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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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接近戦の覚悟

魔狼の襲撃が止んだ。

街の外は嘘みたいに静かになっている。

俺達は辺りを警戒しながら休むことにした。


しばらくすると俺達のもとにデイムとロイが戻ってきた。


「「デイム様」」


猫耳少女の2人がデイムに駆け寄る。

デイムも笑顔で2人を受け入れた。

お互いの無事を喜び合っている3人の傍にロイが控えている。


デイムもロイも目立った外傷はない。

俺は安堵の息を吐いた。


俺もみんなと合流しようと歩き出す。

そしてデイムと目が合った。


「お疲れ、カイル。こっち側を最後まで守り切るなんて大したもんだよ」


デイムは防壁の外側を眺めながらそう言った。

自分でも上々の成果だと思うが、それを人から褒められるとどうにもむずがゆい。


「ありがとうございます」


俺は頭を掻く。


「本当に凄かったですよ、デイム様」


「そうそう、魔法をあんなに連発できるなんて凄過ぎました」


サラとイネスが興奮した口調でデイムに詰め寄る。

2人の様子にデイムは困ったように笑う。


「さすがに魔法の調子が落ちてきたんじゃないのかい?」


デイムが気遣いの響きのある声で尋ねてきた。

問われて俺は自分の内側へ意識を向けた。

そこにある魔素、自分の魔素に触れてみる。


俺の感覚は波紋のように広がり魔素の中を流れていく。


広くて深い。


俺は魔狼を倒すために惜しみなく魔素を使い続けたが、魔素の源泉は減ったような気がしない。


「まだ平気っぽいです」


確証はないが、前半の防衛線で使った魔素量で後半の掃討戦が事足りるなら

魔素の残量は十分だといえる。


俺の返答に少しだけ驚いた様子のデイムは眉間にしわを寄せ目を伏せた。


「情けない話だが、私はここら辺が限界だ」


突然のギブアップ宣言、今度は俺が驚かされた。


「どうして!?」と理由を問う前にサラとイネスが口を開いた。


「気にしないで下さい。デイム様のおかげで街に侵入した魔狼の数はかなり抑えられました」


「サラの言う通りです。デイム様はこの街のために十分すぎるほど尽力してくださいました。

ここからは私達だけでケリをつけますので、デイム様はお休みください」


2人は真摯な態度でデイムを気遣う。その言葉には感謝の気持ちしかない。

デイムも2人の気持ちを感じ薄く微笑む。


「じゃ、お言葉に甘えて休ませてもらおうか」


「「はい」」


サラとイネスは元気良く頷いた。


デイムの戦線離脱は手痛いが仕方がない。

近づいて見れば、デイムは肩で息をしているし、篝火に照らされた顔色も芳しくない。

連戦の疲労が老いた肉体にのしかかっている。


無理をさせるわけにはいかない。


俺はさらなる奮起を自分に課す。

意気込む俺にデイムが歩み寄り耳元で囁く。


「街での戦闘は刃物を使った接近戦がメインです。

魔狼は集団で襲ってきますので手練れでなければ対処することも困難です。

剣の扱いに慣れていない貴方には危険が多いと思われます」


「魔法を使ってはいけないのですか?」


「街中での飛び道具の使用は、人や建物を傷つける恐れがあります。

威力の高い魔法ならその被害は弓矢の比ではないでしょう」


俺は言葉に詰まる。

デイムの発言は正しい。

俺達は守るために戦っている。

守るものを傷つけては本末転倒だ。


なら、俺の戦いはここまでなのか?


デイムの言う通り、剣には自信がない。

生き物を斬った経験なんて一度もない。

そんな俺が魔狼の群れと剣一本で渡り合えるのか?


出来るとは言い切れない。

出来ない可能性の方が高い。


一方的に魔法を連発して魔狼を屠ってきた遠距離戦とは違い、剣が届く接近戦だ。

魔狼の牙も爪も届く距離だ。


俺は歩廊の血だまりに目をやる。

魔狼が流した血だが、その上に俺が倒れている姿を幻視する。


それが俺の未来かもしれない。

そうなってもおかしくない未来だ。


死にたくはない。

俺は人生を謳歌するために異世界にきたのだ。

ここで死んでは意味がないのだ。


俺は戦果はあげた。誰より多くの魔狼を殺した。

だから正門の防壁は守られたのだ。

そんな俺がここで戦線を抜けると宣言しても誰も文句は言えないはずだ。


それが賢い選択だ。


俺は拳を握りしめる。

火の手の上がる街を見る。

その街の暗闇には4,5万の魔狼が獲物を求めて疾走しているはずだ。


ここでリタイアするのか?

あとはここから見ているだけでいいのか?

何かできることがあるんじゃないのか?


俺はカイルの望みを叶えるためにここにいる。

俺はあいつの代わりにここにいるんだ。


俺は拳を握りしめる。

手袋越しでも分かる剣タコの固い感触、カイルの努力の証。

魔法がだめなら剣で強くなろう懸命に剣を振っていた過去の記憶。

俺はどちらも知っている。


「どうする、カイル?」


サラの呼びかけに俺は何かが腑に落ちた気がした。

そして眦を決して顔を上げた。


「お祖母様、僕が魔法より剣の方を熱心に練習していたのご存じでしょう。

僕は剣でも戦えますよ」


俺は勝気に笑う。


「……頼りになる孫だよ、お前は」


デイムは目を細めて声を漏らす。

そして次に瞬間には表情を引き締めたデイムが


「ロイ、皆を頼んだよ」


「かしこまりました」


ロイは機敏に一礼した。


主従のやり取りを見届けたサラが一同を見渡す。


「では、これより街に降りて掃討戦を開始します。

皆さん、覚悟はよろしいですね」


「「「おう!」」」


俺はロイ、イネスと同じタイミングで声を上げた。


そして命懸けの戦いが始まる。

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