秘めたる雷鳴剣
走る。
走る。
俺は走る。
「はあ、はあ」
息が荒い。けど休んでいる時間はない。
「おおお」
俺は魔狼の攻撃を躱しすれ違いざまに剣を振上げた。
魔狼の喉元で剣先が重くなりさらに力をいれる。
「きれろ!」
剣を振り切った。鮮血が飛ぶ。
俺は魔狼の両断に成功した。
数をこなせば斬り方が分かるというサラ達の言葉通り、俺は魔狼狩りにこなれてきた。
魔狼の体高はカイルの腰くらいで、立ち上がるとほぼ同じ身長になる。
身体のサイズ的にいい勝負なのだ。
実力伯仲の相手だ。
そんな相手と休む暇なく戦ってきたのだから上達しないわけがない。
ただその間、サラ達に世話になりっぱなしだった。
感謝は行動で示す。
「もうすぐ避難所です」
先頭でイネスが声を張る。
俺達の中でイネスが一番働いている。先頭を走り、押し寄せる魔狼を剣を振り続け切り裂いてきた。
女の子なのによく体力がもつな。
素直に感心する。
サラもそうだが、走りっぱなし戦いっぱなしなのに動きの精彩に陰りがない。
すごい。俺はもうダメだ。
目の前で猫耳少女達が頑張っているので
弱音は吐かないが、このままではダメだ。
体力がもたない。
今まで剣を振ることに主眼をおいていたので体力の配分は二の次にしていた。
やり方を変えなきゃ最後まで戦えない。
俺は魔法を使うことを決意する。
魔狼だけを退治できれば問題ないのだ。
遠距離攻撃も範囲攻撃も誰かを傷つけるリスクがあるので
手元で完結する魔法を使えばいい。
俺は刀身を眺める。金属だ。
金属は電気を通す。剣をスタンガンみたいに使えば
斬るという動作を省くことができるはずだ。
省略できれば体力の温存につながる。
俺は早速、刀身に電気が流れるイメージをつくる。
刀身に帯電し、そこから溢れた電気がいくつもの筋となって閃光をまき散らす。
魔素は十分ある。
俺はイメージと現実を重ね合わせる。
来い!
俺は念じた。
何もなかった刀身から電流が放たれる。
断続的な高音が辺りに響く。
「なるほど、そうきましたか」
背後にいるロイの感嘆に俺は振り返り応える。
「こっちの方が役に立てますから」
自信のこもった言葉にロイは微笑み頷いた。
さて、この魔法剣の威力を確かめてみるか。
俺は走りながら魔狼を物色する。
突然の武器変貌に魔狼達は警戒して襲ってこない。
なら俺が近づくしかない。
俺は陣形から少し離れサラの隣に並ぶ。
「いけるの?」
「それを確かめる」
俺は近くにいた魔狼に斬りかかった。
牙をむく魔狼、俺はその横っ面に刀身をぶつけた。
閃光と炸裂音が発生。
俺は堪らず顔を背けた。
その数秒、剣先で魔狼を探る。だが触れるものがない。
俺は魔狼に視線を向けた。
顔は吹っ飛び、体から煙が立ち昇っている。
や、やり過ぎたか?
威力が強すぎた。
魔狼を木っ端にする必要はない。
威力を調整して撫でるだけで感電死するようにすれば、
1秒1殺も夢ではない。
俺は放電の昂りを抑える。
もう一度試し斬りだ。
俺は魔狼の群れに1人突っ込む。
襲ってくる魔狼を躱し剣先で触っていく。
視界の端で閃光が弾け、声にならない悲鳴を聞いた。
確認は後だ。
俺は目の前にいる魔狼を狩ることを優先する。
すれ違いざまに撫で斬りにする。
1頭、2頭、3頭、4頭。
躱して斬る。踏み込んで斬る。
その度に閃光が辺りを照らす。
俺は振り返り魔狼の状態を確認する。
魔狼達は立ったまま煙を出している。
内側から肉が焼かれ固くなったため倒れることもできないみたいだ。
「全頭、死んでおります。見事な早業です」
ロイから賞賛をもらう。
上々の結果だ。
これなら体力消費を大幅に抑えることができる。
俺の戦型は決まった。
この魔法を雷鳴剣と名付けよう。
「……」
名付けるだけ。決して口に出したりしない。恥ずいし。
「カイル1人で戦える?」
サラの問い。
今まで俺を気遣って戦ってきた猫耳少女が俺を戦力と認めたからこその問いだ。
「ああ、いける」
俺は嬉しさで頬が緩むのを堪え、真面目な表情で答えた。
「良かった。避難所は魔狼に取り囲まれているはずだから素早く狩りたいの」
「了解。自分の身は自分で守れるから、サラ達も魔狼狩りに専念してくれ」
「ありがとう」
サラは頭を下げる。
「見えたよ。3人とも」
イネスが避難所の存在を伝える。
「な、何だあれ!?」
俺は目に飛び込んできた光景に衝撃を受けた。
避難所は周りの家屋と異なり石造りで2階建。そのため防火性は高そうだ。
その周囲を魔狼の群れが取り囲んでいる。
これもサラが言った通りなので別に驚きはしない。
俺が驚いたのは避難所の1階の屋根の上だ。
そこに子供がいた。
しかもカイルより幼い子供達。
その子達が剣、槍を握りしめ屋根に跳び上がってくる魔狼達を迎撃していた。
「やばいだろ、これ」
自然と足が速くなる。
俺達は魔狼の一団に向けて突撃を敢行した。




