122 王家が怪しいんだ
「報告した」
クライブが白状した。
悲しいな。
クライブは、とっくに俺達の命を国王の掌に差し出していた。
国王がその気だったら、俺達は死刑になっていたのだ。
悲しいな。
でも、クライブが悪いわけではない。
この人は職務を全うしただけだ。
俺は、質問を続ける。
「いつですか?」
「去年の冬、
お前達が秘密を打ち明けてからすぐだ」
「仕事熱心ですね」
つい嫌味を言ってしまった。
「ふん」
鼻を鳴らすクライブ。
言い返してこない事に少し驚く俺。
素直に話す気になったという事だろうか。
なら、こちらもクライブの機嫌を損なわないように言葉に注意しよう。
「失礼。
では、他に話した人間は?」
「いない。陛下だけだ。
部下達にも話していない」
それは有難い。
最低限の配慮はしてくれていたようだ。
「なぜ国王は裁判を開かなかったのですか?」
「陛下の判断だ。
私は知らない」
「異世界絡みの情報を公にしたくなったという事ですか?」
「私は知らない。
知りたければ陛下に聞くといい」
にやりと笑うクライブ。
意趣返しか。
クライブの口を割らせるために国王への直訴を切り札として切ったが、
クライブが素直に話すようになった今ではただの切損になる。
せっかく国王が秘密にしているのだ。
俺が国王に接触する事でその秘密が露見するかもしれない。
それは避けたい。
「なぜ国王は私達の事を一年間も放置していたのですか?」
この一年間、国王からの接触は無かった。
デイムからもそんな話は聞いていない。
興味がない……?
いや、そんな事は無いはずだ。
泳がせていたと考える方が自然だ。
「知らんな。
陛下に聞くといい」
余裕な態度のクライブ
「そうですか」
国王についての質問は、しても無駄だな。
「支部長、もしもの話ですけど
落雷事故が人為的に引き起こされたものだったら犯人は誰だと思いますか?」
「事故は事故だ。
犯人なんて存在しない」
クライブが断言する。
その姿から意見は変えないという強い意志を感じる。
これは本音を引き出すのは難しそうだ。
「デイムさんは敵が多かった。
獣人擁護派のデイムさんを獣人討伐派は煩わしく思っていた。
その誰かがデイムさんを亡き者にしたいと思って不思議ではありません。
支部長もそう思いませんか?」
同意を求める俺
「ふん。
私に人の心など読めるわけがないだろ」
言質が取れない。
「慎重なご意見ですね。
でも私はそう思うんです。
そしてその筆頭が王家だと思っているんです」
王家を殺人の容疑者扱いする俺。
「……」
クライブの視線が鋭くなる。
怖っ
それでも俺は何事もないような顔で話を続ける。
「だって、そうでしょう?
地方貴族がデイムさんを殺してもうまみがない。
フット領が手に入るわけでもないのに、殺人という罪を犯すわけがない。
なら、うまみがあるのは誰か。
それは王家です。
デイムさんに邪魔されて出来なかった獣人討伐が出来るようになる。
実際に今その準備に動いているではありませんか」
「殺人だという証拠があるのか?」
クライブが凄む。
「証拠はありません。
ですが、状況は王家に利する展開です!」
そうだろうと目で訴える俺。
一番の容疑者が王家なのは間違いない。
二番目はゴルド家だが、メイソンを手に入れミルズ家乗っ取り計画が順調に進行している最中にデイム暗殺という暴挙に出るとは考え難い。
王家が犯人であるという証拠を掴みたい。
その証拠の一端、一欠片でもいいのでクライブの表情から読み取れないかと俺は集中して観察する。
「だから何だと言うんだ。
証拠も無いのに、王家を弾劾するつもりか?」
呆れるだけのクライブ。
「……そんな馬鹿な事はしません」
やはりクライブから情報を引き出すのは無謀だったか。
落胆、肩を落として背中を丸めたい。
その欲求に耐え背筋を伸ばす俺。
「保身を考える頭は残っていたんだな」
嫌味を言うクライブ。
ムカつく。
このオッサン、ムカつく。
悔しいが、表情には意地でも出さない俺。
「死ぬ気はないんでね。
ちゃんと考えて行動しますよ」
そう言って俺は立ち上がる。
もうここに用はない。
「それが良い」
クライブもやおら立ち上がり、歩き出す。
俺もその後に続く。
クライブが執務室の扉を開け退出を促す。
「レオン殿に宜しく伝えてくれ、カイル君」
「承知しました。
本日は貴重なお時間を割いて頂き有難うございました」
俺は頭を下げる。
「こちらこそ有意義な時間を過ごす事が出来た。
感謝する。
カイル君、またいつでも来ると良い。歓迎するよ」
にこやかに笑むクライブ。
「有難うございます、支部長」
俺も笑う。
こうして和やかな別れの挨拶を交わして、俺は帰路についた。
餌はまいた。
今回の話し合いもクライブは国王に報告するだろう。
俺が王家に対して疑いの目を向けていると。
これで王家も何らかの反応を示すだろう。
そうあって欲しいと切に願う俺だった。




