105 準決勝戦 第一試合 モニカ対ローザ
中天から下がり始めた太陽。
柔らかな陽光が訓練場を照らしている。
昼休みを挟んで、準決勝戦が始まろうとしている。
昼食を摂り腹が満ちた観客側の生徒達は、弛緩した雰囲気で開始の合図を待つ。
区切られた決闘場には、モニカとローザ。
この試合は、勝った方が学年女子最強の称号を得る。
その期待が二人に向けられるが、昼休みの雰囲気は両極端だった。
モニカのところには、貴族の令嬢が少人数のグループを作って順番に激励に訪れ、穏やかな雰囲気だった。
対して、
ローザのところには、平民の生徒達が男女問わず集まりローザを囲んで大変盛り上がっていた。
「ローザさんは、どうするの?」
俺は、ルーシーとナタリアに質問する。
「うーん、もう奇策は通用しないだろうし、
剣術勝負かな?」
ルーシーが答える。
「出来るの?」
剣術勝負が出来ないからこそ、一回戦は奇策に頼ったのだ。
トラウマを克服するのは容易ではない。
「ローザは、逃げるのは嫌って言ってたよ」
ナタリアが、ローザの意志を告げる。
逃げない。
これが、ローザが代表戦に挑むにあたって掲げた勝敗よりも大事なもの。
モニカ相手でも、その意志は萎えていないようだ。
さて、どうなるか。
準決勝戦、第一試合
学年首席 モニカ・フロー
対
魔法代表 ローザ
「準決勝戦、第一試合、試合開始!」
審判役のイングが、開始の合図を告げる。
一瞬の間
両者、動かず。
奇策を警戒したモニカ
奇策を選択しなかったローザ
俺がそう思うより早くモニカが動き出した。
モニカが剣を振るう。
ローザは?
「「行ったぁああ!!」」
ルーシーとナタリアが歓喜と驚嘆の声を上げる。
ローザが半歩踏み出し剣を振るった。
金属音が激しく鳴る。
「おお、すごい」
感嘆の声が漏れる俺。
この瞬間、ローザはトラウマを克服した。
でもなぜ?
ロジャーよりモニカの方が怖くない?
貴族への反骨心が恐怖心を上回った?
両方ともありえそう。
剣戟は続く。
剣術の巧拙は明白だ。
モニカが攻め、ローザが守る。
攻守逆転は無さそうだ。
モニカが、あっさりとローザの側面に回り込む。
防御も回避を出来ない体勢のローザ。
モニカの一撃で終わる。
そんな詰んだ状況
「勝負あり!
勝者モニカ・フロー!」
イングが大声で決着を告げる。
「「「あああ~」」」
平民の生徒達から落胆の声が上がる。
「あ~、やっぱ負けちゃったかぁ」
予想通りの結果に、ルーシーが苦笑を浮かべる。
「最後の瞬間、危なかったね。
イング先生、よく止めてくれたよ」
ナタリアが、胸に手を当て安堵の息を吐く。
「確かに、モニカさんが一撃入れてもおかしくないタイミングだったよね」
ローザ危機一髪。
イングの好判断が無ければ大怪我を負っていたかもしれない。
「ねー」
ナタリアが気の抜けた笑顔を見せる。
「ローザさん、負けてしまったけど大健闘だったんじゃない?」
頑張ったからこそ得るものが多かったと思う。
主に精神面で。
「マジ大健闘!
これでローザも自信取り戻すっしょ」
俺の問い掛けに、ルーシーが笑顔で答える。
「だな。
ルーシーの努力も報われたな」
俺も笑みを返す。
「それ! マジそれ!
うち、マジで頑張ったから!」
ルーシーは、本当によく頑張ったと思う。
だから、褒める。
「偉い。偉いぞ、ルーシー」
「いや~照れるな~
もっと褒めてもいいんだよ?」
褒め催促をするルーシー。
なので、しばらく皆でルーシーを褒め称えた。
あっ、モニカさん、決勝戦進出おめでとうございます。




