第7章その9 いい打ち上げだった!
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「ねえ雅人! もう夜だしさぁ、そろそろみんなに声かけるからね~」
充が携帯電話を取りだし、連絡をとり始める。
「あ、神崎さんたちは一緒にいたんだ? 好きなところに行けた? そろそろ合流してもいいかなって思うんだけど、どうかな? ねえ、雅人も連絡とるの手伝ってよう」
「待て。そういえばおれって幹事だっけ?」
あわてておれも携帯に手を伸ばす。
「森太郎? 直子ちゃんも一緒? あ~、お邪魔して悪いな。そろそろ集まろうぜ」
悪いが、これは打ち上げだ。
デートならまた後日、あらためて二人で会えばいいのだ。
決してリア充な二人が羨ましいわけでは!
宮倉はというとカメラの点検と収納に余念がない。
真面目で妹ラブっぽいスポーツマン宮倉の幸せはどこに?
「今夜は楽しかったなあ。いい写真も撮れたしよかった。妹への土産も買えたし」
なんて欲がないんだ。
おれの中で宮倉の株は急上昇中だ。
「雅人~! 川野は腹壊したんだって! 先に出るって言ってるよ」
「そりゃ大変だ。お大事にって伝えてくれな」
半時間後、ディ○ニーランドの正面ゲート前には、川野以外の全員が揃った。
川野が先に帰ったのは、むしろ幸いだった。
おれは川野の顔を見たら、殴っていたかもしれない。
杏子と二人で見つめ合って何を話していたんだ?
わかってる。ただの八つ当たりだ。
杏子を独占したいだけ。
それが正直なおれの気持ちなんだ。
なんてエゴ。なんて自己中。
誰かに話したい。
でもこんなバカな悩み、話せるわけない。
苦しい。
「雅人くん。無理しないでいいのよ」
おれの恋の最大のライバル、並河香織が、囁いた。
「自分を大切にしない人が、他の誰かを幸せにできるわけないでしょ?」
エゴイストであれ、と。
並河は言うのだ。
「雅人くんもそうして。わたしもそうするから」
そう言って、笑った。
艶然と、超然と。
ぞっとしましたよ正直。ものすごい美人なのにさ。
彼女と接すると、背筋をぴんとのばしていないといけない気がするのだ。
いつも怒られるのではと思ってしまっている小心者の自分がいる。
「それにしても、もう暗いのに、すごい人出だな」
「知らないの雅人? スターライトパスポートっていうのがあって、夕方から入場すると少し安いの。それで入って、閉園までいる人も多いんだから!」
こう教えてくれた杏子は、大きく伸びをした。
「あ~あ、なんだか、お腹すいちゃった!」
「あたしもあたしも!」
「お菓子はいっぱい食べたんだけどね~」
「なんか、物足りない気持ち!」
杏子の呟きに、女の子たちが次々と賛同する。
「そうよねえ。もうディナータイムだわ」
並河香織が代表して、みんなの意見をまとめた。
「ここで食事するのもいいけど、きっとすごく混んでるでしょうね。遊園地も堪能したしそろそろ出て、帰りにどこかに寄っていきましょうよ」
「賛成!」
もちろん一番に声を上げたのは充だった。
全員で電車に乗り、新宿まで行く。
並河がオススメの、とある高級ホテルのレストランに入って食事をとった。
彼女は家族でよく訪れるそうなのだが、このレストラン、なんとメニューに値段がのっていないという恐ろしさ!
「楽しかった文化祭の記念に、今夜はわたしにおごらせて。なにも気にしないでいいから、好きなものを好きなだけ注文してね」
超太っ腹な並河発言。だが、みんな、今夜は「ま、いっか! お言葉に甘えて」という気持ちになったのだった。
たぶん、これも文化祭の余韻と、夢の遊園地のミラクル効果ってやつ。
……かもね。
誰も、川野が途中で帰ったことも、おれがうたた寝して置いてかれたことも気にしてない様子だ。
杏子も川野の名前を口にもせず、楽しそうに笑っている。
それだけで、よしとしようか。
とりあえずは……いい、打ち上げだった。
今回で7章が終わります。




