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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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戦況悪化

「魔狼、防衛線突破! 魔狼に壁を越えられた!」


苦渋に満ちた悲報、俺は声のする方を見る。

ロイの先、懸命に弓を射っている獣人達の姿があった。

歩廊には既に魔狼の姿はない。


獣人達の様子から見ても余裕はなさそうだ。

俺は獣人達だけでは魔狼をさばききれないと判断してデイムに指示を仰ぐ。


「お祖母様」


「分かっている。でも慌てる必要は無いよ。

街に魔狼が入り込むのは想定内。ちゃんと守備隊が配置されているから心配いらない」


「ですが、助けに行かないと魔狼がどんどん中に入ってきますよ」


俺は食い下がる。


「自分の持ち場を守れ。カイルが抜けたら、防衛線に穴が出来る。

その穴を埋められるやつは誰もいないんだ」


デイムに諭され、俺は反論できず押し黙る。


俺は歯がゆい気持ちで自分の持ち場を見渡す。

最初に受け持った範囲、そこから横に広がっていき

今では5人で担当していた範囲を俺一人でさばいている。


ちなみに、デイムも5人分、ロイも3人分担当している。


ここを放り出して他の場所に加勢にいくのは無理だよな。

持ち場制の欠点は自分の持ち場から移動できない事だ。

だから仲間がピンチでも救援に行くことはできない。


自分の仕事を全うしよう。


俺は外から迫る魔狼の群れを見下ろす。


それから俺は2度3度魔狼を迎撃した。


「魔狼がそっちに行ったぞ!」


警告の声がした。

俺は歩廊に視線を飛ばす。


等間隔に並んだ篝火、木板を敷き詰めた床。

魔狼はいない。

さらに奥に目を向ける。


黒い塊が、魔狼がこちらに向かってきている。

速い。

木板が削れる音がする。


どうする?


魔狼は1頭だけだ。

こいつだけに時間を使うのはもったいない。

だが、放置しておくのもまずい。


背後から襲われたらひとたまりもない。

俺は獣人の射手が襲われるのではないかとヒヤヒヤするが、

魔狼は射手に一瞥をくれるが素通りして突っ走ってくる。


襲うチャンスがあったのに襲わなかった。

ただ射手を動揺させただけ。


「撹乱が目的か」


俺は魔狼の狙いを呟く。

射手1人と格闘するよりも射手全体の手を止める方が、魔狼の登壁成功率は高い。

今は1頭で効果は乏しいが、2頭、3頭と数が増えれば登壁成功率も跳ね上がる。

歩廊で乱戦になれば防衛線は崩壊だ。


「!?」


ロイが弓を置き剣に手をかける。

そしてゆっくりと歩廊の中央へ歩を進めた。


「カイル様、しばしの間私の持ち場をお願いします」


ロイは一瞬だけ目配せし魔狼の行く手を阻む。


「え?」


俺は何も答えていない。

ロイは背中を向けたままこちらを見ようとしない。

仕方が無いので、俺はロイの持ち場を確認する。

魔狼も来ているし、火弾も来ている。


四の五の言っている場合じゃない。


「さばいてみせる!」


ロイの信頼に応えるべく

俺は気合いを込め氷矢と風弾を五月雨に撃ちまくった。


これでロイの所はひとまず安全、次は俺の所だ。


複数の火弾が飛んできている。

俺は風弾を矢継ぎ早に撃ち、火弾を撃ち落とす。


風弾は手元の空気を塊と認識し、そのままぶっ放すので、

速射性に優れている。


だが、殺傷性は低いので

俺は多数の氷矢を空中に展開する。


「魔狼にはこれだ!」


矢群を魔狼の群れに叩き込んだ。


木板を削る音が力強くなった。


近い!


俺は歩廊に目を向ける。

走る魔狼が身をかがめた。

ロイもそれに合せて剣を高く掲げる。


魔狼が牙を剥いて飛びかかる。

ロイは剣を振り下ろした。


鈍い音と共に魔狼の首と胴体が分かれる。

ロイが魔狼を断ち切った。


見事な一刀。


勝負は一瞬で決まり、魔狼の死体は勢いそのままに俺の元まで転がってきた。


俺は身をこわばらせながら生首を確認する。

堅そうな体毛、ぴんと立った耳、鋭い犬歯、そして黒い瞳。


その瞳がギロっとこちらを見た。


「!!」


まだ生きている。


斬られて間もないから、まだ意識があるのだ。


しぶとい。


俺は止めを刺そうと身構えるが、生首の瞳は虚ろなものに変じた。


これで一安心と思っていたら、


「カイル様、私はこのまま歩廊の守備につきますので、外の害獣の駆除お願いいたします」


「えっ、何でさ!?」


思いがけないロイの言葉にツッコミを入れてしまった。


ロイは背中を見せたまま剣を中段に構えて静止している。

俺はロイの視線の先を見つめる。


魔狼が2体、こちらに疾走してきている。さらに奥にもう1体いる。


「魔狼が行くぞ! 気をつけろ!」


警句が飛んでくる。


防衛線に穴が空いた。


俺は確信した。


「カイル、私の所も任せたよ」


気安い調子の声が耳に届く。

俺は振り返ってデイムを見た。


「ちょっと・・・・・・」


デイムは片手を上げてロイとは反対方向に走っていた。

俺はデイムの横顔のせいで二の句を告げられなかった。

口元に笑みを浮かべ余裕ぶっているが、その瞳は険しいほど真剣だった。


「マズいな」


戦況は既に劣勢。

そして夜はまだまだ続く。


「でも、やるしかないよな」


俺は広大になった持ち場を眺めつつ呟いた。

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