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D.E  作者: Oshow3
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入学式2

 土煙をあげながら悪魔と対峙する小さな影。

強い風が吹き小さき者の正体があらわになる。


 その少女は匠が魔具店で出会った少女だった。

匠の記憶では、彼女も同じ新入生のはずだ。


それを思い出した瞬間、匠は使えないはずの一振りの日本刀を手に飛び出していった。


『おい、匠ー!何やってんだよ!』

すぐ後を真司が追いかけてくる。

『彼女も新入生なんだ。放っておけないだろ!』

『マジか!?ならば男として護ってやらねぇとな!』

と、ニカッと白い歯を見せつけてくる。

こういう真司の男前なところを羨ましく思っている。


 それはともあれ、とっさに抜けない刀を掴んできた匠としては、一人でも一緒に戦ってくれる仲間がいることは、一人で戦うよりも何倍も心強い。

走りながら匠が作戦を立てるために真司に話しかける。


『真司、お前の武器は前衛用の武器なんだろ?』

『匠ちゃん。俺の秘密にしてきたことをズバッと当てるのやめてくんない!?サプライズというものがだなぁ…』

『はいはい。じゃあ、とりあえずあの娘と悪魔の間に割り込んでヘイト稼いでくれ』

と、大型悪魔の前に滑り込めというムチャな命令を信司に指示する。

『了解!じゃあ、先に行くぜ』

そう匠に爽やかに答え、一段とスピードを上げ匠を追い抜いていく真司。


(真司と俺で時間を稼げば、先生方や先輩方が何とかしてくれるだろう)

そんな軽い気持ちで時間稼ぎをしようと考えていた。


 しかし、その考えは少女のとった行動で的外れだったと知る。

『おいおい、あれって封印用のメモリーカードじゃ…ったく、無茶しすぎだろ!』


 対悪魔戦おいて、悪魔を無力化する方法はいくつかある。

1つは殲滅すること。この世から存在を消し去るのだ。

この方法が一番手っ取り早い。手加減の必要ないがゆえ、全火力をもって殲滅に集中することができる。


 次に有効なのは、メモリーカードに封印すること。

対象となる悪魔を弱らせ、動きを封じるために拘束する。

当然ながら悪魔のクラスが高いほど与えなければならないダメージ量も多くなってくる。

拘束する術式もより高度で強固なものを要求される。


 悪魔のクラスは大きく分けて5段階ある。

最上級のSクラス。その下にAクラス、Bクラス、Cクラス、最下層のDクラスとクラスが下がるごとに数が増えていく。


こうみると、Aクラスの悪魔の封印がいかに難しいかわかるだろう。

通常Aクラスの悪魔を封印するのは熟練した退魔師が10人以上集まり行う高難易度の戦闘だ。


 その高度な技術を必要とするAクラスの悪魔封印を、目の前の少女は一人で行おうとしているのだ。

悪魔を一人で封印しようとしている少女を、匠も真司も放ってはおけない。


 走りながら悪魔を封印するまでの作戦を、頭の中で練っていた匠の前方にいる少女に、非情にも悪魔の尻尾が振り下ろされる。

尻尾が少女に直撃するまでの刹那、悪魔と少女と間に真司が滑り込む。


 腰についているトリガーを外し真上にかまえる。そしてトリガーを握った瞬間、光のシールドが展開される。

『ライトニングシールドォー!!』

真司の声と同時に、少女を直撃するはずだった尻尾を弾く。


『うぉー!!成功してよかったぁ!実は初めて使うんだよ、この盾。』

冷や汗を浮かべながら豪快に笑う真司に、驚きと同時に怒りを感じる匠。


『コラァー!!バカ真司!こんな危ないシーンで新武器を試すんじゃねぇよ!!1歩間違ってたら…』

タラタラと文句をたれる匠に真司が、『わりぃ。でもうまくいったんだから、オールオーケーでしょ』

まったく、この男はどんな度胸してんだよとあきれ果てる匠。

しかし、頭ではすでにこの戦闘を終わらせる作戦を立て始めていた。


 タンク職の真司と武器の使えない匠では、この悪魔の体力を封印できるまでは削れない。

そうなると、真司が悪魔のヘイトをとりつつ攻撃を防ぎ、匠がなんらかの作戦があるであろう少女を護るのが正解か。

その作戦を伝えるために少女に駆け寄る。

 

 ただ、この少女の名前を匠は知らない。だから少しコミュ障の匠はまずこう話しかけた。

『ねぇ、君。名前はなんていうの』

『あら、あなたはこの前の。こんなときにナンパ?ずいぶんのんきね』

もちろん匠にはそんなつもりはない。しかし真司には予想通りの展開。

『ちがーう!俺はただ連携とるために気にの名前を知りたかっただけだよ!』


 そんなやりとりを、悪魔の攻撃を一手に引き受けている真司から抗議の声が上がる。

『おーい匠さーん。そろそろ限界が近いんでナンパやめて助けにきてくれませんかねぇ?うぉ!』

匠のほうを向いている真司を悪魔の爪が容赦なく襲う。

『すぐに行くからちょっと待ってくれ。とにかく俺とあいつでヘイトかせいでおくから、その間に攻撃と封印を頼む。

なんか作戦があるんだろ?』

それだけ言い残し走り去ろうとしている匠に、背後から声がかけられる。


『あたしの名前は園原杏里。あと30秒だけ時間をかせいで』

そういうと再び準備に入る。

『じゃあ、杏里。攻撃と封印は任せたぜ!待たせたな真司』


『おせぇよ!美少女を見つけたらナンパする癖やめたほうが…』

といい終わる前に匠が反論する。

『バカヤロー!そんなんじゃねぇよ!いいからあと30秒ヘイトかせいどけ。そうすればあとは杏里が何とかしてくれる』

『わかったよ!それじゃとっておきだ。アンカーバインドォ!!』


真司が魔法を発動する。アンカーバインドは敵のヘイトを一手にひきつけるタンク専用魔法だ。

『へぇ、やるなぁ!習得してたのか』

予想外の高度魔法に素直に感心する。

『おい匠。感心しなくていいから早く攻撃しろ』

そういう言われた匠が腰の刀に目を落とす。


(まだ抜けないんだよなぁ)


試しに親指で鍔を押し上げてみる。やはりピクリともしない。

引き抜くことができない武器から意識をひきはがし、あたりを見渡す。

匠の目にとまったのは悪魔が破壊した講堂の瓦礫。


すかさず瓦礫の元に走りより悪魔の目に投げつける。尻尾で弾かれるが、引き続き投げ続ける。

悪魔は嫌がってはいるものの、直撃したとしてもたいしたダメージは期待できない。

『おい匠。なんで腰の刀つかわねえんだよ』

『こっちにも色々と事情があるんだよ』

少しバツが悪そうに答える匠。

 

 そうこうしている間に少女が腰の刀を引き抜き天に向かい突き上げる。

『いいわ、離れて!』

その声を聞いた瞬間、ヘイトをかせいでいた二人が飛びのく。


 まっすぐに突き上げた刀の刀身に光り輝く魔術回路が浮かび上がる。

同時に展開される巨大魔法陣。


『契約者、園原杏里の名において命ずる。千の雷と万の風、世界の理を超え闇の従者を駆逐せよ!猛き雷!!』

杏里が詠唱を終えたとたん、激しい暴風が吹き荒れ、同時に夥しい数の落雷が悪魔を襲う。


超高度な魔法に匠と真司は衝撃を受ける。

この魔法は、熟練の退魔師が複数人集まり長文の詠唱を唱えやっと使えるような超ハイレベルな魔法だ。

なぜこんな新入生が使えるのか匠には想像もつかない。


 雷の数が徐々に減り始めている。ふと杏里に視線を向ける。

すると杏里は、もう次の術式を展開するようだった。


スマートデバイスに魔法カードを挿入する。

『捕縛魔法、冥王の鎖発動!封印術式レベル50同時展開』


 上空とグラウンドに複数の巨大な魔方陣が浮かび上がる。

その一つ一つからとてつもないサイズの鎖が、悪魔をめがけて射出される。

体力を削られ逃げる術を持たない悪魔に次々と突き刺さる。


力尽き、倒れることすらも許されない悪魔。

その目の前に、巨大な魔方陣が展開される。

その魔方陣に吸い寄せられ、杏里の持つメモリーカードに封印される。


 手に持っていたスマートデバイスでどこかに連絡をとっている杏里。

『封印完了。これよりただちに帰還します』

そう言い終え、立ち去ろうとする杏里に真司が声をかける。


『いやー、それにしてもさっきの魔法すごかったよなぁ匠。あんな規模の魔法はじめて見たよ』

と俺を杏里に紹介しろと、アピールしてくる。


『あ、ああ。杏里も同じ1年なのに凄いな。あ、そうそう。俺は天道匠、こいつがー』

『五代真司です。よろしく』


『あら、五代くんのアンカーバインドもよかったわ。天道くんは…よかったわ』

『いい所ないなら無理に褒めなくてもいいよ!?』

天然なのか計算なのかわからないが、いじられても嫌な気はしない。


『あらそう?でも、腰の刀を使えばもっと楽だったんじゃない?』

『それはそうなんだけどさ…ここだけの話にしてくれよ?実はこの刀、抜けないんだ…』


 予想外の返答に真司は感情は一瞬とまどい、すぐに爆笑へと変化させる。

『ぶはははっ!抜けねえ刀なんて、ただのガラクタじゃねーかよ!ヒィーヒィー苦しい』

呼吸困難なほど笑い続ける真司とは反対に、杏里は真剣な顔で刀を見つめている。


『ちょっとこの刀借りていい?もしかしたら原因がわかるかも』

意表をついた杏里の言葉に、目を白黒させる匠。

言葉の意味を脳が理解し、ようやく言葉を口にする。

『マジで!?原因がわかるならどうぞどうぞ。どんどん持っていっちゃって!』

まさかの事態に興奮を抑えきれない匠。


『わかったわ。でも、期待しないで待ってて。私は迎えが来たからもう行くわ』

悪魔を封印したメモリーカードを小さなアタッシュケースにしまう。

 杏里は匠の刀とそのケースを持って真っ黒に塗られたトレーラーの荷台に乗り込み、車は発進する。


その車を見送りながら真司がポツリとつぶやく。


『この後って武器を使って悪魔と契約する授業じゃなかったっけ?』

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