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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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サラとの共闘

「カイル様」


ロイの呼びかけ。

俺はサラから目を離す。


「どうしたんですか?」


「私はこのまま、魔狼を片付けながら歩廊を1周してきます」


俺の問いかけにロイは剣先を魔狼に向けながら答えた。

ロイが剣で示した魔狼はこちらを警戒して立ち止まっている。

先行した2頭が一瞬で殺されたのだから当然といえば当然だ。


デイムも抜けてロイも抜けるのか。


それは勘弁してくれというのが俺の本音だが、

ロイが援護に行かないとかなりの確率で犠牲者が出ることになる。

つまり、ここで俺がロイの提案を却下すると、ここではないどこかで戦っている獣人を見殺しにすることになってしまう。


自分か他人か。

優先すべきはどっちなのか?


「……分かりました。この場は僕達が預かりますから」


俺はそう言いながらサラと目を合わせる。サラは頷く。そしてイネスも頷いてくれた。


「ロイは気にせず務めを果たしてきて下さい」


俺は努めて平静な態度でロイを送り出すことにした。

ロイも「御意」と力強く頷くと背中を見せて走り出した。


その姿を見送ってからサラに尋ねる。


「こっちに来て良かったのか?」


サラは俺の隣に並びながら


「問題ない。デイム様がいればあっちの戦線が崩れることはないから」


と静かな声音を返した。


「そうなんだ」


デイムの信頼度高いな。


俺は内心そう思いながら壁に近づいてきた魔狼達を氷矢で射抜いた。


「もしかして1人でも平気だった?」


サラは俺の疲労度を見極めようと真面目な目で俺を見つめてくる。


「1人で頑張れって言われたら頑張るけど、流石に広いから手伝ってくれた方が嬉しいかな」


俺は迫る火弾を風弾で吹っ飛ばしながら答える。

サラは崩れる炎をいくつか見た後で


「わ、分かった。手伝う」


と戸惑いながら俺の願いを聞き入れてくれた。


サラはどう戦うのだろう?


俺はサラの身体を上から下へと順に観察する。

ピンと立った猫耳は周りの音を聞き逃すまいと小刻みに動いている。

防具は革の胸当てと手甲。

武器は腰に帯びた剣のみだ。


弓は矢が尽きたから置いてきたのか?


初期装備の弓を持っていなかったので、そんな疑問が浮かんできた。

だが、あれだけの大群を相手にしたのだ、矢が尽きていてもおかしくはない。


俺が1人で納得しているとサラが手元に氷を創り始めた。


最初、俺は氷矢を創っているのだと思ったが、

その太さが矢より一回り大きくなり、二回り大きくなったあたりで

その考えを改めた。


矢というより杭だな。


「カイル、後ろで火吹いている狼達狙える?」


「狙えるけど、避けられるぞ?」


「そこを狙う」


なるほど、時間差攻撃か。

俺はサラの意図を理解した。

確かにそれなら仕留められそうだ。


「なら、行くぞ!」


「いつでも!」


俺の気勢にサラが応える。

俺は火が灯った場所を目ざとく発見するとそこに氷矢を撃ち込んだ。


灯に向かって飛んでいく氷矢、サラは構えたまま動かない。


もうすぐ氷矢が到達する、その前に灯が消えた。

魔狼に勘付かれた。俺の攻撃は避けられる。


俺はサラの横顔を見る。

サラはある一点を凝視していた。


俺には見えない闇の中、サラには魔狼の動きが見えていると思ってしまうほど

真剣な表情をしていた。


「当たれ」


口の中で呟かれた言葉が微かに聞こえた。

その直後、鋭い風切り音が起こった。

氷杭が撃ち出された音、俺はすぐさま目で追った。


氷杭の煌めきを見たのは一瞬で、その直後氷杭は闇の中へと消えてしまった。


「当たった?」


「当たった」


サラは言葉少なく成果を告げる。

俺には闇を見通せないのでサラの言葉を信じるしかない。


まあ、疑う気は最初からないけどね。


壁をよじ登ろうとする魔狼も厄介だが、それを援護する後方の魔狼はさらに厄介だ。

早めに駆除できるならば、それに越したことはない。

後方の援護部隊がいなくなれば、上空の警戒に気を配る必要がなくなる。

そうなれば、地上で突撃してくる魔狼を仕留めるだけの簡単なお仕事になる。


「すごいな、サラ。こっちに来てくれてありがとう」


俺は賞賛と感謝の言葉を口にした。

それを受けたサラは目を丸くし、視線を逸らした。

頰を紅潮させている。


ふむ、どうやら褒められ慣れしていないようだ。


俺が何か別の褒め言葉を送ろうとすると


「狼が来てる。早く仕留めて」


サラがこちらを見ずに指示を出した。


「悪い」


俺は一言詫びを入れてその群れを仕留める。


どうやら会話する相手ができて気が抜けていたらしい。

よろしくない。


俺は気を引き締め直す。


「援護部隊はサラに任せていいか? 俺は突撃部隊を受け持つから」


「分かった。けど、援護部隊への牽制射撃は忘れないで。私1人じゃ仕留めきれないから」


「分かってる。牽制射撃する時は声を掛ける。他何かあるか?」


「ない」


サラは氷杭を創造する。

俺は近づいてくる魔狼を串刺しにしつつ、左から飛んできた火弾を粉砕する。


タイミングが悪かったな。


左側は火弾発射に間に合わなかった。

なら右だ!


灯がついた。しかも3ヶ所。


「サラ、右側3ヶ所!」


「はい」


俺は早口で目標を伝え、サラは氷杭の狙いを定めた。

俺はそれを確認し氷矢を灯に向かって放った。


あとはサラに任せた。


俺は次の標的を探す。

左端を疾走する魔狼の群れを発見した。


遠い。


遠いとそれだけ外すリスクが高くなる。

俺は30本の氷矢を一群として魔狼の群れに解き放った。


「当たった」


サラの報告。


「中央3、左4、好きなの狙え」


俺は氷矢を展開し7カ所同時に斉射した。

サラが遅れて氷杭を創造し構える。


あとは任せた。


次の標的。

流石に中央を突っ切ってくる魔狼は少なくなった。

それでも単身で向かっている命知らずが3、4頭はいる。


俺は一番近くにいる魔狼を仕留めた。


「次良いよ」


隣からサラの声。狙撃の腕は良いようだ。

俺はサラをチラ見する。

氷杭は準備済み。


俺は口元に笑みを浮かべた。


「次、左5、中央2、右1」


俺は牽制射撃を行った。

援護部隊は今まで放置してきたから数が残っている。

しかも狙撃は1回につき1頭だ。

あと何回繰り返せば終わるのか見当もつかない。


それでもサラに頑張ってもらうしかない。


俺は中央を走る残り魔狼に順に氷矢を浴びせる。


1人時間差攻撃なら俺でも援護部隊を仕留めることができる。

だが、仕留めるのに2回攻撃しなければならない。

その手間が惜しい。

そう思ってしまうほど突撃部隊の数が多すぎるのだ。


「カイル、次お願い」


「分かった」


サラの願いに即応。


「左3、中央7、右5」


俺は宣言通りそれぞれに氷矢を放った。


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


俺が牽制、サラが狙撃。

このルーティーンを何度繰り返しただろうか。

最初から数えていないので分からない。


だが、結果は出た。

炎の弾幕が薄くなっている。


「サラ、分かるか?」


「うん、分かるよ。たぶん8割以上は倒したはず」


終わりが見えてきた。


胸のうちから喜びが湧き上がるのを感じる。


「あとは突撃部隊を蹴散らせば終わりだな」


俺の言葉には喜びが滲んでいた。


「うん。防衛戦はもうすぐ終わる」


サラも俺の意見に同意してくれた。


「時間的にみて、そろそろ全部入りきる頃だと思う」


「!?」


聞き捨てならない言葉に俺は魔狼から目を離しサラの方を見る。


俺の視線を感じたサラが顔を向ける。

綺麗な黒い瞳が俺を捉えている。


「あなたはよく戦った。集中して目の前の仕事を全うしてくれた」


目の前の仕事。引っ掛かる言い回しにサラへの意識が強くなる。

だから、サラの視線誘導にまんまと乗せられて俺は後ろを振り向く。


街だ。

俺達が必死になって守っている街だ。


その街から黒煙が上がっている。

あちこちの家から火の手が上がっている。


「防衛戦は終わり。ここからは掃討戦の時間」


サラが新たな戦いを告げる。


俺達の戦いは終わらない。

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