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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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初めての斬撃

俺は背中に背負っていた剣を引き抜く。

魔狼といつどこで遭遇するか分からないので

前以って準備しておく。


「では、行きます」


イネスが一同に声をかけ走り出した。

それにサラ、俺が続く。ロイは殿だ。


静かだ。

皆の足音だけが響く。


俺は耳を澄ます。

魔狼の吠え声も戦闘音も聞こえない。


正門付近にはいないのだろう。

あれだけ防壁の上から迎撃しまくったのだからいなくて当然だ。


イネスもそれを分かっているので走るスピードを緩めない。


今走っている道は街の幹線道路で街灯が設置されている。

視界は明るい。これならば不意打ちを食らうこともない。


だが、暗闇がないわけではない。

街灯の切れ目、建物の陰、脇道とあちこちに死角が存在している。


俺は暗闇を警戒しつつ走り続ける。


「どこに行くんだ?」


俺は前を走る猫耳少女に話しかけた。

サラが少しだけ振り向き答える。


「避難場所」


避難場所か。確かに自分の家にいるより安全な場所に隠れていた方がよほど良い。

こちらの都合としても一か所に固まってくれていた方が助けやすい。


俺は納得しサラの背中を追う。

行先は分かった。残った懸念は俺が接近戦で戦えるかどうかだ。


「……」


しかし、異世界に来てから未体験の連続で心労がたまっている気がする。

もうちょっとチュートリアル的なイベントが欲しい。


「魔狼発見。戦闘開始します」


気負いのないイネスの合図に俺は剣を握りしめる。


俺達の進路の先で1頭の魔狼がこちらを見ている。


1頭、こちらは4人。余裕だな。


俺がそう思った直後に脇道からぞろぞろと魔狼達が現れてきた。


甘くないよな。


魔狼は群れで行動する。俺もそれは知っているので落胆は少ない。


「やるしかない」


俺は自分に言い聞かせるように呟く。


「その通り。あいつらの先に避難所があるから押し通るしかない」


サラが状況を教えてくれた。


やるしかない。

剣の振り方は身体が覚えている。

行くぞ。


先頭のイネスが魔狼に群れに突っ込む。

それに応じて魔狼も一斉に襲い掛かり他の魔狼はイネスを囲もうと左右に分かれる。

右の魔狼達にサラが斬りかかる。


イネスを孤立させてはいけない。


俺も左の魔狼達に向けて走り出した。

心臓がバクバク鳴っている。


近いな。どれから斬ればいいんだよ。


焦る。距離がなくなる。俺の前には5、6頭の魔狼がいる。

皆見ている。


来る!


魔狼が飛び掛かってきた。鋭い牙がよく見える。


「おおお!」


俺は袈裟切りで迎え撃つ。


「ぐっ」


断つ気で振った剣は魔狼の頭の途中で止まった。

斬れはしなかったが魔狼を地面に落とす事はできた。


俺は剣を引き抜く。

刀身に薄らと血がついている。


血を流す魔狼が残った片目で睨み上げてくる。


「カイル様、頭は固いので首を狙ってください」


ロイが助言をしつつ、俺が取り囲まれないように魔狼を処理していく。


やはり一刀両断だ。今まさに、速く鋭い一撃で魔狼の頭をかち割っている。


「……」


年季の差か、それとも大人と子供の力の差か?


ロイは凄腕で、俺は役立たずだ。


だが、これで自分の実力は分かった。あとは頑張るだけだ。


やることはシンプル。

飛び込んできた魔狼を躱し、横から首を狙って斬りつける。

ただそれだけ。だが完遂するのは難しい。

先ほどの一撃も魔狼を躱しきれないと判断したから真正面から斬りつけたのだ。


俺は片目の魔狼を見た。

半死半生、ふらつく足で俺の背後を取ろうとしている。


遅い。


俺は大きく踏み込んで魔狼の首めがけて剣を振るった。

刀身が一瞬重くなったが直ぐに軽くなった。


魔狼の頭が落ちた。

やっと1頭仕留めた。


俺は次の標的を探そうと顔を上げた。


そこで3人が俺を見ていることに気が付いた。周りにいた魔狼は死んでいる。

俺が1頭を相手している間に3人が仕留めきっていた。


「申し訳ない」


「ううん、大丈夫。次行こう。次」


イネスが元気よく言う。

俺の不甲斐無さなんて、何でもないと言わんばかりの笑顔に救われる。


「これから行く道は魔狼が陣取っているけど、避難所まで一気に行きます」


サラが俺、ロイに視線を向け覚悟を問う。


「……」


俺は戦えるのか? 1頭仕留めるのでいっぱいいっぱいの実力でサラ達の役に立つのか?


「……」


「行きましょう、カイル様。

魔狼の斬り方は数をこなせば勘所は掴めます。

それまでは私が貴方を補佐します」


黙り込む俺にロイは励ましの言葉をかけ踏み出すことを促す。


良いのか?


俺はサラとイネスを見る。


「ロイさんの言う通り。斬ってればそのうち慣れます。

どんどん行きましょう」


「私はあなたを信じてる」


軽快なイネスの声、真摯なサラの瞳。

全身が熱くなるのを感じる。

気持ちが昂る。


俺は皆の気持ちに応えたい。


「行きます。そして必ず戦力になってみせます!」

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