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139 王との謁見

ジョエル率いる北の牙の闘技場襲撃は成功した。

それは都市側の防衛失敗を意味する。

防衛にあたった衛兵隊の落胆は、慰めの言葉をかける事を躊躇させる程のものだった。


気まずい。

ジョエル達をまんまと逃がしてしまった俺はとても気まずい思いをしていた。

そのタイミングで王城への出頭命令がくだされた。


そして今、俺は王と対面している。

人払いがされた貴賓室。

この国の王であるクラレンス・エンマイアが呑気に紅茶を飲んでいる。


「……」


この俺を目の前にして余裕な態度をとるこの男に若干イライラしてしまう。


この王は俺の事を知っている。

俺が異世界人である事を。

俺が本物のカイル・フットではない事を。

俺がデイム殺しの犯人を王家だと疑っている事を。


「……」


俺は国王を黙って見つめる。


「どうした、飲まないのか?

紅茶が冷めてしまうぞ?」


カップを置き、問い掛けてくる国王。


「ずいぶん余裕そうですが、どう対処されるおつもりですか?」


俺は国王の質問を無視し、質問する。


「こうして君と面と向かって話をするのは初めてかな?

カイル・フット、いやそれともタクマ・ナカムラと呼んだ方がいいかな?」


国王が薄く笑う。


久しぶりに本名を呼ばれた。


「その名で呼ばれるのは困ります」


俺は表情を険しくする。


「そうか、この国への君の貢献を考えれば、もっと君の名を広めて褒め称えてもよいと思うが」


「止めて下さい」


語気を強める俺。


「嫌というなら止めておこう。

余は君と敵対するつもりは無いのだ。

今回の呼び出しも君と腹を割って話し合うためだ」


国王が静かに俺を見つめる。

こちらの出方を窺っている目だ。


「一体何を?」


「君は赤竜でさえ屠れる魔法使いだ。

その気になれば北の牙も殲滅できたはずだ。

なぜ見逃した?」


静かで重い声。


「犠牲者の数を少しでも減らすためです」


俺は正直に答える。


「それは獣人達も含めてか?」


「その通りです」


「君があの場で北の牙を含む獣人達を始末してくれていたら、この件は終わっていたんだ」


国王が短く息を吐く。


とんでもない暴言だ。


「僕に人殺しになれって言うんですか!?」


大声を出してしまう俺。


国王が片手をあげて制止を命じる。


「落ち着いてくれ。

そんなに獣人を殺すのが嫌か?」


真面目な顔で問う国王。


「当たり前です!

どうして殺さなければならないんですか?

殺す理由がありません!」


「衛兵が何人も殺されている。

これが理由にならないか?」


「……」


一瞬言い淀む俺。


「なりません。

北の牙の目的は、獣人奴隷の解放です。

そもそもこの国が獣人達を奴隷にしなければ、こんな事は起こらなかったんです」


「過去の行いを今責めても仕方がないだろう」


「今現在も同じ事をしています!

問題を解決する気がおありなら、今すぐ獣人奴隷を解放して下さい」


俺は真剣に訴えかける。


「余は解放するつもりだった」


国王が眉間に皺をつくる。


だった?

過去形なのが気になるが国のトップが解放する意思があったのなら、まだ可能性はある。


「では解放しましょう」


「無理だ」


にべもなく断られた。


「どうしてですか?」


「引き受け先が無いからだ」


「ブロウ獣王国があります」


即座に提案する俺。


「国ですらない集団と交渉する気は無い。

それに犯罪者を国外に出すわけにはいかない」


この王は一応責任感があるようだ。


「まだ闘技場にいる獣人奴隷はいます。

彼らだけでも解放する事は出来ませんか?」


「無理だ。先程も言ったように引き受け先が無い」


「この国で面倒を見ればいいでしょう」


「無理だ。大罪人の血筋に庇護を与える事は出来ない」


無理だ、無理だと話しにならない。

俺は拳を握りしめる。


感情的になる俺とは反対に国王は他人事のような冷めた目をしている。

古から続く因習を受け入れているようだ。


「だからこそ、隣国のレイリー王国に獣人奴隷を引き受けてくれるように交渉していたのだ」


「レイリー王国に?」


俺は驚く。


レイリー王国は既にサリム達を受け入れている。

そこにさらに獣人奴隷達を押し付けようとしていたのか、俺は呆れて声が出ない。


「君の赤竜討伐がきっかけだ。

赤竜討伐はエンマイアにとってもレイリーにとっても喜ばしい事、そして有り難い事にその勝利にクロウ家の血筋の者が貢献していた。

余はこれをもって獣人奴隷に恩赦を与えようとしていた。

そしてそれと並行してレイリー王国とも引き受けの交渉を始めた」


俺が赤竜殺しとして皆にちやほやされている間に、この国王はしっかりと働いていたようだ。


「では闘技場襲撃がなければ……」


「ほぼ成ったと思う」


そう言って悲しげな表情を浮かべる国王。


あったのか。

皆が助かる道が。


俺は拳を握った。

悔しくて悲しくて。

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