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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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事情聴取デス

俺は紅茶から立ち昇る湯気を見つめていた。

隣にはデイムが座っている。

そしてテーブルを挿んだ向こう側には

王国軍フット支部の支部長が不機嫌そうなオーラを発しながら座っている。


笑顔なし。

俺達がこの部屋に通されてからずっと険しい表情をしている。

ロイより年下に見えるがそれでも立派な中年のオッサンだ。

恰幅がよく貫禄もある。

だから、このオッサンが支部のボスとして君臨しているのも納得できる。


「……」


三人とも無言。

そこにカタン、と小さな音が響く。

紅茶を運んできてくれた女性がドアを閉めて退出していったのだ。


しばしの沈黙の後、支部長が口を開いた。


「さて、まずは労いの言葉でも贈りましょうか。今年もご苦労様でした」


労う気のない言葉を投げ捨ててきた。

最初から喧嘩腰だ。


「領地を守るのが領主の務め。労いの言葉なんて不要だよ」


デイムもデイムでつれない言葉で支部長の言葉を叩き落とす。


「いえ、そういうわけにはいきません。我々軍もこのフット領を守護するためにこの地に留まっているのですから。その守護の任を果たさず、そのうえ領主に肩代わりさせたのですから、礼の一つも言わねば立つ瀬がありません」


「立つ瀬はあるだろ。あんた達軍がここに陣を張っているおかげで、領民達は安心して暮らしていける。

私も領主としてあんた達がいてくれて良かったと思っているよ」


これは本心だろう。

デイムが保有する騎士団だけでは天覧山脈から雪崩れ込んでくる魔獣の対処は出来ない。

感謝は本物のはずだが、デイムは鋭い視線を支部長に向けたままだ。


「礼など不要ですよ。我々はこのフット領を守護するという同じ目的を持った仲間ではないですか」


意外なことに支部長が歩み寄りを見せた。


「ああ、そうだね。確かに仲間だ。だからこそ、私は安心して獣人達を助けに行ける」


デイムが仲間であることに同意し、そこから語気を強めて自分の意志を示した。


「理解できない。なぜあんな奴らを助けに行くのですか? 奴らは侵略者だ。天覧山脈に拠点を築き少しずつフット領に近づいてきている」


支部長は獣人達を痛罵しデイムの行為を非難した。


「まだ侵略されていない」


デイムは支部長の圧力を跳ね返し断言した。


「時間の問題だ! 貴女はその時間を早めようとしている!」


デイムの現実逃避じみた言い訳に支部長は抑えきれず大声を出した。

問題発言だ。俺は目を見開いた。


「そんなつもりはさらさらないよ。彼らだってこの国との戦争は望んではいない。

だからこそあの街で思い止まってくれているんだ。

あの街は守らなくちゃいけない。私達のためにも彼らのためにも」


「あの街に守る価値なんてない! 

魔獣の群れに飲み込まれて無くなった方がマシだというのに、それを貴女が中途半端に手助けするからあの街は滅ぶこともなく生き長らえている」


「あの街は有用だ。あの街があるから魔獣共はフット領まで狩りに来ない。そうだろ? 今回の魔狼の襲撃でこちらに被害があったのか?」


「……」


責めていた支部長が押し黙る。


「無かっただろ?」


デイムが念押しするように問う。


「魔狼による被害は確かに無かった。だが、そのために罪を犯した者がいる」


支部長がデイムを真っ直ぐ見つめる。興奮して顔が赤くなっているがその瞳は理性的だ。


罪って何だ?

被害ゼロって人的被害はゼロって意味なら物品が壊れたのか?

魔狼を殺すために家を焼いたとか、武器屋から武器を盗んで戦ったとかそういうことだろうか?


「……」


デイムは何も言わない。

口論のせいで吐く息が荒くなっているが発言できなくなるほどではない。


何故だ?


「貴方は何者ですか?」


デイムでは埒が明かないと判断したのか支部長は俺に話しかけてきた。

デイムの時とは違い、慎重な態度だ。


「……」


質問が解せない。

俺が誰かって?

カイル・フットですよ。見れば分かるでしょ。って言えたら楽なんだが。


この体はカイルのものだ。支部長だってカイルの容姿は知っているはずだ。

それなのに何故そんな分かり切ったこと聞くのか。

意味が分からない。


「……」


いや、意味なら分かる。

俺がカイル本人ではないと疑われているのだ。


「……」


目を逸らすと怪しまれる。黙っていても怪しまれる。

早く答えなければと思うがこの話の流れは嫌な予感しかしない。


「その子はカイルじゃないよ」


デイムが俺の代わりに答えた。

俺は身を強張らせる。

果たして俺の正体を明かすことが正解なのか。


「では、精霊に自分の孫を喰わせたのか!」


驚きの声を上げ支部長は立ち上がった。

信じられないといった表情、そして軽蔑と怒りのこもった瞳。

支部長はデイムの発言から精霊召喚が行われたのだと推し量りカイルを精霊の供物に捧げたことを怒った。


「精霊ではないよ。別の人間の魂さ」


デイムは支部長の怒りを静かに受け流す。


「別の人間? 魂を入れ替えたというのか? そんな事が出来るのか?」


愕然とした表情で俺とデイムを交互に見る。


「出来たのは偶然さ。私も精霊が出てくるもんだと思って身構えていたが、実際に出てきたのは異世界の人間だったんだから今のあんた以上に驚いたよ」


デイムは自嘲な笑みを浮かべる。


「異世界の人間とは、どういうことか?」


デイムが俺を見る。

召喚がらみの事は当人が説明しろということか。

仕方がない。


俺は召喚の経緯を説明し始めた。

俺が魔法の存在しない世界出身であること。

学生の身分で早く独り立ちしたかったこと。

カイルが異世界召喚を持ち掛けたこと。

お互いの肉体は契約相手が管理すること。

俺は狩人としてこの世界で生きていきたいこと。


支部長は俺が発言する度に質問をぶつけてきた。

魔法なしの世界でどうやって生きていくのか?

どうやってカイルと接触したのか?

どうやってこちら側に来たのか?

肉体の乗っ取りは他人へのなりすましが可能だ。

貴族の子弟になりすまして何をするつもりなのか?


俺は質問には素直に答えた。

召喚がらみの事は喚ばれただけの立場なのでよく分からないこと。

貴族になったのも全くの偶然で、むしろこの立場を放棄したいと思っていることなど。


「有り得ない」


支部長は口元に手をやり呟く。その額には汗がにじんでいる。

否定したい気持ちは理解できるがこれは事実だ。


俺もデイムも同意の声を掛けず支部長の逡巡を黙って見守った。


「有り得ないことだが、この話が真実なら」


そう言って支部長は憐れむような眼差しをデイムに向けた。


「フット卿、貴女は死刑となるでしょう」


悔しさの滲む声に俺は目を見開く。

支部長が嘘を言ったように見えない。

冗談だろとデイムの顔色を窺うが驚きも恐怖もない真剣な表情で支部長の言葉を受け止めていた。


デイムが死ぬ!?

なぜ?


俺の不理解を察したのか支部長が詳細を語り出した。


「まず人間を使った精霊召喚は犯罪だ。

精霊召喚は人間の魂を供物にしている以上それは人殺しと変わらん。

しかも供物にされたのが貴族なら貴族殺しも罪に加わる。

そして召喚した精霊を私兵として使うことも禁じられている。

これらの罪を重ねて犯したのが、獣人の保護であったならば利敵行為、国家への反逆の意志ありとみなされてもおかしくない」


人殺し。

貴族殺し。

精霊の私兵化。

国家反逆罪。


確かに死刑になってもおかしくない罪状だ。


俺は今まで気にしないできた。

確かに生贄召喚は外道な手段だと思っていたが、デイムもカイルも覚悟が決まりすぎていて本人の意志があればそれで済むものなのだと思い込んでいた。


だが外道な行為は罪なのだ。

そして罪には罰がある。


「これらの罪が裁判で認められれば、フット卿は爵位剥奪と領地没収の上、家族もろとも死刑。そして今回の件に関わった者も合わせて死刑となるだろう」


そう死刑になるのだ。

支部長は怒っているのか悲しんでいるのかよく分からない複雑な表情でデイムと俺を見つめている。


「……」


その瞳から決して俺達の事を憎んで発言したわけではないのだと分かる。


まあ、色々言いたい事はあるが、どうして支部長さんは俺の事を見つめているのだろうか?

念のため聞いておこう。


「おれも?」


支部長は神妙な顔で頷いた。


俺も死刑です。

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