入学準備3
薄汚れてはいるし、少し暗めの店内のせいでハッキリと色や装飾までは見えない。
そんな一振りの刀を左手で腰に固定する。そのまま鍔を親指で押し鯉口を切ろうとするが、刀はピクリとも動かない。
『おーい、おっちゃん。鯉口切れないんだけど』
『ほう。日本刀はまず鯉口を切るということを知っておったか。ズブの素人ではないようじゃな。じゃが、言うたじゃろ?それが一番のガラクタじゃと。ワシもそいつを手に入れて永いこと経つが、まだ抜いたところを拝んだことがないんじゃ』
怪力自慢の店主ですら抜いたことがないという。ならば非力な匠になど全くなす術がない。
『抜けない刀とかマジで使い道ねーなぁ』だが、匠には贅沢を言えるほどの金銭的余裕がなかった。
(どうすっかなぁ。まぁ、この中じゃ見た目にはガラクタに見えねぇし、なんとかごまかせるか)なんとも安易な発想で謎の刀を手に入れることにした匠。この判断は果たして正解だったのか。現時点では知る術はない。
日も暮れてきたことだし、帰るとするか。
入学式までは一週間あることだし、その間にこの刀をなんとかできるかもしれないな。
親父の知り合いの武器に詳しそうな人たちに助け船を出してもらえば、なんとかなるだろうと他力本願な匠。
そして時間はあっという間に過ぎていく。