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114 王城の社交会

エレインに案内されて、買い物したり、食事したり、観劇したりして王都を満喫した俺。

お陰で王都の現状というものが何となくだが分かった。


活気がある。

冬は地方から貴族が集まってくるので、単純に人口が増えているからであり

その貴族があちこちで散財するので商店も張り切って商売しているからだ。


寒いのに皆元気だなと思った。


雪が降り始めた頃、ついに御前会議が終了した。

長った。

そして今日が本番の日。


俺は今日という日が来る事を静かに待っていた。

宵闇が王都の空を侵食している。


王城にやって来たのは、

デイム、フレッド

レオン、フリーダ

そして、俺。


子供が大人の中に交じっていると、場違い感を覚えると共に、これから行う事が政治的パフォーマンスであるという事を強く意識してしまう。


今日、王城で社交会が催される。

御前会議という今年一番の大仕事が終わった祝宴であり、今年成人した王族貴族の子弟のお披露目会であり、結婚婚約の発表会でもある。

とにかくめでたい事のオンパレードで明日の朝まで宴が続くそうだ。


案内役に連れられ王城内を歩く。

通路の分岐点には近衛騎士が立っている。

無表情でこちらに話し掛けてくる素振すらしない。


デイム達も近衛騎士が存在しないかのように素通りしていく。


これは王城内を探検するのは無理そうだ。


しばらく歩くと前方に、大きな扉が開け広げられているのが見える。


会場はあそこだろうか?


眩い光と話し声が溢れ出ている。


近付いて中を覗いてみれば、

人、人、人

会場内は着飾った人間達でいっぱいだった。


うっ!


視線が一斉に集まる。

新たな参加者を物色する視線に耐える。


デイムを先頭に会場に踏み込む俺達。


各テーブルには、花が生けてある。

冬に咲かない花もあるため、この日のために育成されたものなのだと分かる。


メイソン達はどこだろうか?


俺は会場を見渡しミルズ家を探す。

ここに来た目的は、ミルズ家と仲良しアピールをするためだ。


げっ!


そして、すぐに見つけた。

エレインとゴルド伯爵も一緒にいる。


ゴルド家も仲良しアピール大作戦を実行中だった。


考える事は同じという事か。

だが、図々しい。

嫌われている自覚がないのだろうか。


忌々しいと思いながらも、顔には出さない俺。


「ミルズ伯爵、御一緒してもよろしいですか?」


デイムがメイソンの父であるミルズ伯爵に尋ねる。


「ええ、もちろんです。

ゴルド伯爵と一緒ですがよろしいですか?」


ちらりとゴルド伯爵の顔色を窺うミルズ伯爵。


夏休みに会った時より、頬がこけているように見える。

ミルズ夫人も元気が無さそうだ。


跡取り息子だったメイソンがゴルド家に婿入りする。

その胸中を正しく察する事なんて俺には出来ない。


悔しいが、この婚約話に介入できる口実がない。

救いがあるとすれば、これが結婚ではないという事だ。

まだチャンスはある。

情勢さえ変われば……


「構いませんよ、ゴルド伯爵がいらっしゃっても」


そう言ってゴルド伯爵に不敵な笑みをみせるデイム。


「相変わらず勇ましいな、フット伯爵。

今日位は大人しいのかと思ったぞ」


ゴルド伯爵がデイムの姿を見ながら揶揄する。


デイムはいつもズボンスタイルを愛用している。

だが、今日は違う。

ロングスカートのドレス姿だ。


ゴルド伯爵がツッコミを入れるのも理解できる。

俺も見た時は、思わずツッコミを入れそうになった。


デイムがドレスを選んだのは、主催者である国王に気を遣ったのか、隣に立つ夫のフレッドに気を遣ったのか、その理由は分からない。


「場に合わせた装いをする。

普通の事では?

場を荒らす事が好きなゴルド伯爵には関心が薄い事柄なのかもしれませんが」


デイムが、白髪の偉丈夫を挑発的な眼差しで見上げる。


「場を荒らすのが好きなのは其方の方ではないか?」


ニヤリと笑うゴルド伯爵。


含みのある言葉を投げ合う二人。

場が何を指すのか……


「はて?

そんなにおかしい恰好をしていますか?」


デイムが素っ惚けてドレスの裾をヒラヒラさせる。


目を眇めるゴルド伯爵。


女性の着飾った姿にケチをつける。

紳士にあるまじき行為だ。


「ふん、まあよい。

今日は祝いの席だ。

主役の顔を立てねばな」


舌戦を止めたゴルド伯爵が後ろを振り向く。

そこには、ゴルド家の面子がいる。


エレインを紹介するのかと一瞬思った。


「ジェイク、こっちに来なさい」


ゴルド伯爵が呼んだのは別人だった。


現れた少年は、ゴルド伯爵を一回り小さくしたような骨太男子。


「儂の孫のジェイクだ。

今年、成人した」


「ジェイクと申します。

フット伯爵にお会いできて光栄です」


精悍な笑みを浮かべるジェイク。


「成人おめでとう、ジェイク殿」


言祝ぐデイム。


「ジェイクは、来年春からガジャ魔法学校に通う事になっている。

カイル君の後輩になる。

宜しく頼むよ、カイル君」


ゴルド伯爵が俺に声を掛ける。


「よろしく、カイル先輩」


握手を求めるジェイク


その目は獲物を狩る冷たい光を発していた。


「こちらこそ宜しくお願いします、ジェイクさん」


固く握手を交わす俺とジェイク。


ついに来たかという感がある。


ゴルド家の目的は、ミルズ家の当主の座だ。


そのために次期当主のメイソンを排除した。

他の候補者も同じように排除するだろう。


だが、排除するだけでは当主の座は手に入らない。

手に入れるためには、ゴルド家の者をミルズ家に送り込まなければならない。

その手段が、アリシアとの結婚だ。


現在、俺がアリシアの婚約者なので、俺も排除対象となっている。


夏に婚約を発表してから今までゴルド家からの攻撃を受けた事がない。

だから、ついに来たなという感想を抱く。


「今日初めてアリシア嬢とお会いしましたが、こんなに可憐なお嬢さんが存在するのかと驚いてしまいました。

婚約者のカイル先輩が羨ましいですよ」


ジェイクがアリシアに視線を向ける。


曖昧に微笑むアリシア。


アリシアを守らねば。


「魔法学校には沢山の生徒がいます。

その中にジェイクさんの理想のお相手がいるかもしれません。

良縁がある事を期待して春を待つのも一興だと思いますよ」


牽制する俺。


「そうですね。

出来た縁を育てながら春を待つ事にしましょうか」


食らい付いてくるジェイク。


「そうだな。

私も魔法学校の先輩としてジェイク殿に教授できるものがあるかもしれない」


会話に割って入って来たのはメイソンだ。


「メイソン殿……」


「ゴルド家という看板を背負って行くんだ。

学校の皆も好奇な目で見てくる。

不用意な言動が、ゴルド家に不利益をもたらす可能性もある。

その辺りの学校での立ち振る舞いを教えてあげよう」


親切そうな笑顔のメイソン。


実際、親切だし有用な教えだと思う。


「ありがとうございます、メイソン殿」


そう言うしかないジェイク。


自分を盾にしてアリシアを守ったメイソン。


俺は素早くゴルド伯爵を盗み見る。

俺達のやりとりを楽しそうに見下ろしている。


ムカつく。高みの見物か。


まあ、勝負ここからだ。

ゴルド家の野望を打ち砕く決意を固める俺だった。

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