決まった。


俺は兄弟子であるマーカスに、「一緒に行きますか?」と誘ってみたが、「一人で行け」と冷たく断られてしまった。


だったら仕方がない。

一人で行くか最初は思ったが、地元民であるダリアが村に帰るときに一緒に付いて行けばいいのだと閃き、今一緒にモーリス村に向かっている。


「ふんふんふふーん」


はなうた交じりに闊歩するダリア。


ご機嫌ですね。


俺は、なぜダリアが機嫌がいいのか、その理由を知っている。

魔鳥に襲われたテレサとトムが少しずつだが麻痺から回復してきたからだ。


テレサとトムは学術都市の治療院に入院している。

ダリアはそこにほぼ毎日お見舞いに行っている。

そしてその帰りに俺の所に寄りあれやこれやと喋って村に帰っていくのだ。


二人の容態が快方に向かっているのは喜ばしいことだ。

だから興奮して話すダリアの圧にたじろぎながらも俺は聞き役に徹することができた。


今日もそんな一日だった。

ただ一点違うところは、俺がダリアに道案内を頼んだことだ。

無謀かもしれないと思った。

今日案内を頼んで、そのままモーリス村へ出発することは。


だが、ダリアは二つ返事で了承してくれた。

俺はダリアの能天気さに不安が薄れるのを感じた。


子供が日帰りで行って帰れる距離なのだ。

大した距離ではないはずだ。


状況を鑑み実現可能だと判断した。

ダリアを信じるんだ。


俺は前を歩くダリアの背中に熱視線を送る。


「じゃあそろそろ走ろっか?」


ダリアがこちらに振り向く。


都市内はずっと歩きだったが、今は都市から離れ人の通りも少なくなっている。

ここからなら走っても誰かにぶつかるということはないだろう。


「かまわない」


俺は短く答える。

走るという行為は貴族として優雅さに欠ける。


まあ誰も見ていないからいっか。


ダリアが身を屈め、俺もそれに合わせる。


!?


一瞬で差が開いた。

傍にいたダリアの全身がしっかりと視界に収まった時、俺は走るのをやめていた。


なんだと!?


彼我の差に呆然とする俺。


「カイル様ぁあー、なにぁしてんのー?」


ダリアが大声で呼びかけてくる。


なにしてんの?って俺は走っただけだよ。

お前こそ何してんの?

めっちゃ速かったんですけど。


俺はダリアの走力にビビる。

子供が出せるスピードではない。


有り得ない。

いや有り得ないなんて有り得ない。

なぜなら、ここは魔法が存在する世界なのだから。


魔法か。魔法で速く走っているのか。


ダリアの速さの秘密に当たりをつける。


炎も雷も創り出せるのだ。

イメージそのままに最高速で走り続ける自分を創造すればよいのだ。


「ふー」


俺は一度深呼吸して意識を集中させる。


内に湛える魔素を掬い上げる。

そして颯爽と走る俺を編み上げる。


準備は完了。


「いくぞ」


現実を魔法で上書きする。


俺は走った。


大地を力強く蹴り前に進む。

景色が後ろに流れていく。


さらに力を入れる。

頬に当たる風が強くなる。


気持ちいい。


俺は走るのが好きだ。

もっともっと速く走りたい。


ダリアの元まで全力で走った。


「はあ、はあ」


息が上がる。

心臓が胸を打つ。


「何してるんですか?」


ダリアが胡乱な目で俺を見る。

そんな目で見ないで欲しい。


なんだその不可解な生物を見つけたみたいな目は!


確かに俺は異世界人だ。

初めて遭遇した生物だろうさ。

でも俺は俺だ。

不可解でもなんでもない。


俺はちゃんと魔法を発動させた。

でもイメージを現実に反映できなかった。


何だこれ?

何でできない?


初めての経験に俺は混乱する。


魔法が不発?

いやそんなことはない。


俺は指先に火を灯す。

魔法は発動できる。


やり方が間違っているわけではない。


俺はもう一度走り出した。


地面を蹴る。

強く蹴る。

その度に速くなる。


だがこれは筋肉の力だ。

魔法ではない。

イメージした自分は遥か前方を走っているはずだ。


魔法が効かない。


つまりそういうことだ。


「いや、どういうことだよ」


自分が出した結論に納得ができない。


「カイル様、何してるんですか?」


ダリアが追いつきざまに質問を投げかけてくる。


「ダリア。お前走るとき魔法使っているか?」


俺はダリアの質問を流し自分の質問をぶつける。

ダリアは俺の様子に戸惑いながら口を開く。


「使ってますよ」


欲しかった回答を得た。


生身の力ではない。

魔法を使うのが正解なのだ。

問題は魔法を使っているのに、効果が出ていないことだ。


「むしろ何でカイル様は使ってないんですか?」


ダリアが俺の心をえぐる。


使ってますよ。と言いたい。

だが、何でできないんですか? と追い打ちをかけられそうで言えない。


できない。

それは認めるしかない。

だが、なぜできないのか?


俺の魔法はこの肉体に作用しない。

自分の肉体だったら上手くいったのか?


検証不可能な謎が発生する。


「どうしたんですか?」


ダリアが俺の顔を覗き込んでくる。

俺はそれを押し返しながら黙考する。


ダリアは自分の魔法を自分の肉体に作用させている。

これが普通だ。

だが俺は、自分の魔法をカイルの肉体に作用させようとして失敗した。


俺はカイルの手を見る。


この肉体が借りものだからなのか?


絶望が忍び寄ってくるの感じる。

これがソウルチェンジの弊害ならば、俺にはどうすることもできない。


肉体強化の魔法は俺にはできない。

それを認めてしまうとこの世界も違って見えてくる。


俺を首をかしげながら見つめているダリアも俺よりも強い生物だ。

走力が敵わなかったのだ。腕力もその他の身体機能も敵わないだろう。

子供のダリアに勝てないのだから大人相手には比較するのもおこがましいほどの実力差がある。


なんて恐ろしい世界なんだ。


全身に鳥肌が立つ。

防寒用に着こんだ衣服も内から生まれる寒気には意味をなさない。


こんな世界で生きていけるのか?


不安で膝が笑いそうだ。


「カイル様、聞いてます? もう行かないと夜になっちゃいますよ」


俺に頭を押さえられていたダリアが力尽くで懐に入ってきた。


負けたくないと思った。

俺は全身に力も込めダリアを押し返す。


「うー、何なんですか!?」


ダリアが文句を言いながら自分の額をグリグリ擦り付けてくる。

力は強いが俺でも抵抗できる。


ダリアは本気を出していない。

じゃれているだけだ。


俺を信じているからこそ、こうして無防備な姿をさらしている。

ダリアが自分より強いからといってビビっていては格好悪い。


俺はダリアを押さえていた手を放す。

勢いのままダリアが俺の胸に飛び込んでくる。


俺は両手でしっかりと抱きしめる。


「え? え? なんで?」


拘束されたダリアは俺を見上げる。


俺は肉体強化の魔法を使えない。

ならどうする?


俺の周囲で強風が吹き荒れる。

突然の事態にダリアが、「カイル様、風が風が」と慌てているが無視する。


俺は速く走れない。

だったらどうする?


俺は風を纏いて空へと浮上する。


「えーーーー」


ダリアが叫びながら俺にしがみつく。


良い景色だ。

小さくなった都市の街並み。

収穫の終わった畑。

色見の少ない冬の景色が、夕日に照らされて赤く燃えている。


「ダリア、モーリス村はどっちだ」


俺はダリアに問いかける。


「えーーえー?えーーー」


えーしか言っていないがダリアは自分の村の方角を指差す。


「よし行くぞ!」


俺は速く走れない。

だったらどうする?


「えー空飛んで行くのーー!!」


その通りだ!


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