第10章 その2 12月の声を聞く。
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「はあ、もう12月か~」
11月のカレンダーをめくって破って捨てた。
忙しい日々だった。
杏子と暮らし始めてから、毎日がめまぐるしくて、楽しいことも苦しいこともひっくるめて、ほんと色々あった。
って。
何を年末総決算に入ってるんだおれは。
まだまだこれから、もっと忙しくなるっていうのに!
「雅人~。ごはんできたよ。今朝はベーコンとピーマン入りオムレツだよん。カレンダー見て、どしたの。独り言? なにそれ怖い」
背後に音もなく忍び寄り、ザクッと鋭い一言を放ったのは、杏子。
おれのステキな同居人で、義理の妹で。
そして、おれの大好きな、女の子。
それにしても容赦ないよなあ。
「ああ、11月のカレンダー、まだ替えてなかったの」
「うん。そしたらなんかさ、いろいろ一年を振り返る気持ちになって。反省したり」
「しなかったり」
すかさず杏子がツッコミ。
「……おまえ、うまい。うますぎる。って、そうじゃないだろ! そこは、おれが素直に反省してるんだからさ」
「バカね雅人」
杏子は、にっこり笑って。
「雅人は反省なんか似合わないの。そのまんまが、いいんだからねっ」
「え~?」
どういう意味だか、わからない。
フリーズしてしまったおれに、杏子は、ぽんぽん、と、頭を撫でて。
「そのままの雅人が好きだからに決まってるじゃない!」
「ふええぇえええっ!?」
よけいにおれは固まったままで動けなくなる。
心臓に悪い。悪すぎる。
衝撃の告白か!?
おちつけ、おちつけ。おちつけ、おれ。
きっとからかわれたんだ。
そうだそうに決まってる。
「ふふんふ~ん♪ ふふふ~ん♪」
おれのパニック発作を、ほったらかしにしたままで。
杏子は、なんだか鼻歌まじりに、楽しげにキッチンに向かっていったのだった。
誰か、助けて。
おれのこと好き?
本気?
フェイク?
冗談?
「こんど、恋愛してそうなヤツに相談してみよう」
やっと硬直がとけて、おれはキッチンに向かった。
ともかく杏子の手作りの朝食が待ってる。
近頃はずいぶん料理の腕もあがったみたいだし。楽しみだな~。
※
「うげっ不味い!」
思わずおれは叫んでしまった。
せっかく、これまでの同居生活で、杏子がどんな激マズ料理を出してきても動じないスキルを養ってきたはずだったのに。
不意打ちの激マズ復活に驚きすぎた、おれだった。
だから失敗したのも無理はないのだ。
「あらそう。悪かったわね」
冷たい口調で、杏子は言った。
さっきまでとずいぶん雰囲気が違うぞ?
「ど、どうしたんだよ杏子」
「なんでもないわ。きょっと気合いが入って、それで、調味料、斬新な組み合わせにしすぎたかしら」
「斬新……」
リアクションに困る。へたなことを口走って杏子を傷つけたりしたら、家出事件の再来にもなりかねない。
「そ、それは、がんばったんだな」
「……怒らないの?」
「ふぇ?」
「あたし、わざと、まずい料理を作ったのよ」
「えええ!? なんで?」
「だって雅人。きのう、洋子ちゃんと楽しそうに話してた」
つんと横を向いて、口を尖らせる。
「なんだそれ! ていうか洋子ちゃんて誰?」
「上村洋子ちゃんのことよ。名前聞いてすぐわからないなんて」
なぜか杏子は、ほっとしたような顔をした。
「鼻の下のばして。プリント持ってあげたりして。そうよね体育祭かっこよかったしね~。人気上昇中なのよ、知ってた?」
「知らねえよ! 人気ってなんだよ」
「そうよねえ。雅人がそんな、器用だったりモテ期を意識してたりするわけないもん」
不思議に杏子は、ほうっっ、と。
大きく、息を吐いた。
「ねえ雅人。それよりさ。クリスマスどうする?」
「はい?」
「うちで、みんなを呼んでパーティーしたいな!」
おねだりされました。
ものすごい満面の笑みで。
「お、おう! 任せとけ!」
おれは胸を叩いて、請け合った。
クリスマスを一緒に過ごしたいってことだもんな!
……って、あれ?
みんなと一緒?
誰と?
おれは頭を抱えてしまったのだった。
お久しぶりです。現実の季節が一巡りして再び作中の季節と合ってきたので、また連載再開します!




