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131 勝利

「勝った……」


俺は赤竜の死体を眺めながら呆然と呟く。


「おいおい、英雄殿。またやりやがったな」


ユーグが呆れ笑いを浮かべながら俺の肩に手を回す。


他の獣人達もわらわらと集まり、「勝った! 勝ったぞ!」と歓喜の雄叫びを上げる。

うるさいが、その歓声が俺に赤竜討伐の現実味を与えてくれる。


勝った。生き残った。

喜びがふつふつと湧いてくる。


「ぉぉおおおおおお!!! 勝ったああ!!! 赤竜に勝ったぞ!!!」


自然と俺も大声を上げていた。


「「「うおおおおおお!!!」」」


皆で叫ぶ。


死地を脱した。生き残った喜びを全身で表現する俺達。


!?


気付く。

ベアトリスが、ふらつく足取りで赤竜の死体に近付いていく。

赤竜は死んだはずだが、万が一がある。

俺は歓喜の輪から抜け出しベアトリスの後を追う。


「ベアトリス様?」


俺は赤竜を見ているベアトリスに話し掛ける。


「赤竜です」


「? そうですね」


俺は小首を傾げる。


「お祖母様が、この国に輿入れする際にお持ちになった赤竜の剥製が王宮に展示されています」


デイムが討伐した赤竜だ。

エンマイア王国はレイリー王国より若い国だ。

歴史の長さでは敵わないので代わりに武威を示したのだ。


その武威をもって嫁いだミラベルを守ろうとした。

赤竜を殺せる者が後ろにいるのだ、あまり舐めるなよ、と。


「その事があって民達は、お祖母様の事を『竜姫』と呼ぶようになったそうです。

『竜姫』がこの国にやって来たぞ、と」


ベアトリスは思い出話をしながらくすくすと笑う。


「お祖母様は『竜姫』の話題となると、私が討伐したわけではないのに、とぼやいておいででした」


ベアトリスの表情が柔らかい。

死闘を乗り越えて安堵したのだろう。


「その赤竜は僕の祖母が討ったものですね」


「ええ、その通りです。

フット伯爵、私も一度はお会いしたかった。残念です」


「すみません。

祖母は腰の重い人でしたので。

なにせ自国の王都にさえ行くのを億劫がっていましたから」


「ふふ。

やはり面白い御方だったのですね」


年相応な少女の微笑み


ベアトリスが俺に気を許していると感じる。

開拓村に視察に来た時は、俺達を警戒して壁を作って接していたのに。

やはり一緒に死線を潜りぬけたという経験がベアトリスの警戒心を解いたのか。


なんにせよ、これは嬉しい。

口元が緩みそうになる。


「破天荒な行動が多くて大分振り回されましたけどね」


俺はデイムの不敵な笑みを思い出し苦笑する。


「破天荒なのは貴方では、カイル?」


じっと俺を見るベアトリス。


「僕ですか?」


「ええ。

フット伯爵は、獣人問題を長年抱えていましたが終ぞ我が国に救援を求めてこなかった。

お祖母様にご迷惑をおかけしないようにご配慮されたのでしょうね。

思慮深い方だと私は思います。

反対に、貴方はその配慮を無視してお祖母様に救援を求めた。

外交特権も持っていないのに他国の王妃と連絡を取り合えば、罪に問われる可能性が高いにもかかわらずです。

それでも実行したのですから、十分破天荒だと思いますよ」


ベアトリスの指摘は正しい。

罪に問われても非公式だからで押し通そうと考えていた。

今になって思えば、国に楯突くなんて自棄になっていたんだなと思う。


「無我夢中でしたので」


言い訳をする俺。


「危なっかしいですね。

ですが、そのおかげで貴方はここに居て私達は死なずに済みました。

無謀な勇者に感謝を捧げます。

ありがとう、カイル」


ベアトリスが礼を言う。


「いえいえ、ベアトリス様が炎で目隠ししてくれたおかげで勝てたのです。

こちらこそ、有難うございました」


「役に立てたのなら嬉しいです。

結局、私は目隠し位しか出来ませんでしたから」


自分を卑下するベアトリス。


「そんな事ありません!

ベアトリス様の指揮と炎の鞭があったからこそ僕達は誰も死なずに済んだんです!

誇って下さい、ご自分の奮戦を!」


熱く語ってしまった俺。

ちょっと恥ずかしい。

だが本音だ。

恥ずかしくない。


「そ、そうですか。

有難うございます」


「そうです!」


俺は力強く肯定する。


「ふふ、奮戦ですか。

では、貴方方の奮戦も称えられなければなりませんね」


何かを思いついたベアトリス。


「え? 誰に?」


戸惑う俺。


「もちろん、王都の民達です。

私達は赤竜を討伐したのです。

なら次に行うのは、王都への凱旋です!

皆で行きましょう!」


ベアトリスが笑顔を向ける。

俺とそして一緒に戦った獣人達に。


冬が終わりもうすぐ春が来る。

ベアトリスの笑顔は、春の到来を告げるかのような朗らかな笑みだった。

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