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118 デイムの死

デイムが亡くなった。


いまだに信じられない。

だが、二人の遺体を目の当たりにすれば納得するしかない。


雨は今日も降っている。

吐く息は白い。

雨に濡れるのが嫌なのでフードを目深に被る。


俺は、早朝から事故現場に来ていた。

現場では、フット騎士団が大破した馬車を片付けている。


貴族の邸宅が並んだ街路

道幅は広く、邸宅まで距離がある。


とは言え、建物より背が低い馬車に雷が落ちるだろうか?


雷は高い所に落ちる。

馬車ではなく建物に落ちる方が自然だ。


「……」


俺は眉間に皺を寄せる。


雨音に紛れて足音が近づいてくる。

俺は護衛の騎士に目配せで待機を命じる。


「おはよう、カイル。

ここに来れば会えると思っていたよ」


フードを被った少年が声を掛ける。


聞き覚えのある声だ。


「ジル」


俺は少年の名を呼ぶ。


ジル・ブロウ

ブロウ獣王国、第七王子


自称王子様だ。

後ろに護衛四人を連れている。


「カイル、顔怖いよ」


苦笑するジル。


俺はジルが王都にいる事は知っていた。

だから、驚きはない。


「僕に何の御用ですか?」


「ああ、以前、伯爵に紹介状を書いてもらっただろう。

お陰様で王族と会う事が出来た。

そのお礼を直接会って伝えたかったんだけど、お忙しいようでその機会が無かった…………」


ジルが黙って俺を見る。


「だから代わりに僕にお礼を言いに来たと?」


「そうだ。

伯爵のご厚意は決して忘れない。

伯爵に感謝を」


頭を下げるジル。


「カイル、何か困った事があったら言ってくれ。力になる」


「……収穫は無かったはずですが、そんな事仰ってよろしいんですか?」


ジルが王都に来た理由は二つ。


ブロウ獣王国を正式な国家として承認してもらう

奴隷身分の獣人を買い取る


どちらも王弟サイラスによって拒否されている。


「確かに、承認も買い取りも拒否されたが、それもまた収穫だ。

王家の方針を確かめられた、それだけで十分だ」


あっさりした態度のジル。

強がっているようには見えない。


「これからどうするんですか? 諦めるのですか?」


ジル達が今後どう出るか、確かめなければ。


「それは王である父が決める事だ。

僕は今回の結果は報告するだけ。

逆に僕も質問したい。

フット家はこれからどうするんだ?」


どうする?

当主であるデイムを失ったフット家は、行き先をも失ってしまった。


ゴルド家はどうする?

獣人達はどうする?


「分かりませんよ、そんなの」


率直に、そして自棄気味に答えた。


「そうだよな。

急な事だ。いきなり答えられるわけがないな。

すまない」


ジルが謝る。


殊勝な態度

強引に事を進めようとする印象が強いジルが、こちらに配慮を示した。


ジルにとってもデイムの死は、それだけショックな出来事だったという事か。


「でもな、カイル」


硬い声音


黒い瞳が俺を見ている。


「伯爵は偉大だった。

この国にとっても、サリム殿達にとっても。

両陣営の思惑を押しとどめる防波堤だった。

だが、その防波堤は失われてしまった。

見たくないという気持ちも分かるが、顔を上げなければこの流れに吞み込まれるぞ」


それは警告だった。


俺は視線を鋭くする。


「ジル、何を知っている?」


「何も。僕は余所者だ。

この国の事はカイルの方が詳しいだろ」


「嘘だ!

サリムさんの所で何を聞いた!」


ジルは、獣人の北の拠点であるサリムの街に訪れている。

あそこには、ユーグをはじめとする反王国派の獣人が存在する。


俺の声に作業をしていた騎士団が顔を向ける。

それに反応して、ジルの護衛が剣呑な雰囲気を発する。


ジルが騎士団を見渡す。


「ただの世間話さ。

そんなに気になるなら、確認しに行けばいい」


俺の苛立ちをあっさりと受け流すジル。


俺も騎士団の様子を確認する。

作業を止めてこちらに来そうな雰囲気だ。


「くっ」


俺は追及を諦める。


「騒ぎを起こすのは本意じゃない。

僕らはこの辺りで失礼するよ。

じゃあね、カイル」


ジルが背中を見せる。


「……」


何も言えず、俺はその後ろ姿を見続けるしかなかった。

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