130 真紅を穿つ
炎の鞭に守られている俺達。
だが、その守備範囲も徐々に狭くなってきている。
ドラゴンブレスで一網打尽になるのも時間の問題だ。
「ふっ!」
一息いれて、俺は火球を放ち続ける。
いい加減、諦めて帰れよ。
内心で悪態を吐く俺。
赤竜が旋回を続ける。
先程俺が一発当てたので、攻めるか逃げるか考えているのだと思う。
「ベアトリス様、まだいけますか?」
近くまで来ているベアトリスに余力を尋ねる俺。
「ええ、まだ大丈夫です」
気丈に答えるベアトリス。
だが表情からは疲労の色が見える。
ギリギリの戦力で命を賭けているのだ、精神的疲労は計り知れない。
ベアトリスだけではない、それは俺も同じだ。
「GRAAAA!」
赤竜が吠える。
戦意と敵意がこもっている。
やる気のようだ。
!!!
俺の火球をかわし、その場に留まる赤竜。
流し撃ちをしていた俺は一瞬狙いが外れる。
赤竜の口から怒涛のような火炎が溢れ出す。
ドラゴンブレスはベアトリスでは防御出来ない。
「間に合えっ!」
俺は連射をやめ、特大の火球を創り出し撃ち出す。
炎と炎の激突!
「カイル!」
「大丈夫です! ベアトリス様は炎の鞭を維持して下さい!」
炎の鞭が消えれば全てが終わる。
ベアトリスが俺達の命綱なのだ。
集中してもらわなければ困る。
「くっ」
呻き声がもれる俺。
ドラゴンブレスの勢いが想定より強い。
一回目の激突の時は俺が押し勝った。
なので、二回目も俺が勝てると思ったが現実は甘くなかった。
「ぐっ」
俺は、押し込むイメージで火球を強化する。
だが、火球は先へと進まない。
逆に怒涛の火炎が俺の火球を呑み込もうとする。
押し負ける!?
嫌なイメージを抱いてしまった。
これではいくら魔素を注ぎ込んでも、火球は強くならない。
「不味い」
実際に押し負け始めた。
「カイル!」
ベアトリスの焦る声。
「おい、英雄殿! 真面目にやれよ!」
ユーグの偉そうな、でも緊迫した声。
このままでは皆が焼け死んでしまう。
火球はもうダメだ。
何か新しい攻撃手段を用意しないと。
「はあ、はあ、はあ」
熱い。
周囲を炎の鞭に包まれているから既に熱いのだが、その外側から灼熱の空気が舐めるように流れ込んでくる。
俺の火球が押し負けるごとに、その灼熱の空気が内側へと侵入してくる。
汗だくの衣服もすぐに乾きそうだ。
「はあ、はあ、はあ。
マジで次の一手で決めないと死ぬ」
追い詰められた。
炎で視界が埋まっている。
赤竜がどこにいるかは分からない。
勢いよく襲い掛かるドラゴンブレス。
この炎の先に赤竜がいる。
火球ではダメだ。
この火炎の波涛を切り裂けない。
一撃で貫くイメージ
それは閃光
「……」
気が進まない。
それはデイム達の命を奪ったものだ。
「……」
だからこそ効果がある。
気は進まないが、やるしかない。
天まで駆け上がる閃光のイメージに魔素を込める。
ドラゴンブレスを貫くイメージを重ね掛けし、さらに魔素を込める。
赤竜の頭を吹っ飛ばすイメージをさらに重ね、さらに魔素を込める。
「雷の威力、思い知れ赤竜!!!」
放つ。
一瞬だった。
俺の火球を吹っ飛ばし、ドラゴンブレスを貫通し、上空で轟音が爆発した。
あまりの轟音に気絶しそうになる俺。
気が遠くなり鉄塊にへたり込む。
「……」
頭が回らない。
俺はなんとか顔を上げる。
視界は開けている。
炎の鞭が無くなっている。
原野がひろがっている。
赤竜は?
思った時には、視界の上から下へと真紅が通過していた。
地面に激突する音に顔をしかめる俺。
「勘弁してくれ」
まだ耳鳴りがおさまっていない。
赤竜が健在なら、きっと泣いていただろう。
俺は地面に激突した赤竜を観察する。
動かない。
翼も尻尾も動かない。
長い首の上、赤竜の頭は無かった。




