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116 メイソンとエレインの婚約発表

パチパチパチパチ

会場のあちこちから拍手の音が上がる。


新成人がこちらに戻ってくるので拍手で迎えなければならない。

俺も拍手を送る。

こちらに戻ってくるジェイクに。


「おめでとう、ジェイク。

これでもお前も一人前だな」


ゴルド伯爵が機嫌よく笑う。


その笑顔に他意はない。

孫の成長を喜ぶ祖父の顔だった。


「有難うございます、お祖父様。

これからは、正式なゴルド家の男子としてお祖父様のお役に立ってみせます」


ジェイクが決意を表す。


「よく言った、それでこれ儂の孫だ。

期待しているぞ」


「はい」


ゴルド伯爵とジェイクがニヤリと笑う。

その視線の先は俺だ。


こっちを見るな。

一言言いたくなるがここは我慢だ。

国王の社交会で騒ぎを起こすわけにはいかない。


安い挑発は無視するのが一番だ。

俺は黙って二人を眺める。


挑発は無効と判断したらしいゴルド伯爵が標的を変えた。


「さて、もう一人の孫はどうかな?」


メイソンに声を掛ける。


メイソンは俺から離れた場所にエレインと一緒にいる。

ミルズ家はフット家とゴルド家の間にいるので、メイソンはフット家側ではなくゴルド家側にいるという事だ。


十歩足らずの距離なのに遠いと感じてしまう。


「エレインと婚約出来た事、大変嬉しく思っております。

私は人生を懸けて彼女を幸せにする所存です」


真面目な顔で告げるメイソン。


「素晴らしい。

婿入りしてまでエレインを幸せにしようとする覚悟、祖父として嬉しく思うぞ、メイソン」


「恐れ入ります」


恭しく頭を下げるメイソン。


それを見て大仰に頷くゴルド伯爵。


「であれば、そろそろゴルド家の一員としての自覚が芽生えてきたのではないか?」


踏み絵か!?


メイソンを試すゴルド伯爵。


「……」


言葉が出ないメイソン。


「どうした?

ゴルド家に入るのだ、自覚が出て当然だと思うが?

まさか、無いとは言わないよな」


ゴルド伯爵が周囲に聞こえるように声を大きくする。


その行為に周囲がざわつく。

もとから高かった注目度がさらに高くなる。


耳目がメイソンに集まる。


ねちっこいな。

俺は、ゴルド伯爵のやり方に眉を顰める。


この場でメイソンにゴルド家の一員であると明言させる意味は大きい。

明言させれば、周囲はそう扱うし、メイソンの立場をメイソンの言葉で縛る事が出来る。


「……」


無いとは言えない立場のメイソン。


「どうした?」


ゴルド伯爵がメイソンを見下ろす。


事実だとしても口に出したくない言葉はある。

俺は拳を強く握り込む。


「……自覚はあります。

私はゴルド家の一員になります」


言葉にしたメイソン。


明るくなるゴルド家と暗くなるミルズ家。

対照的な両家を眺め、満足気に頷くゴルド伯爵。


本っ当腹立つな。

何かやり返す手立てはないだろうか。


俺が虎視眈々と反撃の手段を考えていると、婚約発表の順番がまわってきた。

今年婚約が決まった男女が国王に紹介されていく。


なるほどねぇ、これは勉強になる。


俺はこの社交会に参加するメリットを実感する。

どことどこが縁を結んだのかを知る事が出来るのは勿論の事、それを承認した国王の意向も推し量る事が出来る。

どこの縁を許して、どこの縁を許さなかったのかを知る事によって、今のエンマイア王国の勢力図が見えてくる。


不可解に見える縁組もある。

王家にとってメリットよりデメリットの方が多いと思える縁組だ。


その筆頭がゴルド家エレインとミルズ家メイソンの婚約だ。


ゴルド家が北に一大拠点を築けば王家の影響力が及ばなくなる恐れがある。

にもかかわらず、王家はミルズ家との婚約を容認しゴルド家の拡大路線に協力している。


解せない。

宮廷魔法士のゴルド伯爵と敵対する事を恐れているのか、

それとも、デメリットを上回るメリットが存在しているのか。


メイソンとエレインを紹介している国王の晴れ晴れとした表情からは窺い知れない。

もし、このゴルド家の計画が王家にとって喜ばしい事なら、それを邪魔しようとしているフット家は王家の敵という事になる。


さすがに王家と敵対するのはヤバい。

もう既に獣人問題で目を付けられているのに、その上さらに問題行動を起こせば王家の心証がヤバい。


なんか心配になってきた。


ちゃんと王家と合意取れているんですよね、デイムさん?


俺はデイムの横顔を盗み見る。

すまし顔で婚約発表を見ているデイム。


「……」


分からん。


メイソンは堂々と振る舞い、その隣でエレインは慎ましく微笑んでいる。

この二人の胸中も分からない。


普通なら幸福なシーンのはずだ。

華やかな会場で、国王に認められ、貴族の皆から祝福を送られるひと時。


俺が彼らの立場なら上手く笑えるだろうか?


「……」


答えは出ない。


アリシアがしっかりと二人を見つめている。

彼女の胸中も分からない。

微笑みながら、今にも泣きそうだ。


「アリシア、大丈夫か?」


何が大丈夫なのか、その『何』が分からない。


「大丈夫です」


だから、アリシアの大丈夫という答えも『何』が大丈夫なのか分からない。


ただ分かる事は一つ。

国王が二人の婚約を発表した。

余程の事が無い限り、メイソンとエレインは結婚する。


メイソンとエレインはきっと良い夫婦となるだろう。

それは喜ばしい事だろう。

祝うべき事だろう。


「……」


でもよく分らない。

目の前で行われている政略結婚に、俺はどう向き合えばいいのかその心の持ちようが分からなかった。

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