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132 ケイトとお喋り

日に日に暖かくなる初春

とはいえ室内はまだ寒い。

淹れてもらった紅茶が体を温めてくれる。


「ふー美味しい」


一息つく俺。


ここは蒼穹寮の食堂

新学期にはまだ早いので学生の姿は無い。


卓の向こう側に座るのはこの寮の従業員ケイト

エプロン姿のまま俺と談笑している。

休憩中なので別にサボっているわけではない。


「本当に赤竜倒したんですねぇ」


ケイトが感心したように声を上げる。


この一年で髪が伸びたケイト。

時折、頬にかかる髪を耳に掛けている。


「まあ、そうだね」


事実なので頷く俺。


「流石です、カイル様」


「有難う、ケイト。

でも僕一人だけの功績じゃないよ」


俺は苦笑する。


「それでも凄いですよ!

一撃でズバンでしょ」


ケイトが両手を広げる。


「しかも、お姫様と一緒に戦うなんてロマンチック!

何か進展したりしなかったりしてないんですか?」


キラキラした目で質問するケイト。


「ケイトの期待に応えられるようなイベントは無いよ。

まあ仲良くはなったけどさ」


「きゃー仲良くなったんですね。

やっぱり手と手を取り合って戦うと仲も深まりますよね」


さらにテンションが上がるケイト。


手と手を取り合うって比喩表現なんだろうか?

だったらツッコミは必要ないはず。


俺は曖昧に頷く。


「凱旋パレードも隣同士で行進されたって噂ですけど、本当なんですか?」


「それは本当」


凱旋パレード

赤竜の死骸を先頭にして隣国の王都まで、ベアトリス、サリム、そしてユーグ達戦闘に参加した獣人達と一緒に行進した。

行進そのものは馬に乗っていただけなので楽だったのだが、その準備が面倒くさかった。


見栄えの良い金属鎧が参加者全員分揃うまで待った。

王都までのルートをどうするかで地方領主と話し合いが終わるまで待った。

とにかく待った。


帰りたかったが、他国で赤竜殺しというド派手な事をしておいて祝宴に顔を出さずに帰るのは流石に失礼だと思い、準備が整うまでとにかく待った。


「行く街行く街、もの凄く歓迎してくれて驚いたよ」


俺は感想を言う。


「それはそうですよ!

だって赤竜ですよ。カイル様がいなかったら街なんてイチコロだったんですよ。

感謝しまくりで歓迎しますよ!」


「そうだね。

皆、ケイトと同じような事言っていたよ」


俺は隣国レイリー王国を救った。

その自覚はある。

赤竜と戦う時から討伐すればそうなると分かっていた。

分かっていたが、直接会ってお礼を言われると想像以上の熱量で俺は圧倒されてしまった。


「良いーな、私もパレード見たかったな」


一大イベントを見逃して残念がるケイト。


隣国のイベントだ。

エンマイア王国は関係ない。


この国でも凱旋パレードを実施しようという話もあったが、俺が断った。

それに赤竜討伐には獣人達も参加していた。

追い出した獣人が、その直後に偉業を達成したのだ。

凱旋パレードを実施して俺が目立てば、必然的に獣人達の存在も目立ってしまう。


それでは国が困るので、凱旋パレードの計画は立ち消えた。


なぜ目立つと困るのか?


それは天覧山脈に居を構えていたサリム達獣人の痕跡を抹消しようと動いていたからだ。


その実行役が、新年会で正式にフット伯爵となったレオンだ。

レオンはサリムの街を焼き払った。天覧山脈に点在する小規模拠点を探し出し焼き払った。


「……」


たぶん今も獣人の拠点を探して山脈内を行軍しているだろう。


「どうしました、カイル様?」


黙ってしまった俺を気遣うケイト。


「いや、残念だったねと思ってさ」


俺は力なく笑う。


本当に残念だ。

デイムとサリムが築いてきた関係が灰になってしまったのだ。

デイムの統治は終わってしまった。

それを痛感させられて、とても悲しい。


否も応もなくフット領は新しい時代に入る。

これからはレオンの時代だ。

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