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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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異世界召喚、無事成功

2週間に1回ペースで投稿していこうと思います。

真っ白な世界。

何も見えない。


でも、何か見えそうな気がする。

視界の端でちらちらしている。

だが、上手く捉えきれない。


俺は何も見ようとしているんだ?


自問してもしょうがない。

答えは捉まえてみれば分かることだ。


集中。

数多ある点滅に意識を向ける。

もうちょっとだけ集中。

一つの光点に狙いを定める。


点はだんだん大きくなり視界をある景色へと上書きした。


誰だ、このひと?


明るい茶色の髪、同じ色の瞳。

優しい眼差しを向けている。

身体に触れている柔らかな胸が心地よい。

安心感というほかない感情で満たされ、眠気が襲ってきた。


やばい!


とっさに目を背けると、次の景色が視界を染め上げた。


男の後ろ姿。

少し離れた場所に居る。

俺は息を弾ませ走っている。

男は俺に気づき驚いた顔をしながら膝を突く。

俺は嬉しさのまま男の胸に飛び込んだ。


また景色が変わる。


今度は何だ?


誰かがシャツを引っ張っている。

振り返ると小さい女の子がいる。

なぜか泣きそうな顔をしている。

一瞬、ぎょとするが、すぐに謎は解ける。

三つ編みの片方が解けている。

この程度で泣くとか、おかしくて笑ってしまう。

俺は三つ編みを編み直すために柔らかな髪に触れた。


おかしい。

俺は三つ編みの編み方なんか知らない。


考える暇もなく次の景色が迫る。


見上げる横顔を自信に満ちている。

白髪交じりの茶髪は不規則に揺れている。

頬をなぶる熱風につられ視線を動かす。

その先には大きな炎が中空に浮かんでいる。

すごい。すごい。

飛跳ねて喜ぶ。

はしゃぎすぎたせいか笑われてしまった。


また景色が変わる。また変わる。すぐ変わる。

目まぐるしい変化が襲ってきて頭が追いつかない!


!!!

俺は目を開けた。

ここはどこだ?


見知らぬ天井、高い天井に大きな照明器具がつり下がっている。


俺の部屋じゃない。


「カイル!」


唐突に名前を呼ばれ顔を向ける。


目の前に居るのは

「お祖母様」

祖母は目を見開き慌てて近づいてくる。


「カイル! カイルなのか!?」

俺の右手を握りしめ顔を覗き込んでくる。


なんて顔をしているんだ。


婆さんは落胆したように眉間にシワを寄せ、それでいて嬉しそうに口角を上げている。


俺はゆっくりと上半身を起こす。

どうやら床に寝かされていたらしい。柔らかな毛布が俺の下に敷いてある。


「俺はカイル・フットじゃないぞ」


まずは否定。この肉体のオリジナルではないことを早々に告げる。

孫の無事に安堵している節のある婆さんをぬか喜びさせたくない。


それと同時に自分自身に言い聞かせるためでもある。


そうだ。俺はカイル・フットじゃない。

さっきまで見ていた物は、カイルの記憶だ。


俺に話しかけてきた少年はカイル・フットという名前だった。


なるほどな。確かに契約すれば名前は分かった。


少年の言ったことは本当だった。

異世界に来る途中でカイルの人生を追体験することによって

こちらの世界のことをある程度は理解することが出来た。


婆さんには悪いが右手を放してもらうために右手を引き寄せた。

婆さんはあっさり両手の力を抜いてくれた。


自分の孫カイルの口から自分はカイルではないと告げられたのだから

心配する気も失せたのだろう。

その代わり真剣な眼差しで俺が何者であるか見極めようとしている。


だが、俺はそれどころではない。

「ふう」

息を吐きながら両手で顔を覆う。


短時間で大量の情報を怒濤のように浴びたせいで頭が混乱しそうだ。

「落ち着け。俺は拓真だ。カイルじゃない」

それでもカイルの記憶がちらつく。


カイルが生きた証。カイルが俺に託した守りたい人達との思い出。

ちらつく。

「落ち着け」

ゆっくりとカイルの記憶から俺の意識を遠ざける。


大丈夫だ。

思い出そうとしなければ思考の邪魔にはならない。

普通の記憶と同じだ。


「ふう、できる。大丈夫」


大丈夫だ。頭の中は整理できた。

何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせた。


それにしても小さな手だ。


俺は顔を覆っていた両手をまじまじと見た。

カイルが剣を振っていたので両手ともタコができている。

彼の努力は貴いものだが、今回の魔獣襲撃の戦力としては役に立たない。


剣だけでは戦えない。

街を襲っている魔獣は火の玉を吐き出す狼の群れだ。

この狼の群れを防壁の上から迎撃するため

必然的に攻撃方法が遠距離攻撃に限定されてしまう。


弓は子供の筋力では十分に引き絞ることが出来ないし、何より致命的な

「あなたはタクマ様というのですか?」

婆さんが話しかけてきたので思考が中断されてしまった。


「カイルとはどのような契約を交わしたのですか?」

姿勢をただした婆さんが神妙な声で質問してくる。


早く俺の正体を把握したいという思いをひしひしと感じる。

正体不明の存在に恐怖を感じるのは自然なことだし、

早めに自分の正体を明かして話を転がした方が俺にとっても都合がいい。


相手を思いやる余裕が生まれたので今のうち周囲の人間を確認しておく。


俺の周りにいるのは全部で4人。


カイルの祖母、デイム・フット。

デイムの執事兼護衛、ロイ。

獣人の少女、イネス。

獣人の少女その2、サラ。


中年のおっさんであるロイは、鋼のような肉体と鋭い目つきをしているが

俺と目が合うと、なんとも言えない表情を浮かべ顔を伏せてしまった。


獣人の少女達、イネスとサラは黒髪で猫耳を生やしている。


マジか! マジ猫耳!?


これが異世界だ!

俺はテンションが上がり、きっとキモい顔をしていたのだろう、サラがイネスの後ろに隠れてしまった。

イネスの方も身体をこわばらせて緊張している。


じろじろ見て怖がらせるのもかわいそうなのでデイムと向き合う。


「えーっと契約ですか? カイルには自分の代わりにこの街を襲っている魔獣達を倒してくれって

頼まれたんですけど」


「対価は?」


「この肉体」


「カイルの肉体を所望したのですか? カ、カイルの魂は?」

デイムは一瞬声を大にしたがすぐに声を抑えた。後半は声が震えていた。


「カイルの? カイルは俺の肉体を世話してくれているはずですよ」


カイルはそう言っていたし、

もしも嘘だった場合、俺の身体は主なき抜け殻となり廃人入院コース一直線だ。

是が非でも真実であってほしい。


「肉体? あなたは精霊ではないのですか?」


平静を装おうとしていたデイムがめっちゃ驚いている。他の3人も同じように驚いているので

全員が俺のことを精霊だと思っていたらしい。


「いや、違いますけど」

素直に答えた。


えっ? 何? 精霊じゃないといけないの?

なんか急に不安になってきた。


勢いだけで異世界に来てしまったからこちらの世界に頼れる人なんていない。

頼れそうなのは今目の前にいるカイルの祖母デイム・フットだけだ。

もし彼女に見捨てられたら異世界生活ハードモードでスタートしなければならない。


それだけは避けたい。

精霊じゃなくても問題ないと言ってくれ。


俺は焦りを顔に出さずデイムの反応を待つ。


「カイルは生きているのですね?」


出て来た言葉は俺が想像していた応えではなかった。

身構えていたが孫を心配する言葉に拍子抜けしてしまう。


だがデイムの反応は真っ当だと思う。

カイルは俺を召喚するために自分の肉体を捨て異世界へと魂一つで乗り込んだのだ。

肉体はあっても魂が不在なら、その魂の安否を心配するのが肉親というものだろう。


「生きているはずです。俺はこっちに来ちゃっているので確認できませんがカイルはそう言っていましたから俺はカイルを信じるだけです」


嘘は言っていない。本心だ。

デイムもそう思ってくれたみたいで安堵の息をついた。


「・・・・・・よかった」

そう言ってデイムは沈黙してしまう。


仕方がない。待つのも吝かではない。

俺は待ちの構えをとろうとしたところ、待てない男が口を出してきた。

「お二人の会話に割って入るの大変心苦しいのですが」

と断りを入れたロイは主の代わりに俺との会話を続けた。


「タクマ様、カイル様と結んだ契約はお互いの魂を入れ替えただけの対等な契約ではないのですか?」


???


何を言っているんだこのおっさん?


一瞬何を言っているのか理解できなかった。


俺はこちらの言語は

カイルの記憶のおかげかこの肉体が身につけていたおかげで

目を覚ましたときから違和感なく使用できている。


俺はロイの言葉を反芻する。

対等な契約ではないのか?

まるで対等である事を非難しているような響があった。


対等な契約は良いものだという一般常識を持っていたから

それを否定するような発言を俺の頭が受け付けなかったのだ。


納得、納得。


混乱した理由は判明したが、ロイの発言の真意は不明のままだ。


「対等な条件で契約を結びましたが、それのどこに問題があるのですか?」


今度はロイの方が俺の発言に面食らう。


おい、何でだよ?


俺が憮然としていると、くっく、と小さな忍び笑いが聞こえてきた。

デイムだ。


「ロイが戸惑うのは無理もありません。此度の召喚魔法は通常のそれとは違うみたいだ」

デイムの表情が柔らかくなっている。俺は何も言わず話の続きを待つ。


「通常の召喚魔法は、召喚者が依代となるモノの魂を精霊に捧げ

精霊は召喚者の願いを叶えるために依代の肉体に降臨するものです。


しかし此度の召喚魔法は精霊ではないタクマ様がお相手でした。

しかもタクマ様はカイルの魂に手をつけず、対価としてご自身の肉体を差し出している。


対価がお互いの肉体ならばその価値は同等。ならばカイルの願いを叶えるか否かはタクマ様のお心次第となります。

ロイが危惧しているのは」

「俺がカイルの願いを無視して魔獣討伐しないかもってことですか?」

「その通りです」

デイムが頷く。


なるほど、そういう考え方もあるのか。

全く信用されていないのでちょっとむかつくが、考え自体は意外性があって面白い。


だけど俺は


「俺はカイルとの約束を破る気はさらさらないぜ」

俺の闘志を燃えている。目の前のモンスターは刈り尽くし生きていく。

そのためにこの異世界に来たのだ。


「では?」

デイムの目が輝く。ロイ、イネス、サラも期待の表情を浮かべる。


「ああ、この街は俺が守る!」


俺は格好良く宣言した。



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