第7章 その2 再スタートだ!
並河香織は、おれたちに、恋のライバル宣言をしたのだ!
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11月の半ば、ある晴れた日曜日。
「おっはよ~! 雅人、杏子さ~ん」
インターフォンから聞こえてきたのはいつも陽気な充の声。そして、
「おはよう、杏子。用意はできた?」
並河香織の、優しくスイートな声だった。
「朝っぱらからふたりで来るのかよ」
充、おまえよかったな。彼女いない歴に終止符を打てて。
「えへへへ~。みんなとの待ち合わせは新宿駅だけど、待ちきれないって香織さんが言うからさぁ」
まず並河が充の家に現れたそうだ。そこから連れだって、二人しておれと杏子を迎えに家までやって来た。
並河は、杏子と挨拶をした後、おれを睨んだ。おそらく彼女にしては友好的に、軽く睨んだくらいのつもりだろう。
おれの本音を言えば、すげえ怖いけど。
あの初バイトの後、登校した翌朝には、笑いかけてくれさえしたのだ。
「山本くん。再度、念を押しておくわ。わたしがこのまえ言ったことはぜんぶ本気だから。別に誰でもいいのよ。わたしの大切な杏子を幸せにしてくれる人なら。だからあなたも、誠意を示してくれれば、認めるわ」
「全力で努力するよ」
「期待してるわ」
並河は微かに笑う。
火花が飛び散りそうな緊張感。
「香織はいつも本気だから……」
杏子はちょっと困ったような笑顔を、充に向ける。
「うん、オレもわかってる。誰も止められないよ」
充も、少しばかり引きつった笑みを返す。
「じゃ、そろそろ出発しようよ。他のみんなとは新宿駅で待ち合わせだし」
「そうね。待たせてはいけないわね」
並河は、杏子と充には、優しげに微笑み、頷いた。
「行きましょう!」
杏子が先に立って、歩き出す。
男子はおれと川野昭二、沢口充、名越森太郎に、宮倉宗一。
女子は杏子、並河香織、秋津直子、上村洋子、中野靖子、神崎美穂。
もはや、学園祭の打ち上げ有志、という名目も関係ない、巨大遊園地へ行きたい同盟となった11名は、新宿駅の構内で落ち合った。
武蔵野線を経由して東京駅へ。そこでJR京葉線に乗り換え。
東京、八丁堀、新木場、そして舞浜駅へ。
この路線に乗っていると、広いディズニーランドの玄関や、シンデレラ城、ビッグサンダー・マウンテンなどが次第に近づいてくる様子がよく見えて、みんな、否が応でも気分は盛り上がりまくり。
車内も、おそらくは大半が同じ目的の人ばかりだろう。
日曜だけあって、ごった返していた。
小さい子供も交えた親子連れとか、若いカップルとか、女の子ばかりのグループとか、一眼レフのカメラを構えた男……て、あれ?
「宮倉かー!カメラ持ってきたのは!」
「おう。無いよりいいだろ?」
正しくカメラ青年である宮倉宗一は、持ってきたやつを見せてくれた。
「コンパクトデジイチだから、そんなにかさばらないし軽いからな」
コン? でじいち?
聞いてみようと思ったが、電車内の混雑ぶりで、会話も思うようにできなかった。
窓の景色を観て女子たちが興奮する。
「見て! 舞浜よ。シンデレラ城よ!」
「やっぱりいいわ~」
「シーもいいわよね。でもランドとシーと両方は無理だもんね。体力的に」
最初にできたランドと、わりと最近できたシー。両方併せて○○ズニーリゾートというのだと、充に教えてもらった。
「どっちでもいいわ。でもほんと綺麗ね」
並河香織が、ふふ、と杏子と笑いあう。
早速、舞浜駅のホームに飛び降りたのは、女子の集団。
おれたちより数分も早かった。
「やっぱり、何度来てもいいわね。見て、あのシンデレラ城ってほんとにきれい。大好きなの!」
一足先に駆けだした杏子が、振り返って手を振った。
並河さんは当分、最強モードです。




