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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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最初の避難所

「おおおおおおお」


俺は叫びながら魔狼の群れに突っ込む。

子供を襲っていた魔狼もこちらに注目する。


そうだ。俺を見ろ。


「おおおおお」


さらに叫びながら魔狼に斬りかかる。


雷鳴剣は触れば確殺のワンタッチキルの魔法剣。

触れた部位から電流が流れ内側から焼き殺す。


そして、その際バジッという感電音と閃光が轟く。


派手な技だ。


一瞬で同胞が殺され、魔狼の群れに警戒色が広がる。

一階の屋根に跳び乗ろうとしていた魔狼達も体の向きを変え、俺達に敵意を向ける。


よし、これで一先ず子供の安全は確保できた。


安心も束の間、前3方向から魔狼が襲ってきた。

正面の魔狼が跳びかかってきたので刀身を押し付けて左側に叩き落した。


そのせいで右脇ががら空きになる。

それを逃す魔狼ではない。噛みつこうと口を開ける。


懐に入られた。

背筋に悪寒が走る。


「ふっ」


俺は剣を逆手に持ち替え魔狼の胴体に突き刺す。


肉の焦げる臭いが漂う。

俺は左側の魔狼は無視して前進する。


今はこの場を荒らすことが最優先。

俺の後ろにはロイがいる。背中はお任せである。


「イネス姉ちゃん」


上から女の子の声が降ってきた。


「皆、無事? 怪我してない?」


背後からイネスの声がする。


気になるが、今すべきことは目の前の魔狼を狩ることだ。


俺は雷鳴剣を振り魔狼を屠っていく。


「大丈夫。皆で頑張って守ったよ」


「いい子だ。あとはお姉ちゃん達に任せて」


「うん、頑張って」


喜色のこもった声だった。


さて、頑張るか。


女の子の声援を力に変えて俺は雷鳴剣を振る。


振れば当たる。辺りは魔狼だらけだ。

攻撃をやめれば一瞬で押し倒されて、奴らの牙の餌食になるだろう。


それは勘弁。


俺は手当たり次第に魔狼を狩っていく。

多勢に無勢なこの状況でも雷鳴剣なら十分に戦える。


いい技だと、自画自賛しながら魔狼の群れを分断していく。


「カイル、そのまま建物を1周して」


サラの鋭い指示が飛んでくる。

声が届いた感じだとサラは俺の右後ろにいる感じだ。


「わかった」


俺は短く応え建物の角を目指して道を切り開く。

後ろから勇ましい声が続く。


「ふん」


「はっ」


「ふっ、てい!」


剣が生む風切音、踏み込み音、足運びで地面が擦れる音。

どれも素早く力強い。


俺は背中を押されるように建物の角を曲がる。


数が多いな。


建物の裏手も魔狼でいっぱいだった。


俺は魔狼の様子を窺う。

俺に近いやつは身構え唸り声をあげている。

だが、俺の間合いの外にいる魔狼の様子は違った。


こちらをじっと見ている。嫌な目だ。

怒りや恐怖といった感情に荒らされていない静かな理知的な目をしている。

その目で俺がどの程度の強さか見極めている。


全滅させるのは難しいかもな。


魔狼の冷静っぷりを見ると状況が劣勢になったらすぐに逃げ出してしまいそうだ。

一網打尽が望ましいが、それより優先すべきは子供達の身の安全だ。


俺は建物に近い魔狼達を優先的に狩っていく。


「あのチビ、スゴイな」


上からそんな言葉が降ってくる。


誰がチビだ。誰が。


俺は内心毒づくながら魔狼に向けて剣を振るう。

魔狼から目を離す暇がないので、声の主を探すことはしない。


だが、生意気そうな男の子の声だった。

その声には悲壮感みたいなものはなかった。

つまり、戦って、自分達の身を守ってきたということだ。


子供のくせに大したものだ。


子供達の強かさに舌を巻きながら、だからこその疑問が浮かんだ。


俺は魔狼を斬り伏せ、建物の側面に回り込む。

そのタイミングで先ほどの疑問をサラにぶつけた。


「サラ、大人はどうした? 守備隊がいるはずだろ?」


魔狼が街に侵入した時に、街には守備隊がいるとデイムが発言していた。

だが、それらしい集団は一度も見かけていない。


「守備隊は上にいる」


サラの言葉に思わず上を見てしまう。


子供しかいない。10歳前後の男女。それぞれが武器を持ち、俺に誇らしげな笑みを向けている。


「大人はいないのかよ」


まるで騙された気分だ。

俺は子供は大人が守るものだと思い込んでいた。

だから、守備隊の構成員も大人だと信じて疑いもしなかった。


「大人は防壁で迎撃戦に参加していたから、そもそも守備隊には組み込まれていない」


「じゃあ、最初から子供は子供で自衛しろって話だったのか?」


「そう。でも最初から最後まで任せっきりってわけじゃない。

迎撃戦が終われば大人達も街に戻って子供達を守るから。

私達のその先行隊みたいなもの。

準備が整えば大人も後からやって来る」


そんな会話をしながら俺とサラは魔狼を狩り続けた。


案の定というかやはり魔狼は少しずつ逃げ出している。


形勢はこちらに傾いた。


俺は目の前の魔狼に電撃を浴びせた。


炸裂音と閃光が周囲の魔狼を威圧する。


「おお、逃げてくね」


イネスが魔狼を斬り伏せながら俺の隣にやって来た。


「あれどうすればいい? 追うのか?」


追撃のそぶりをしない猫耳少女に尋ねる。


「いや〜いいですよ追わなくて。

アイツら人のいる所に集まってきますから

次の避難所に向かった方が効率がいいですよ」


俺の質問に軽い感じで答えるイネス。


「そうだな」と同意しながら俺は避難所の正面に戻ってきた。


「……」


俺と目が合った魔狼達が逃げ出していく。


「半数以上の魔狼に逃げられてしまいましたね」


額に汗を浮かべているロイが辺りを警戒しながら話しかけてきた。

俺も残っている魔狼に睨みを効かせながら応える。


「剣1本ではこれ位が限界ではないですか」


倒れ伏した魔狼が轍のように見える。あれだけ見れば十分な戦果だと思う。


でも足りない。


俺もロイもそう感じている。ロイの心情は眉間に刻まれた皺がそれを伝えている。


「お〜い、みんな」


突然イネスが子供達に向かって大声で呼びかけた。


「もう少ししたら、お父さんお母さんが助けに来てくれるからそれまで頑張れる?」


「「頑張れる!」」


子供特有の甲高い声で奮闘を約束してくれる。


「お姉ちゃん達、次の避難所に行っちゃうけど、みんな大丈夫?」


「「大丈夫!」」


魔狼はまだ残っている。そして逃げた魔狼がいつ戻って来るかも分からない。

それでも俺達に甘えるようなことは言わない。


「では行きましょうか」


イネスの笑顔が眩しい。満足げで自慢げな笑顔だ。


「了解です」


俺もロイも素直にイネスの言葉に従った。


俺達は次の避難所に向けて走り出した。


「「お姉ちゃん達、助けてくれてありがとう!」」


そんな言葉を背中に浴びながら。


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