入学準備
1947年、羊飼いの少年によって発見された死海文書。
二千年の長きにわたり眠りについていた古の聖なる文書。
八百五十巻からなるその言葉たちはただの聖書ではなかった。
その秘められた言葉たちは、悪魔を封印せし古の鎖であった。
全ての文言が公開された今、無数の悪魔たちが解き放たれた。
その悪魔たちを殲滅するために世界政府が各地に設置した退魔師育成機関。
聖戦機関 Devil Eraser
死海文書の公開で解き放たれたのは、悪魔だけではなかった。
死海文書の内容や文章、またはその本体を目にした者にも特殊な能力が発現していた。
その特殊な能力の発現者には必ず共通点がある。
それは魔眼だ。
魔眼とは悪魔を目視、判別することができる。
そんな魔眼を持った能力者を対悪魔用戦闘員として育成するのがDEだ。
そして、天道匠もそのひとりなのだが…。
(うわぁ、どうしよう)
匠はこの春からDEに入学することが決まっている。
そして今、DEに入学するのに一番大切な対悪魔用の武器を買いに来ているのだが、匠の顔は血の気がなく店の片隅でうずくまっている。
親から預かった武器購入資金をどこかに落としてしまったらしい。
『マジかよ!?さい先悪ぃなぁ』
ガックリうなだれながらショウケースを眺めている。
もう一度自分の財布の中身を確認する。
シワのついた千円札と、小銭が少々。
これでは対悪魔用である銀の銃弾も買えない。
顔に深いしわの刻まれた店主がこちらにチラチラと視線を投げかけてくる。
居心地の悪さを感じていると、カランカランと入り口の鈴が鳴る。
『いらっしゃいませ!あぁ、お嬢ちゃんか。頼まれたアレできてるよ』
見知った顔なのか、店主が気さくに話かけている。
相手が気になり入り口に視線をおくると、そこには女の子が立っていた。
美しい立ち姿に思わず見とれてしまう。
美しいのは立ち姿だけはない。絹のような亜麻色の髪と黒い革のライダースジャケット。そして腰には革のホルスターと銀色のリボルバー。
厳つい上半身のファッションとは真逆で、ニーハイソックスからのぞく、透き通るような太すぎず細過ぎない白いムッチリとした太ももと超ミニのスカート。
部屋に飾っておきたいほどの可憐さとはべつに、海すらも凍らせるような冷たい目つきに全身が総毛立つ。