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おいでませ忍メイドの里~恐怖のメイド地獄、お館への道~  作者: おっとり魚
第二章 忍メイドの里学園編 優種を一撃で葬り去る一番クリアな方法
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第一話 新たなる使者~浮き足立つメイドたち~

 ざわざわと騒ぐクラスメイト、いや覗き込む他の学年の生徒たちの視線と喧噪に包まれながら、優種は目を閉じると菩薩の如く無心を貫いていた。

ここは優種が通う仁政にんせい学園高等部。

このとってつけたような学校名も、今の自分にはお似合いなのかも知れない。

そう考える優種の脳内には、仁ではなく忍の一文字が浮かび上がっていた。

それを呆れ気味に眺める優種の幼なじみであり、実は忍メイドでもある槙菜は、もうクラスメイトの好奇の視線にも慣れていた。いや慣れざるをえなかった。

被害を広げるけもの武勇伝に聞き入る数人の生徒。

れもは相変わらず迷惑そうに距離を置こうとしては、それを双子の姉妹であるけもに引きずり戻されてしまう。


彼女は双子の血を隔てるその温度差に愕然としていた。

そもそも彼女は里つきの忍メイドであり、外部で暮らす優種を守る近衛師団への入団など希望していなかった点で、ここに集まる忍メイドたちとは致命的に立場を違えていた。

優種に対する好感度ゲージは、ここに集まるメイドの中でも彼女だけ格段に低い。

全ては双子のけもが勝手に決めてしまったことだ。

優種はお館候補ではあっても、大して興味を持てる存在ではない。

男子として意識さえしないただの少年を守るため四六時中張りついて見張るなど、彼女の望むことでは全くなかった。

できれば自分の腕を気長に磨きながら、どこかで素敵な伴侶でも見つけて静かに暮らしたいという実に大雑把な人生計画は、けものせいで全て崩壊していた。


もう一人遠巻きに優種を見つめる藍々は、式神である赤鬼と青鬼のボディガードを従えながら、クラスメイトからも浮いていた。

彼女のたおやかな美貌に惹かれて集まった男子生徒たちは、すっかりドン引きしてすでに傍には集まらなくなっていた。

元々積極的とは言い難い性格もあって、すっかり周囲から浮いた存在となった藍々は、少しやりすぎた自分の行為を思い返し、小さなため息をついた。



 事の発端は森皇家のスパイらしき存在がいるという報せ(クラスメイトの噂話)だった。

スクランブル発進した近衛師団は、それと思しき生徒と教師を発見すると、もはや専守防衛も戦闘開始の鏑矢も、やあやあ遠からんものは音に聞けと始まる長い口上もへったくれもなく、いきなり傍に寄ると先制攻撃を開始した。

それが無実の人間なら、現場は早速殺人現場となり、メイド殺人事件になっていたかも知れない。

だが確かに手応えを感じた礼桐の忍者刀は、鬼の実体のない体を引き裂いていた。

「何故我らの正体を見破った!?」

叫ぶ声に呆れたのは千代丸のほうだった。

「バレバレの殺気とその格好、見破れないほうがおかしいわよ全く」

彼女は閃くスカートの足から長く太い針を引き出すと、それを勢いよく投げて一突きで別の鬼の眉間を撃ち抜いていた。

それを見た優種は、あれは本来の使い方ではないんだろうなと、すぐ当たりをつけていた。

あの針はとどめを刺すために用意された道具ではない。

健康的ですべらかな太もも、そこに巻きつけられた布に差し込まれた針の本数を見ても、優種はそう確信せざるをえない。

もちろんそれはなんの根拠もないただの思いつきだが、しかしその勘は当たっていた。それは拷問用の針だった。


続いてドピンクと薄いピンクのうさぎの着ぐるみが前に出る。

ドピンクのうさぎの着ぐるみは、以前バラバラにされたせいで四肢の付け根に痛々しい縫いあとがくっきりとついていた。

いや、それもまた見せかけに過ぎないことを、優種はしばらく戦いを眺めていて知ることになる。

巨大なハンマーを振り回すけも。それを素早くかわす鬼の小柄な体。

遠ざかる鬼はせせら笑うようにけもにいやらしい笑みを浮かべたが、その時けもは片手を挙げて、その鬼を指差した。

かと思えば、その腕がいきなり吹っ飛んで鬼の顔面を吹き飛ばしていた。

優種は心の中で、けもがろけっとぱーんちと叫ぶのを確かに聞いた。

吹っ飛んだ腕にはどうやら鎖がついていたので、もしかしたらなんとかなっくるのほうかも知れない。

そのチェーンが自動で戻り、再びけもの細い腕に着ぐるみハンドが吸いつく仕組みを見て、優種はいよいよからくり師忍メイドを理解できなくなっていた。


生徒に偽装した鬼はこうしてあえなく切られていったが、親玉の式神使いとの戦いが残っていた。

その男はわざと鬼に偽装するという手が込んでいるのかいないのか、よくわからないやり方で新任の教師として入り込んでいた。

それを素早く見つけた礼桐は、校庭に出るとあらゆる粒子結合を断ち切る忍者刀を振るう。

逃げる式神使いを追う礼桐。

そして哀れ体育教師が給料をひたすらため、食事を切り詰めてジャージの洗濯も学校で洗濯板を使って洗うといった涙ぐましい、若干教育委員会が怖そうな切り詰め方をして買った新車を真っ二つにする。

それを見た教師は口を開けたまま全ての髪が抜け落ち、そのまま三日間寝込んだと伝えられているが、しかし優種はそれに同情する暇もない。

やがて鮮血ではなくドロドロとした泥の塊のようなものを大量に吐き出して消滅する親玉は、それもまた式神であったことを礼桐たちに知らせた。

「どうやら強力な式神に中継させる形で、本体は遠隔操作していたようだな。また厄介な戦術できたものだ。これではいくら切ってもキリがない」

「それどころか、こっちは注目の的よ。どうすんの」

気づけば学校中が、この昼休みに突然始まったヒーローショーのような戦いに見入っていた。

こうして忍メイドの力は、全校生徒の知るところとなってしまった。


その後体育教師の車は学校側が弁償してまた新車として戻ってくるなど、平穏は戻ったのだが、しかしその戦いぶりをはっきりと見た生徒たちの反応はそうはいかない。

中でも一番酷かったのは、いきなりぽんとなんでもない一人の生徒の肩を叩いた藍々の所業だった。

彼女は確認もせずにいきなりその生徒の首筋に噛みつくと、吸血鬼よろしく生気……ではなくなにか別のモノを吸い出し始めた。

「な、何故俺の正体を……おぉぉぉぉぉ!!」

悲鳴を上げるその男が絞りきった雑巾のように萎れていく姿を、多くの生徒が目撃した。

まるで紙がひらひらと舞うように床に突っ伏したそいつに、赤鬼が花に水をやるじょうろで水をかけると、まるでわかめのようにそれが戻っていくので、さらに周囲はドン引きだ。

続いて藍々はすぐ近くにいた生徒の首根っこを捕まえると、いきなりその頭にかぶりついた。

そう、しゃくしゃくとまるで厚みのない感覚で、りんごでもかじるように人を食べてしまう。

それは人ではなく、礼桐が斬り捨てたのと同じ中継機の役割を持つ式神だったが、周囲の人間はそんなことがわかるはずもない。

一日どころか数分で伝播した情報は、彼女を人食いのお藍とあだ名させていた。



 こんな感じですっかり周囲から浮き立った存在となってしまったメイドたち。

一人銃を撃つわけにもいかず大人しくしていた槙菜だけが、その難を逃れていた。

優種は幼なじみの如在なさに若干の疑念を持っていたが、それを責めるわけにもいかない。

できれば自分も槙菜側にいたかったのだが、あからさまにご主人様と呼ばれ関係を疑われている自分が、これ以上外様にいることはできなかった。

こうして優種はますます周囲から浮くことになってしまった。



 そんな優種がさらに呆れたのは、教室の喧噪から逃れて廊下に出た時のことだった。

見れば中庭には人だかりができている。

「今日から保険医なったんや。よろしくな。あんたええ男やから今なら三割引にしとくで、いつでもきてや」

優種はその聞き慣れた声を聞いた瞬間、回れ右した。

そういえば姿が見えないと思っていたが、まさか里で一人留守番というはずもあるまい。

やっぱり来やがった、優種はそう心の中で叫ばざるをえなかった。

これで保健室でサボるという名目も使えなくなったな、と踵を返した優種は、その先にまた異質な存在を認めて足を止めた。


それは黒一色の、つなぎのないドレスをまとった美女だった。

肩までの長い髪を揺らしながら、どこか感情を感じさせない静かな佇まいでこちらを、そう自分を見ている大きな瞳。

そのどこかで見たことがあるようで初対面の、しかし明らかに自分を狙っている瞳に、優種は引き寄せられるように歩き出した。

彼女もまた歩みを進めて優種の前へとやってくる。二人は絶妙の距離感でお互いに足を止め、その姿を見つめあった。

「お初にお目にかかります優種様。氷雨様の要請でやってまいりました、結界師忍メイドの比額ひぬかすめらぎともうします。以後お見知りおきを」

スカートの裾を持ち上げて、ふわりと頭を下げるその仕草に、優種は忘れかけていたメイド萌えの本性を擽られた。

そのおしとやかな雰囲気は、幼なじみや熱いバトルを繰り広げてきた他のメイドとは違う気品を備えているように見えた。

少なくともその時点では。


 不意に廊下で野球をしていた生徒が、タオルをまとめたボールを思い切り暴投した。

それが優種にははっきりと見えた。

「あ、あぶな」

言いかけたと同時に、そのボールもどきがすめらぎの結界に触れ、音も立てずに消滅する。

その結界の強さは自分のそれを越えているかも知れない、いやむしろこれやばすぎね? と反射的に考えた優種の背後から、ぞっとするような怒りの表情が見えた。

「なんであんたが、あんたがここにいるの……!?」

声を発したのは千代丸だった。

振り返り微笑むすめらぎと、睨み合う千代丸。

「あれ、ボールこっちに飛んでこなかった?」

男子生徒が見失ったボールを探す姿も、優種の目には入らない。


やはり彼女もまた忍メイドなのだ。

優種は夢を打ち砕かれる気持ちで、無言の睨み合いを見つめていた。


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