137 無理めな賭け
「魔人?」
なぜ、ここに魔人がいる?
魔人の出現に混乱する俺。
魔人
ブロウ獣王国を尖兵として南のモウダウ王国に戦争を仕掛けようとしている。
魔人がいるという事は、一連の闘技場襲撃にブロウ獣王国も関与しているという事か!?
なくはない。
ブロウ獣王国もサリムと別の道を選んだ残党も獣人奴隷も皆、『クロウ家の捨て子』だ。
結束するのはおかしな事ではない。
そして、そこに魔人が関与していてもおかしくはない。
「おい、お前!
魔人のお前がどうしてこの国にいる!
目的を言え!」
俺は声を張り上げる。
魔人はネイトと戦闘中だ。
質問に答えるとは思っていない。
俺が大声を出したのは、広場にいる衛兵に魔人の存在を周知するためだ。
今までの襲撃事件で、魔人が参加していたなんて報告は上がっていない。
新情報だ。
魔人の槍捌きが加速する。
「ミック、手伝ってくれ」
たまらずネイトがミックに加勢を頼む。
ミックが俺を一瞥する。
ミックは俺と魔人の間に立って俺を守っている。
「ミック、行ってくれ!」
「分かった!」
ネイトは劣勢だ。
魔人はネイトの手元を狙って槍を繰り出している。
そこにミックが加わり、やっと攻勢に転じられた。
魔人にとっては一対二の不利な展開。
ネイトと正対するとミックが側面に回り込み、逆にミックと正対するとネイトが側面に回り込む。
魔人がじわじわと後退していく。
押し勝った!?
一瞬ホッとする俺。
だが嫌な予感がする。
魔人の後退する先には薄暗い森がある。
「二人共、追うな!」
俺はネイト達を止める。
「いいのかよ、それで!?」
ネイトが戦闘の隙を見て問い掛けてくる。
「森の中は危険だ!
攻撃に魔法を使ってくる可能性が高い。
広場にいた方が安全だ!」
今まで魔人が攻撃魔法を使ってこなかったのは、味方への配慮の可能性が高い。
乱戦中の広場にいれば襲撃犯達も衛兵隊も、味方への被害を気にして攻撃魔法を使用できない。
俺の言葉で足を止めるネイトとミック。
魔人はそのまま森の中へと姿を消した。
「……」
放置していいのか悩む俺。
森には入れないし、乱戦の中に飛び込むのも悪手だ。
かといって、ここにいては背後から魔人に狙われる恐れがある。
「とにかく移動しよう」
二人を連れて走り出す俺。
「どこに行くんだよ?」
広場の端を走りながら、ミックが後ろから質問してくる。
俺は広場の先にある家々を見る。
もし獣人奴隷が逃亡を拒んだとしたら、襲撃犯も救出を諦めざるを得ないはずだ。
そんな可能性あるのかと自分でも疑ってしまうが今はこれに賭けるしかない。
「獣人奴隷の顔役と交渉する!
付いて行かないように頼むんだ!」
「「はああ!? 何言ってんだ!?」」
二人につっこまれる俺。
俺もそう思う。
「今はこれしかない!
上手くいけばこの戦闘も終わる、行くぞ!」
俺は強引に話を締めくくり、ネイトとミックを急かした。
獣人奴隷の顔役クロードは一度しか会った事が無いが、冷静な判断が出来る男だと俺は思っている。
即断即決の男なら、もうすでに皆をまとめて逃亡している。
だが、まだ逃げていない。
その証拠に襲撃犯達がまだ戦っている。時間を稼いでいるのだ。
クロードと交渉する時間を!
そこに割り込む!
明けましておめでとうございます。
2025年もよろしくお願いします。
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