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第9章 その1 告白から初めてのキス?(妄想バージョン)



 その夜は、寝る気になれなかった。

 眠気もこないのだ。

 見るでもなく何となくつけていたリビングのTVも、いつしか番組がすべて終わってしまっていた。

 杏子は部屋にあがっていったきり。

 こうしていると、一人暮らしだったころを思い出す。

 たまらなく寂しくなる。

 おれ何やってんだろうな。


 想像してみた。

 もしも。

 もしも今夜、○ィズニーランドで、杏子と再会したとき。

 充がおれたちを探してやってくる前に、杏子に、川野と何があったのかと聞くことができていたなら?


 もしも…………

 




 日が落ちて暗い場内、宵闇を切り裂くように流れるパレード。イルミネーションの海。

 杏子と再会して、二人でパレードのフロートを見ていた。


 おれには、どうしても気になることがあった。

「なあ、川野と一緒だったのか?」

「…………」

 元気良く喋っていた杏子が、急に黙ってしまった。


 それから、はしゃいで喋り出す。

「ああ、川野くん。さっきまでは一緒にいたんだけど。はぐれちゃった。今ごろパレードの中にでもいるんじゃない」

 どうでもよさそうに流す。


 不自然だ。


「……川野と、何かあったんじゃないのか?」

 おれが尋ねると、杏子はまた黙り込み、城の壁に背中を預けてよりかかり、目を閉じて深呼吸して、

 ふうっ。

 と、吐息をついた。


「……あのね……あたし、キスされそうになっちゃった」

「何ぃっ!! バカ、おまえ!」

「怒ってくれるの……?」

 杏子はじっとおれを見上げて、頼りなげにつぶやいた。

 おれは身体が熱くなって、わけがわからなくなって、叫んだ。

「あたりまえだ! 男女交際なんて100年早ぇえ!! まだだめだ!」

 くすっ。

 泣き顔になりかけていた杏子が、小さく笑った。

「そんなに待ってたら、あたし、116歳のおばあちゃんになっちゃうじゃない」

「そ、それでいい!」

「え~? それでいいの? おばあちゃんでも?」

 おれは勢いよく頷く。

「杏子なら、絶対、すっげえ可愛い、おばあちゃんになる」

 すると……笑っていた杏子の目に、ふいに大粒の涙が溢れてきた。いくつも、いくつも、

とめどなく。

「どうしたんだ杏子!」

 返事がない。泣き続ける杏子。

 おれは、衝動的に、杏子を抱きしめていた。


「泣くな。おれが川野を殴ってやるから!」

「……ちがうの。心配、ないから……」

 おれの胸に顔を埋めて、杏子がかすかな声で言う。


「いつの間にか川野くんとふたりになってて、川野くんが顔近いっていうか、そういう状況になってね、そしたら……あたし、気づいてしまったの。彼とじゃ、だめなんだ。イヤなんだってこと」

 おれの背中に回された腕に、力がこもる。

「でもね」

 思い切ったように、言う。


「雅人とだったら、いっしょにいても落ち着くの。あたしは寂しがり屋だけど、でもイヤなの、ほかの誰かじゃ、雅人の代わりになんかならないの」


 パレードの賑やかな音楽、喧騒。物音が、ひととき、意識の外に追いやられてしまう。

 耳に入るのは、杏子の声だけ。

「どうしよう……あたし、雅人が、スキ。ほかの誰よりも、すごく好きなんだわ!」


「おれもだ。ずっと前から、困ってた。杏子が好きだ!」


 ふたりが言わなかった言葉がある。

 きょうだいなのに、ってこと。

 でも、葉月姉が言ってた。おれたちみたいな場合は、だいじょうぶだって。


「あたし、あなたとずっと暮らしたい……ずっと、これからも」

「……一生、でも?」


 返事は聞こえなかった。

 でも、杏子がかすかに頷いたような気がした。

 おれは目を閉じて、身体を屈めた。

 背中に置かれていた彼女の手が、おれの首筋に絡まり、吹きはじめた冷たい風を感じながら、おれは杏子をもっと近くに引き寄せる。

 少しだけ、杏子が背伸びをして、顔を近づける。

 柔らかくて暖かいものが触れるのを、唇で感じた。

 いい匂いのする、ふんわりした感触の、ふしぎなもの……。

 キスをしていたのは、どれくらいの間?

 心と心が重なる。

 お互いが生きている、確かな温もりを、そっと触れている唇から、伝え合う。

 きっとそれが、触れ合いたい、キスしたいって思いの原点なんだろう。

 唇が離れたとき、そう感じた。

 目を開ける。

 何よりも一番大事な、杏子が、確かに、おれの前にいる。イルミネーションを受けて、キラキラした瞳で、おれを見つめてる。

 その瞳に映る影は……おれ?

 ニコッ、と笑って、杏子は身を翻した。

「ねえ、もっと近くで、パレードを見ようよ!」

 勇んで、階段を駆け降りていく杏子。その背中を抱きしめたいと思った。

 その瞬間、足が止まった。

 杏子の後を追って、抱きしめたくなった一瞬のこと。親父と桃絵さんの顔が、脳裏をよぎった。おれたちを信頼して、日本に置き、ロンドンに赴任しているふたりの顔が。

 ……深呼吸。

 今は、ゆっくりと歩みだそう。

 急がないで。なくさないように、大切にしていこう。

 杏子を守りたい。おれは、このとき、心の底から強く願った。





「まさと! 雅人ってば」

「ふえ?」

「ふえ? じゃないわよ! トイレに起きたら、放送終わってるのにTV付けっぱなしで。雅人はうたたねしちゃってるし」 

 杏子はプンプンしていた。

 あれっ?

「どうしたんだ杏子。さっきはもっと、こう……? ロマンチックだったろ?」

「なに言ってるの。寝ぼけたんじゃない?」

 杏子はくすっと笑った。

 あ、怒ってるけど、それなりに好感触?

 悪くはない感じ。


「それより驚いたわよ。さあさあ、早く寝て! さっきも言ったけど、すっかり湯冷めしちゃって。風邪ひいたらどうするの!」

 杏子に心配されて追い立てられて、おれは自分の部屋に戻った。


 そしてベッドに入っても眠れないでいた、おれは。

 急に思い出したのだった。


 待て待て待て!!


 さっきのは、おれの想像?

 夢?

 それにしてもやけにリアルな夢だった。

 おれは、ついにそんな妄想までしちゃうようになったのかなあ。

 

 現実には、杏子といい雰囲気になったりなんてありえない。

 友だちで、家族で。きょうだいで。


 いつか告白できる日が……くるのかな。

 いつか。



 どうにも眠れない。

 家の中も、外も、ひどく静かだった。

 青白い月の光が、窓から差し込んでいる。

 おれは布団をはねて、何度かの寝返りを打ち、そして幾度めかの溜め息を吐き出す。

 無理やり眠ろうとして目を閉じれば、浮かんでくるのは……

 この手がはっきりと覚えている、杏子のこと。

(妄想だってのに)

 口唇に感じた、熱くて、ふわっとしたような、不思議な、なんとも言いがたい感触。

 両腕を伸ばして、くうを抱きしめる。

 ふたつの腕と手のひらで形づくる、この空間に、確かにあの子がいたんだ。

(妄想だけどな!)

 はっきりと蘇る……感じる、彼女の温もり。

 高まっていく胸の鼓動。


 まだ告白もしていないのに妄想だけで。

 おれ、やばい状態です。


 ああ、どうしよう。

 どうしよう。

 朝になって、おれの妄想なんて何にも知らない杏子に会ったら。

 おれは落ち着いていられるのかな?

 なんで本当に告白しなかったんだ。

 今夜までに機会はあったんじゃないのか?

 いや、わかっている。

 告白するのは、こわいんだ。

 夢や妄想みたいにうまくいくとは限らない。

 むしろ、どん引きされるかも。

 

 嫌われたら。

 避けられるようになったら?

 それくらいなら、ずっと家族のままで……

 そんなことまで考えてしまう。



 これからどうしたらいいのか答えを出せないまま、夜明け近くまで悶々としていた。

 空が白みはじめたころ、うとうとしたらしい。

 ふと目を開けたときには、朝になっていた。


「おはよう、雅人」

 流し台でフライパンを洗っていた杏子が、振り返った。

「……お、おはよう」

 途端にドキドキしてきた。

 まともに顔を見るのが恥ずかしい。

 そんなことを考えていると、杏子はこころなしか頬を赤らめて、

「……あたし、今朝は先に行くね。香織と約束してるの。ご飯、できてるから」

 割烹着を脱いで畳み、椅子の背に掛けた。


「行ってきまぁす! 雅人、ちゃんと朝ご飯食べるのよ!」

 おれは椅子に座って、杏子が作ってくれた朝食に向かい合った。

 なんでだろう。恥ずかしいなんて。

 何ヵ月も一緒に暮らしてきたのに、いまさら。

 

『雅人が好き!』

 杏子の告白は、まだ耳に残っている。



 まあ、それは、おれの勝手な妄想なんだけどね。



 でも、もしも本当に告白していたとしても。

 杏子もおれを好きだと言ってくれたとしても。

(いやいや、それはないよね)


どうしたって、おれたちは、やっぱり『きょうだい』なんだ。

 

 漠然とそんなことを考えながら、TVのモーニングニュースを見る。

 11月も終りに近く、一日ごとに季節は確実に冬へと近づいていた。



雅人の妄想大爆発です。スミマセン。


現実の季節はついに12月になってしまいました。

今後はリアルでもクリスマス近いので、盛り上げていけたらいいなと予定しております。


お読みくださいましてありがとうございます。

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現在、全面的に見直してます。
高校入学前のエイプリルフールでのお花見事件から始まり、
4月、5月のエピソードを追加して書き込んでいったり、文章の見直しをした
「妹なんかじゃないっ」というタイトルにしたものを、新たに連載始めました。
どうぞよろしくお願いします!
妹なんかじゃないっ
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