120 伯爵になる条件
叔父レオンから手紙が来た。
手紙を読んだ俺はすぐさま王都に急行した。
「レオン叔父様!
この条件で本当に爵位を継ぐつもりですか!」
ノックもそこそこに執務室に乗り込む俺
「来るのが早いな。
伝令の騎士より早いじゃないか」
呆れ顔のレオン
伝令の騎士はフット領で休息中だ。
「急いできましたので。
そんな事より爵位についてです」
執務机越しに対面する俺とレオン
「仕方ないだろう。
この条件をのまねば爵位を継げないのだから」
レオンが溜息を吐く。
俺が噛みつきに来ると分かっていたような反応だ。
「サリム殿に何と言って説得するつもりですか?」
「説得はしない。
最後通牒を突きつけるだけだ。
立ち退かなければ滅ぼすと」
無情に告げるレオン
「そんな事をしたら、獣人達がどんな行動にでるか分かりませんよ」
怒りに身を任せてフット領を襲撃する可能性だってある。
「仮にフット領で凶行に及べば、それを理由に討伐するだけだ」
レオンは静かに告げる。
フット領襲撃も許容している。
レオンは本気だ。
絶句しそうになる俺。
だが、どうにかしなければという思いで口を開く。
「お祖母様がやってきた事が無駄になってしまいます!
今まで獣人と上手く共生してきたんですよ。
一度刃を交えたら、今まで築き上げてきた信頼関係が台無しになってしまいます。
それでもいいのですか?」
「母は争いを好まなかった。
そのおかげでフット領は平穏だった。
そして、そのせいで獣人の拠点が拡大する事を許してしまった」
この発言だけで分かる。
レオンはデイムの意志を継ぐ気が無いのだと。
「拡大してはいけないのですか?」
ああ、つまらない質問をしてしまった。
獣人擁護派のデイムがいなくなったのだ。
デイムが作り上げた擁護派は既に瓦解している。
大勢は決している。
「国王陛下をはじめ多くの貴族が反対している。
爵位を人質に取られてしまえば、私達は従う以外の選択肢が無い。
カイルは、獣人のために爵位を諦めろと言うのか?」
冷静な状況判断だ。
爵位を諦めるなんて馬鹿げでいる。
それこそ、デイムの努力が無に帰してしまう。
「フット領はフット家のものです」
それは絶対だ。
「分かってくれて嬉しいよ。
私が爵位を継いだら、すぐにフット領入りする。
そして獣人討伐隊を編成して討伐を開始する」
今後の予定を教えるレオン
「立ち退き要求は!?」
思わず大声を出す俺
立ち退きしなかったら攻撃するって話でしょ!?
「私が伯爵になるのは、春の新年会の時だ。
それまでに要求するしかあるまい」
あるまいって
「冬の間にどこかに行けと!?」
「そうだ」
あっさりと言い切るレオン
「そんな無茶な!
一体どこに行けと言うのですか?」
「それについては関知しない。
この国以外ならどこでもよい」
なんて無責任な発言
俺は唖然とする。
「立ち退き要求は春になってからでも遅くないでしょう?」
俺は真っ当な指摘をする。
急ぐ理由は無いはずだ。
俺の発言にレオンは苦い顔をする。
「それでは遅いのだ」
「遅い?
なぜです?」
レオンがさらに苦い顔をする。
「ゴルド伯爵が獣人討伐に志願している」
「ゴルド伯爵が!?」
「そうだ。
私達がまごまごしていれば、ゴルド伯爵の部隊がフット領に出張ってくる事になる」
あの爺ぃ余計な事を
俺も苦い顔になる。
「ミルズ家を守るためにもゴルド伯爵に武功を挙げさせるわけにはいかない」
ミルズ家との同盟もデイムが成した事だ。
蔑ろにしてはいけない。
フット家の存続
ミルズ家との同盟
優先順位の高いものが選ばれ、
獣人の保護
優先順位の低いものが切り捨てられた。
よくある話だ。
レオンの判断は正しい。
正しいが、切り捨てられる者の顔が浮かんでしまう俺にとっては簡単に割り切れるものではなかった。
「……」
黙り込んでしまう俺
「獣人の拠点を急襲しても良かったんだ。
立ち退く時間を与えたのは、国王陛下の温情だ。
穏便に済む事を陛下は願っておいでだ」
レオンの諭すような優しい声音
優しいのだろう。
確かに温情なのだろう。
でも勝手だ。
「……」
結局、俺は何も言えなかった。




