2本目のスコップ(74~75話前後の話です)
これは74~75話前後の話しです。
読んで無い方はそちらを先に読むと、話が良く解ります。
俺は今、技術職を迎えにコランダムに来ている。
だがそれと同じくらい大切な用事も有る。
スコップだ。
この間、勇者一味とやり合った時に、握り柄の部分が破損してしまい、泣く泣く買い替えるハメになった。
道具で、ある程度似たような物が揃っているが、中々しっくり手に馴染むものが無い。
今、道具屋でスコップを物色している。前世と違い職人の手作りだから、微妙に長さ、重さ、重心も違って来る。
さっきから道具屋のおっさんが、チラチラこちらを伺っているが気にしないで続ける。
少し握り部分が太い
握り柄部分が短い
重心が少し握り部分側に寄っている
少し形が気に入らない
そんな事をブツブツ口に出していたらしい。
「魔族のあんちゃん、文句が有るなら買わなくても良いんだぜ」
「すみません、もう少し見させてください」
そう言って俺は続ける。
無いなー。
「すみません、気に入ったのが無かったので失礼します」
「スコップにお気に入りも何も無いと思うんだけどね」
「いやいや、結構あるんですよ」
そう言うと店のおっさんが、更に変な目で俺を見て。
「お大事に」
と言って来た。
凄く失礼じゃないっすかね?
そして5件目、良く手に馴染む1品を発見した。
そして迷わず購入。
「お、カームさん新品っすか?」
「そうなんですよ、この間の勇者一味との一戦で破損されちゃいまして。今までのはとりあえず家に飾ってあるんですけどね」
「すごい愛着ですね」
「10年くらい使ってたからね、そりゃ愛着も沸くさ」
「名前付ける位にっすか?」
「そうそう、名前を付けると愛着も沸くしね」
そう言って俺は高速回転する砥石をイメージし、刃の部分を更に鈍角に削り、斧のように仕上げる。
「ん!良い感じだ」
両側を削り終し、持ったり、振ったりする。削ってもそこまで重心もズレて無いな、よしよし。
「また名前付けるんっすか?」
「そうだね、次はなんて付けるかな「アンナ」か「ペルラ」か「ルナリア」だな」
「なんで女の名前なんすか?」
「男が使うのに男の名前付けて気分が良いかい?船とかって結構女性の名前付けるの多くないですか?それと同じです」
「そうっすか・・・」
「そうっす。んー3つまでは絞ったけど、全部迷うな」
「前の名前はなんて言いましたっけ?」
「モーラだ」
「何かの名前ですか?」
「・・・そうだな。ハンマーを持って化け物をグチャグチャにする空想上の女の子の名前かな」
「神話かなにかっすか?」
「大人の為の読み物みたいな物かな」
兄貴の装備も中々イカレタ武器だったけどな、バイクとかも。まぁさっき上げた名前の奴は主に刃物を使ってたけどな。
「奥さんと子供居るんでしょ?なにも言って来ないんですか?」
「言って無いですから、問題無いです」
「そうっすか・・・」
元気の良い船員は何かを諦めたように去って行った。なんか俺おかしな事したか?
「よし、今日からお前はペルラだ。よしよし研いだ所が錆びない様に油塗ってやるからな。元になった名前っぽく投げて使っても良いな、それじゃどっかの特殊部隊だな」
閑話
「カームさんありえねぇっすよ! 武器に名前付けてますよ! ニヤニヤしてましたよ! 話しかけながら油塗ってましたよ!」
「魔王になるくらいなんだから、考え方も少し違うんだろう。そっとしておいてやれ」
「そうっすか? けど気味が悪いっすよ」
「元々気味が悪いだろ」
「あ、そうっすね、魔王っすからね」
船員と変な溝が発生しました。
作者は、愛着が沸くように私物に良く名前を付けます。
物に名前を付けるもので有名なのは、微笑みデブの映画か、女神様が出て来る漫画でも有りましたが、女神さまの方を読んで、付け始めるようになりました。