102 一回戦 第二試合 ローザ対ケント
一回戦第一試合はモニカの辛勝だった。
剣術で、実力が上回るダン相手に魔法を使わずに勝利をもぎ取ったモニカには称賛をおくりたい。
そう思う一方で、モニカ程の魔法の使い手でも一度も魔法を使えなかったという事実に、
改めて、魔法科目代表には厳しい闘いであると思い知らされた。
「ねぇねぇ」
ルーシーが話し掛けてきた。
「どうした?」
「モニカ様、魔法使わなかったけど、大丈夫かな?」
心配顔のルーシー。
大丈夫かな? の対象はローザだ。
もうすぐローザの試合が始まるため、ルーシーも気が気ではないのだ。
「やっぱり厳しいみたいだね」
俺は正直に話す。
「そっか。
やっぱり、ローザが勝つには試合開始直後に先手を取るしかないか」
微かに抱いていた希望を溜息と共に吐き出し、覚悟を決めるルーシー。
「よし、応援しよう」
ルーシーが俺達に声を掛ける。
俺、ネイト、ミック、ナタリアが頷く。
「「「「「ローザ、頑張れ」」」」」
皆で声援を送る。
俺らの声が届いたのか、届いていないのか、ローザは無反応。
それどころではないのだろう。
ローザは、目の前に立つケントを見つめている。
逃げずに闘う事を目標に、代表戦に臨んでいるローザ。
最初の一歩を踏み出せるか否か。
ローザが誇りを取り戻すために越えるべき、最初にして最大の障壁。
俺達は、見守るしかない。
一回戦、第二試合
魔法代表 ローザ
対
格闘術代表 ケント
「一回戦第二試合、試合開始!」
審判役のルシアン・イングの声が響く。
ケントが前進。
ローザも一歩前へ。
剣術勝負。
見ていた者はそう思っただろう。
だが、実際は剣と剣の激突を起こらなかった。
ローザがケントの頭上を跳び越える。
「よし!」
思わず声が出る俺。
ローザはケントに向かって踏み出した。
勇気を示したのだ。
これでもう彼女は自由だ。
ケントが振り返る。
ローザはまだ空中、叩き落とすように剣を振るうケント。
!
空気を裂く雷鳴と閃光が決闘場を包む。
次に目に映った光景。
ゆっくり倒れ込むケントと何とか着地するローザ。
「よし!」
ルーシーが喝采の声を上げる。
電撃。
金属の全身鎧を伝わり生身へと到達する、ちょっと危険な魔法だ。
勝つためにこれを選ぶとは、ローザは余程長期戦になる事が嫌だったようだ。
「これを練習していたのか?」
俺は、隣で喜んでいるルーシーに尋ねる。
「そうだよ。
避けるだけじゃ勝てないし、
早撃ちで一番ダメージを与えられるやつって電撃位でしょ。
だから、跳び越えた後に、直ぐに撃てるように練習したんだ」
練習の成果が出て、満足気なルーシー。
着地直後の魔法早撃ちも、相手ありきなら成功率は低いと思う。
実際、ケントに攻撃されて実行出来ていない。
ローザは、跳躍中の魔法早撃ちという一段階上の技術でケントに反撃してみせた。
この場面を想定して、練習していないと出来ない芸当だ。
俺がローザ達の努力に感心していると、
仰向けに倒れていたケントが、起き上がるそぶりを見せる。
「意外とダメージ少ないのか?」
電撃を喰らって気絶していると思っていたが、そうでもないようだ。
「早撃ちだと、ローザの電撃魔法は、数秒、体が硬直する位だから」
ルーシーが答える。
ローザが二発目の電撃魔法をケントにぶつける。
俺は、ケントが仰向けに倒れるのを確認してから話を続ける。
「そうなんだ。
何で知っているの?」
「ふふん、それはね。
この身で実際に味わったからだよ」
ルーシーが胸に手を当て、己を誇示する。
「え!?
そんな事まで付き合ったの?」
俺、ドン引き。
魔法の威力は、当ててみないと分からない。
対人戦をするなら、事前に人間相手に試し撃ちをして威力を把握しておくのが好ましい。
ルーシーは、その実験台になった。
どんだけ付き合い良いんだ!?
「当たり前でしょ。
どれくらいの威力があるか分かんないと、怖くて使えないでしょ」
ルーシーが正論を言う。
「えー、大丈夫だったの?」
俺は、恐る恐る尋ねる。
「大丈夫、大丈夫。
ちゃんと段階踏んで実験したから」
ルーシーが、からりと笑う。
「そうなんだ。すごいな、ルーシー。
ローザが勝ったらルーシーのおかげじゃん」
俺は、若干頬を引きつらせながら功労者を褒める。
「えーそうかなぁ?
でも確かに、うち頑張ったし、そうかも?」
照れるルーシー。
これは勝負決まったな。
ケントが起き上がろうとすると、直ぐにローザが電撃魔法を放つ。
ローザが電撃の威力を上げれば、次の一撃で決着がつくという状況。
「勝負あり!
勝者ローザ!」
審判役のイングが大声で決着を告げる。
「やったー!」
ルーシーが俺の肩を揺さぶる。
やめてやめて、首がもげる。
されるがままの俺。
ローザが、こちらに手を振っている。
それに応えるルーシー達。
魔法科目の代表者が勝ち残って、俺も嬉しい。
おめでとう、ローザ。




