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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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死刑はイヤなので魔法学校に行きます

俺は死刑宣告を受けた。

だが、はいそうですかと素直に受け入れるわけにはいかない。

何か逃げ道はないのかとデイムに打開策をを求める。


「それは裁判で刑が確定した場合だろ」


デイムが静かな口調で言葉を発した。


「私が王都に報告しないと思っているのか?」


支部長が眉根を寄せ凄んでみせる。


「報告してもしなくても私は罪には問われないはずだ」


デイムの自信ありげな表情。

はったりではなさそうだ。


「なぜだ!? 宮廷魔法士として裁判を押しつぶす気か?」


「そんな横暴は陛下も他の宮廷魔法士も許しはしないさ」


デイムはフッと鼻で笑う。


「簡単な話さ。カイル・フットは生きている。

精霊召喚は実行されなかったし、生贄になった者もいない。

罪を犯した者がいなければ罰を受ける者もいない」


「馬鹿な話を。現にこの子はカイル・フットではない。本人がそう言ったではないか」


支部長の指摘は正しい。

だが、デイムは居直っている。

罪を認めた直後に、それを無かった事にしようとしている。

その発言の一貫性のなさに支部長は戸惑いの表情を浮かべる。


「はて? そうだったかな?」


とぼけた口調のデイムは口元に笑みを浮かべ俺を見る。


マジで? この場面で?


イヤな場面で役割がまわってきた。

支部長は次に出てくる俺の言葉を予見して目を見張る。


仕方がない。デイムの策に乗るとしよう。


「申し訳ございません。先ほどの話は全て作り話です。

僕は止めたのですが祖母がどうしても支部長殿の驚く顔が見たいと言って引かなかったもので、心苦しくはあったのですが一芝居打たせてもらいました。

あっ、もちろん僕は異世界人でも精霊でもありません。

正真正銘のカイル・フット本人です」


「ふざけるな!」


支部長が俺を睨みながら拳を振り下ろした。

ドン!

テーブルが震えその衝撃でカップから紅茶が零れる。


「おちょくるのもいい加減にしろ! 何なんだ一体!? 

罪を認めたと思ったら一転全否定しおって。

しらばっくれるなら、最初からしらばっくれれば良いだろう!!」


こぇぇ。


怒りの沸点を超えてしまった。


支部長はカイルの目から見ると自分より二回り以上大きい。

それが今顔を赤くし荒い息を吐き出している。

まるで怒れる熊のようだ。


「まあまあ、そんな怒りなさんなって」


デイムが俺を庇うように片腕を広げる。

その発言は煽りそのもので支部長も素早くデイムを睨んだ。


「カイルの顔見知りに、この子がカイル本人だって強弁してもちょっとした仕草や言動で違和感を覚え、いずれ嘘だとばれる。

……アンタがこの子に会ってから、ずっと疑いの眼差しを向けていたようにね」


やっぱりばれるよな。

カイルは支部長とも交流があった。

支部長はカイルと俺の違いに気づける人間だった。


「……部下から報告を聞いた時、カイル君は精霊に喰われたのだと思った。

だが貴女であれば、もしかしたらとも思った」


怒りを纏っていた支部長は言葉を紡ぐごとに意気消沈していった。


「だが実際会ってみればカイル君ではないと分かった」


支部長が俺を見る。俺ではないカイルの面影を見ているのだと分かる。


「すまないね。私の力不足だよ」


デイムが謝る。


「私に謝る必要はないでしょう。それに一番辛いのは貴女のはずだ」


支部長がデイムを気遣う。


「すまないね」


「……」


お通夜のようなしんみりした空気が流れる。


カイルは生きていますよと言いたいが、そういう場面ではないということも重々承知している俺は何も言葉に出来ず項垂れる二人を交互に見ることぐらいしかできなかった。


しばらくして先に回復したのはデイムの方だった。

紅茶を一口飲み話を続ける。


「アンタみたいに、気付いてくれる人もいる。

だけど王都にはカイルを知っている人間はいないからね。

この子をカイル・フットではないと否定できないのさ」


「だから裁判は成立しないと言いたいわけか」


「その通りさ」


支部長は腕を組んで瞑目する。


デイムの無かったことにしとこう作戦は上手く行くのか?


被害者はいない。

召喚現場を目撃した者もいない。

あるのは状況証拠だけだ。


突然強くなったカイル・フットという存在。

つまり俺を容認できるか否かで全てが決まる。


「うーん」


俺とデイムは小さな唸り声を出す支部長を見守る。

支部長がおもむろに瞼を上げ俺を見据える。


「……」


「……」


俺の人品を見定めようとしている。

心の奥を覗き込もうとする無遠慮な視線。


この視線を逸らしてはいけない。


俺を背筋を伸ばし支部長の視線と対峙する。


「……」


「……」


喋った方が良いのか? 

支部長が納得できる言い訳を。


沈黙が続き、俺は悩みだした。


俺はここに悪さをしに来たわけではない。

ただ自分独りの力で生きていきたいだけだ。


狩人になって魔獣を駆除するのだから、この国にとっても有益なはずだ。

俺は自分の有用性をアピールすべく口を開こうとする。


だが、支部長の視線に射抜かれ声が出ない。

出ないというか出そうとすると支部長の圧力に押し負ける。

そんな気がする。


だから、俺は体に力を入れ無言で耐え続けた。


「この子は強すぎる。強くなってしまった」


俺から視線を外した支部長はデイムに語り掛ける。

デイムは頷き続きを促す。


「才ある子供は魔法学校に入る決まりだ」


支部長が俺を見る。


魔法学校?


「その強さで魔法学校に入学しないのは有り得ないことだ。

それに将来その強さが認められた時、魔法学校に在籍した記録がなければ周囲の人間も怪しむだろう」


確かに。

強力な魔法使いを国が野放しにしておくわけがない。

どうにかして管理しておきたいはずだ。


その最初の一歩が魔法学校への入学。


俺はデイムに支部長の発言の真偽を問う。


デイムは首肯し自分の考えを話す。


「実力を隠して生きていくのならばわざわざ学校に行く必要はありません。

しかし狩人として魔獣と戦うのであれば全力を振るえる方が良い。命に係わりますので」


それはそうだ。

ハンデを背負って魔獣と戦う気は俺にはない。

やはり学校に行くべきか。


俺が思考中、支部長が長い鼻息を吐いた。


「故意に実力を隠せば隠匿の罪で裁かれることになる。

貴方も、そしてそこのいるフット卿も」


不機嫌そうな顔をした支部長がデイムを睨む。

デイムは肩をすくめてみせる。


「……」


このバアさんしれっと違法行為をやってくるので油断できない。

俺は犯罪者にはなりたくない。


「……」


だがデイムは罪を犯してでも魔法学校に入学しない選択肢を示した。


俺クラスの実力者が集う学校。

将来の国の戦力と期待されている子供達。

忠臣となる者もいるだろう。

そして臣では飽き足らず王とならんとする者も。


つまり面倒事だ。


その面倒事に巻き込まれる位ならひっそり暮らした方がマシだとデイムは言いたいのだろう。


俺も学校には行きたくない。

早く独り立ちしたい。


しかし実力を隠して生きていくのはしんどすぎる。

あらゆる場面でその点を考慮して動かなければならない。それも一生。

絶対ムリ。


俺は頭を抱えそうになるのを必死に抑え苦悶する。


「……」


行くか。行くしかないか。行くしかないだろ。

ここが我慢のしどころだ!


俺は自分を納得させ覚悟を決めた。


「魔法学校に行きます」


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