129 ベアトリスの炎の鞭
持久戦
ひたすら攻撃を続け、赤竜の戦意を喪失させる作戦
俺は空を見上げる。
俺達の周りを旋回している赤竜。
赤竜の視界に収まらないように鉄塊の周りを動き続ける俺。
魔法の撃ち手が少なくなってきた。
仕方がない。
高威力の魔法を連発していれば、いずれは息切れする。
弾幕が薄くなり、ますます動きが活発になる赤竜。
!?
赤竜が高度を落とす。
攻め時だと判断したようだ。
押し返すために、俺は火球を放つ。
赤竜が翼を広げ、火球の横を滑るように通過していく。
「速いな」
俺も火球を連発しながら鉄塊の裏へと移動する。
赤竜の旋回スピードが上がり、俺は火球を放つより隠れる方が多くなる。
獣人達の魔法攻撃は続いている。
だが、さらに撃ち手が少なくなっている。
もう弾幕とはよべない。
まずい。
このままだと撃ち手が俺だけになる。
魔眼に狙われる。
その恐怖に背筋が寒くなる。
「私が赤竜の視界を塞ぎます!
余力のある者は攻撃を続けなさい!」
ベアトリスが大声を発する。
どうやって? と思った。
炎が巣穴から飛び出してきた蛇のように現れる。
そして、俺達の周囲を幾重にも取り囲む。
長大な炎の鞭
ベアトリスが炎の鞭をしならせ、赤竜の視界を塞ぐ。
「私もグレアム達の竜退治の方法は聞き及んでいます!
魔眼は私が対応します!
気にせず攻撃を続けなさい!」
有難い。だが
「危険です、ベアトリス様!
貴女は指揮に集中して下さい!」
俺は忠告を発する。
一国の王女を死なせるわけにはいかない。
炎の鞭も俺が引き受けようと声を出す前に、
「戦力が足りません!
このままでは赤竜に押し込まれてしまいます!
カイル、貴方は攻撃を続けなさい!」
再度の攻撃指示
ベアトリスの判断は正しい。
ここが正念場だ。
「ではお任せしますよ、ベアトリス様!」
「ええ、任せて下さい!」
俺は鉄塊の上によじ登る。
もう逃げも隠れもしない。
炎の鞭に守られているので魔眼を気にする必要はない。
俺は赤竜を探す。
炎の鞭の隙間から赤竜が飛翔する姿を捉える。
「ふー」
威力よりも速度を重視
大きさよりもテンポを重視
速く、そして早く。
「乱れ撃ちだぁ!」
俺は火球を連発し始める。
一回り小さくなった火球を赤竜に向けて撃ちまくる。
そこに赤竜がいるかいないかはどうでもいい。
これは威嚇射撃だ。
赤竜が怯めばそれでいい。
俺は炎の鞭の隙間から、その隙間を埋めるように火球を撃ちまくる。
赤竜が軌道を変える。
それに合わせて炎の鞭も波打つ。
絶え間ない変化に合わせて、俺は火球を空に向かって撃ちまくる。
視界は炎で真っ赤だ。
「GAA!」
空から短い悲鳴が届く。
当たった!?
「カイル、当たりましたよ!」
ベアトリスの嬉しそうな声が聞こえる。
当たるとは思っていなかった。
嬉しい誤算だ。
俺は勢いよく連射を続ける。
鉄塊の上から下を見下ろすと、何となくだが獣人達が俺のもとに集まり出している。
ベアトリスも鉄塊から鉄塊へと跳び移りながらこちらに近づいてきている。
守る範囲は狭い方が良い。
そういう事か。
炎の鞭で全員を守るのは精神的負担が大きすぎる。
ベアトリスのためにもこの戦いを早く終わらせなければいけない。
一発当たったのだ。
もう二、三発当たるはずだ。
俺は連射を続けながら、俺達の戦いが限界を迎えようとしている事を悟った。




