133 新たな火種
春うらら
俺はガジャ魔法学校の二年生になった。
今日は一年生の入学式だ。
俺はモニカと一緒に新入生の出迎えを担当していた。
レンガ造りの大講堂の前で新入生とその関係者を中へと案内する。
「ふー」
モニカが静かに息を吐く。
「お疲れ様です」
俺はモニカを労う。
モニカは、ずっと笑顔で次から次にやって来る新入生達の応対をしていた。
「ええ、これで一段落ついたかしら?」
モニカは遠くにある学校の正門を見つめる。
俺も視線を向けるが、馬車も歩行者も見当たらない。
「みたいですね。
もうすぐ入学式の開始の時刻です。
これ以上は来ないでしょう」
「そのようですね。お疲れ様でした、カイル君」
爽やかな笑顔のモニカ
「新入生達に大人気でしたね、カイル君」
だが目が笑っていない事に気付く俺。
「いや、そんな事は。
半々だったじゃないですか」
俺は愛想笑いを浮かべる。
「フロー伯爵家の一員ですから邪険に扱われる事はありませんよ。
新入生達が熱を上げていたのは明らかに貴方の方だったでしょ、竜殺し様?」
ジト目のモニカ
俺がモニカより一足早く武功をあげてしまったため、モニカの機嫌が良くない。
端的に言って、モニカは拗ねている。
宮廷魔法士を目指す彼女にとって年の近い魔法使いが強いとなにかと都合が悪いのだ。
「物珍しいだけですよ。
日が経てば皆飽きますよ」
「浮ついた気持ちは落ち着くと思いますが、カイル君への評価が下がるわけではありません。
この国が待ちに待った、デイム様に次ぐ赤竜殺しなのですから」
モニカが長い溜息を吐く。
「ベアトリス王女殿下のご助力あってこその討伐です。
僕一人では倒せませんでしたよ」
「運が良かったですね、カイル君。
王女殿下がご一緒で。
そのお陰で、我が国はレイリー王国に貸しを一つ作る事が出来ました。
陛下も大変お喜びになっておられます。
当面の間フット家は安泰でしょう」
陛下か。
あいつのご機嫌なんてどうでもよい。
眉間にしわが寄る俺。
この国の王、クラレンス・エンマイア
こいつはデイムを謀殺した可能性がある。
エンマイア王家は信用できない。
「モニカさんの言う通りですよ。運が良かった。
連れて行った獣人達も赤竜討伐で隣国の国民に受け入れてもらえました。
彼らを追い出してしまった罪悪感がありましたから、新しい居場所を用意できてほっとしています」
俺は獣人達の話題に変える。
モニカが周囲を見渡し、誰もいない事を確認する。
「クロウ伯爵家も彼らの事を受け入れたのでしょう?」
モニカが声を潜めて話す。
「ええ、でも新たな国民としてです。
クロウ家の縁者としては認めていませんでした」
俺は、サリムとクロウ伯爵の対面シーンを思い出す。
レイリー王国の王城でクロウ伯爵と対面したが、サリムもクロウ伯爵もあっさりとした態度で握手を交わしていた。
自国の王がサリム達の受け入れを決定した以上、臣下として反意を示すわけにはいかないという理屈は分かる。
本家に見捨てられて苦労してきた分家の末裔『クロウ家の捨て子』であるサリムも穏やかに対応していた。
二人共大人の対応だったと言わぜるを得ない。
「もめ事を起こさなかった事、立派だと思います。
獣人達の長は聡明なお方のようですね」
「全てを飲み込んで新天地に旅立ったんですよ。
覚悟が違いますよ」
俺はサリム達を敬う。
モニカが目を細める。
「それで、旅立たなかった方達は?」
「……発見できていません」
『クロウ家の捨て子』の中には、サリムに付いて行かなかった獣人達がいる。
「レオン殿、いえフット伯爵が山狩りを行なったのでしょう?」
「発見できたのは拠点だけで、獣人達は見つかっていません」
「獣人達の長は何と?」
「已む無しと」
俺は短く答える。
こちらの都合で追い出したのだ。反感を覚える獣人が出たとしてもおかしくはないのだ。
サリムはそういった危険分子を切り捨てて新天地に旅立ったのだ。
その者達の処遇をこちらに委ねて。




