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134 闘技場への襲撃

闘技場の三階にある貴賓室

重苦しい空気が満ちている。

ふざける余裕もなく本当に深刻な事態が発生してしまった。


この場の主役である三人

闘技場の責任者 ハリソン・エイベル男爵

西側貴族アルバーン伯爵家 クリス・アルバーン

そして俺。


俺の隣にクリスが座り、テーブルを挟んだ反対側に男爵が座っている。


「まさか西側で事が起こるとは思いませんでした。

起こるとしても東側だと……」


男爵が俺の方を見る。


いつも笑みを絶やさない男爵だが今日ばかりは口を閉ざしている。


俺は同意を示すため大きく頷く。


「こちらもその想定でしたので驚いています。

フット領の警備が厳しいとみて狙いを西側に変更したのでは?」


俺はクリスの方を見る。


「西側は闘技場を運営している領地が多い。

こちらを狙ったのは仲間を一気に増やすのに好都合だったからでしょう」


クリスが真顔で告げる。


アルバーン領の闘技場も襲撃を受けた。

奴隷だった獣人達もそのタイミングで脱走している。


内心穏やかではないだろう。


「襲撃犯の正体は不明のままですか?」


俺は男爵に尋ねる。


クリスの視線が鋭くなるのを感じるがあえて無視する。


「ええ、残念ですが不明のままです。

襲撃は深夜に行われていて目撃者も期待できません。

直接対峙した闘技場の警備兵は皆、殺されていますので犯人を特定する情報はありません」


男爵が沈痛な表情で答える。


「街の衛兵とは戦わなかったのですか?」


衛兵の数は多い。

戦闘になっても全滅する可能性が低いので襲撃犯に関する証言が得られるのでは、と思いさらに質問する俺。


今日、闘技場に来たのは男爵に呼ばれたからだ。

男爵が俺達を呼んだ理由も闘技場襲撃の情報を共有するためだ。

遠慮する必要はない。


「街から逃走する際に戦闘になったそうですが、襲撃犯を特定できる情報は入手出来なかったようです」


「そうですか。

襲撃犯は奴隷解放を第一に行動したみたいですね」


恨みが犯行の動機なら、もう少し現場に居座って流血沙汰を起こしていたはずだ。

だが実際は速やかに撤退している。


恨んでいない?

そんな事あるのか?


現状、襲撃犯の正体は判明していない。

だが状況的にサリム達と袂を分けた獣人達の可能性が高い。

『クロウ家の捨て子』の残党だ。


その残党狩りを行なったのがフット家で、その残党狩りに失敗したため襲撃事件が起きてしまったとご立腹しているが俺の隣にいるクリスだ。


俺のせいではない。

国王がサリム達の引っ越しに猶予期間を設けたのだ。

文句なら国王に言ってくれ。


「奴らは西側で暴れた後、姿を消しています。

人数も百に届く所まで来ているのです。

奴らが王都襲撃を企んでいてもおかしくありません」


クリスが男爵に危惧を伝える。


王都襲撃は百人足らずでも確かに可能だろう。

だがそれは王都への片道切符だ。

逃亡奴隷全員にその覚悟があるとは考えにくい。


「その可能性は十分にありますが、襲撃犯達が姿を消したのは各地の街が厳戒態勢に入り襲撃が困難になったからだと思います。

このまま諦めて逃げ出す可能性も高いと私は考えています」


男爵が一番現実的な意見を述べる。


俺は観戦用の窓から外を見下ろす。

闘士達が闘う舞台にも観客席にも誰もいない。無人だ。

通常であれば今日も興行が行われていたはずだが、男爵が言ったようにこの学術都市も厳戒態勢に入りこの闘技場も興行が中止となっている。


「逃げ出す?

どこへ逃げ出すというのですか?」


クリスの語気が強くなる。


「もちろん国外です。

散り散りに逃げれば追跡も困難です。

逃亡先では地縁が無いので苦労するでしょうが獣人はタフです、恐らく生き延びる事が出来るでしょう」


男爵がクリスに答える。


逃亡奴隷は捕まれば、罰を受ける。

獣人奴隷が捕まれば、殺される可能性が高い。

となれば、エンマイア王国の手が届かない安全な場所まで逃げたくなるだろう。


ブロウ獣王国

この国の名が俺の頭の中に浮かぶ。

ジル達が喜び勇んでスカウトするだろうなぁ


「ブロウ獣王国の関与は?」


俺は疑問を口にする。


「不明です。

ただジル君達はこの国から退去済みであると聞いています」


男爵が答える。


「繋がっていると考えるのが自然です。

獣人奴隷を欲しがっていたのは奴らです。

馬鹿共を唆した可能性は高い!」


大声を出すのを我慢しているクリス


「仮にブロウ獣王国と襲撃犯が繋がっていたとしても、ブロウ獣王国がこの国と敵対してまで同胞を欲しがるでしょうか?

少なくともジルは穏便に事を進めようとしていました」


不憫な同胞を救いたい。

その気持ちは分かるが、それだけで一国と敵対する道を選ぶだろうか。


「……」

「……」


男爵もクリスも黙っている。

二人共、俺と同じ疑問を抱いているだろう。


ブロウ獣王国が主犯だとは考えにくい。


やはり捨て子の残党が主犯?

それとも全く関係ない第三者の犯行?


俺は考えを巡らせる。


襲撃犯が誰であれ、戦うか逃げるかの二択しかない。

もし襲撃犯が戦いを選べば、この闘技場もいずれは襲われる事となる。


しばらくは眠れぬ夜を過ごしそうだ。

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