第7章 その3 巨大遊園地へGO!
人生やり直し、いや人間ビフォーアフターに取り組むことになった雅人と川野だった。どこから、なにをどうしたら!?
手始めは、クラス有志で行くことになっている某巨大遊園地!
3
夢の国、巨大テーマパークの最寄り駅は、親子連れやカップルたち、若者やご年配の方々や、大勢の人々が集っている。
「雅人~! 早く早く、走らないと? あたしたち先に行っちゃうから!」
明るい表情で入場口へ向かって走り出した杏子たちを見ながら、おれは昨日までの出来事を振り返っていた。
高校一年にして、人生に絶望する、おれ。
やり直そうと決意はしたものの、前途の多難さに、くじけそう。
というのは杏子と連れだって先に走っていった並河香織が、おれを振り向きざまに見せた表情の、あまりにも冷ややかなこと。
確信した!
並河の杏子への思いは、本物だ。
『別に誰でもいいのよ(わたしじゃないなら)杏子を幸せにしてくれる人なら』
これを杏子と充がいる前で言い放ったのだから。
……残念だが、充。
充は並河のことを好きだけど、きっと報われない。
そして杏子!
おまえもしかして超ニブい? こんなにストレートに告られて、香織はいつものことだから、みたいに受け流すって。
全身全霊でおれの義妹の杏子は並河香織に愛されてます。間違いない!
今まで、女の子同士だからと懸命に恋心を隠してきたのに違いない。
それなのに他の男(川野)が杏子に恋の告白をしたり義理の兄が頼りなくて自分が杏子を好きなくせに他の男(川野)につけいる隙を見せたりとグダグダだったから、とうとう怒りの沸点を突き抜けたんだ。
もし、神様から人生をやり直せると言われたら、どの時点を選ぶ?
どこから、おかしくなった?
あれは体育祭の日。
川野昭二から恋愛相談を受けたときだったろうか。
思い詰めた川野から、杏子への恋心と、みんなの前で思い切って告白して「お友達から始めよう」と言われたのにも関わらずデートもなしで「友だち」にもなれないことを打ち明けられた。
その話をファミレスでしていたら、葉月姉に聞かれて……
いや、問題の根本は、そこじゃない。
もっと前。
杏子との出会いからだ。
入学式の日。
校庭で、二人だけで出会うなんて、なんて素晴らしいシチュエーション!
なのにあの時は妙に恥ずかしくて、『おれ一目惚れしました! 好みのど真ん中です!』って本心を言い出せなかった。
ああバカバカ!
おれみたいなバカが格好つけてどうすんだ!
過去のおれを叱りたい。殴り飛ばしたい!
本当は、杏子ともっと親しくなりたかった。最初から「好きだ」って言って、お付き合いして、二人でデートしたりしたかった。
今更、後悔するくらいなら、最初からそういう態度でいればよかったんだ。
全部、おれの優柔不断のせいだったんだ。
おれは猛烈に反省していた。
だが、だめだだめだ! こんな気弱なことでは。
杏子と並河を筆頭に、おれへの評価が最低にまで落ち込んでいる今こそ、挽回のチャンスなんだから。
……たぶん。最後の……。
考えている間にも人々の列は進む。
先に駆けだした女子たちは遙か遠く。
置いていかれまいと充が猛ダッシュ! 川野が続く。他の男子も続々と。
ゲート前にはすでに大勢の人々が並んでいる。
通常、当日のチケットは前もってネットで予約とかして用意しておくか、その場でチケットブースで買うらしい。チケットブース前も行列ができて大混雑だ。
ところで。おれたちはチケットを買う列には並んでいない。
前もってチケットを用意してあったからだ。
今回はいろいろ迷惑をかけたからと、葉月姉と根岸さんが、参加人数分、用意しておいて贈ってくれたのである。
このことについては、荻窪のロイヤルホストでの修羅場に同席した充や、森太郎、秋津たちは知っているけれど、他のメンバーには本当の理由を言ってない。
『やめておくことね。山本くんと川野くんのイメージを悪くするだけだと思うけど?』
並河は冷静にバッサリ切ってくれた。
『だからこう言えばいいわ』と考えてくれたとおりにおれたちはみんなに伝えた。
つまり、こうである。
大学に通っている近所のお姉さんが、データを集めたいと頼んできた。
どんなアトラクションに人気があるのか知りたい。
ついてはA4の紙に一枚程度の感想をレポートして欲しいというものだ。
実際、こういうデータも欲しいと葉月姉も言ってたし。
それを聞いたみんなは、大喜びだった。
入場するのに必要なパークチケット、充セレクトでオススメ、一日中なんにでも乗りほうだいのワンデーパスポートは、2015年の途中で値上がりして、今では六千円もするというのだから。
感想レポート書いてそれがタダになるならと大歓迎だった。
しかし予算も限りがあるので、チケット代を出してもらえるのは最初から行くと言っていた十一人だけ。これはクラスの皆には黙っていてもらうよう頼んだ。
「一部の人間だけ六千円のチケット代を出してもらえるなんて、そうでない人にとっては面白くないでしょ」
「並河もよくうまいこと考えつくなあ。ありがとう!」
「いいのよ杏子のためだけだから。義理兄の山本くんの評判が地に落ちたら、杏子が気に病むでしょ」
「……それはどうも。ありがとう」
「だから、ありがとうなんて言われる筋合いじゃないの。……まあ、充くんも、山本くんが悪く思われたらイヤだろうしね」
とにかくおれから礼は言われたくないようだった。
充に対する気持ちは、他のクラスメイトたちよりは親しそうだ。
それにしても並河、おれに素で話すようになったな。
「山本くんには杏子にふさわしい人間に育ってもらいたいの。どちらかといえば川野くんより、マシ。だから、頑張ってね!」
おれは喜んでいいのか? 悩むところか?
入場ゲートを通り抜けると、すぐ前にはワールドバザールが広がっていた。
女子たちは歓声をあげて、十数軒も並ぶ、それぞれ特色のあるショップに突進。
キャラクターのついたノートやボールペンみたいなオリジナルグッズ、缶入りクッキーやチョコレート、ぬいぐるみ、ガラスのフィギュアやベル等々、もう夢中で買い物スイッチが入ってる。
入場料がタダになった分くらいは買っているのではなかろうか。
それが一段落ついてから、やっと、アトラクションの話になった。
「ねえ、どこに行く? スプラッシュマウンテンに乗りたーい」
「ホーンテッドマンションよ、絶対!」
「スターツアーズ!」
「ビッグサンダーマウンテン」
「グランドサーキット・レースウェイ」
女子たちは大盛り上がり。
行列待ち時間を減らすためにファストパスというのを取っておけとか何とか。これは、幹事なんておれでは無理かもしれない。誰か、詳しいヤツいないかな?
「あの、オレ……ジャングルクルーズに乗りたいなあ……あの威勢のいいお兄さんのノリノリガイド、いいんだよねえ」
「スイスファミリーのツリーハウスとか…カリブの海賊も、いいと思うよ…」
充と森太郎の控えめな意見は、空気のようにスルーされた。
(この章、まだまだ続きます)
いつも見てくださっている方々ありがとうございます!
電子書籍発売しました!カラー表紙を石田走さんに描いていただきました!
楽天ブックスにて1月4日から販売中です。タイトル「妹なんかじゃないっ」に改題しています。2章までの内容に加筆修正したものです。




