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第6章 その11 やっぱり一番怖いのは


              11


 荻窪駅前近くのファミレス。

 ロイヤルホストに、集まった仲間。


 杏子の笑顔を見て、ほうっと肩の力が抜けた。

 そんなおれと昭二は、まだ甘かったのだった。


 何も終わってはいなかったのに。


 杏子はおれに笑いかけてくれたし

「ひとりじゃないってこと、忘れないで」

 と、優しく、心揺さぶる嬉しいことを言ってくれたのだが、実は、状況はいまだ好転していない……ような、気がする。


 気がつけば、緊張感はそのまま。

 空気はやはり冷ややかなままだ。


 沢口充も、名越森太郎も、秋津直子も、

 まだ、誰も席を立ってはいない。

 ケーキセットにさえ、誰も、ほとんど口をつけていないのだ。


 おれたちの向かい側に座っている並河香織の表情は険しい。


「これで無罪放免とは思っていないわよね? 山本雅人くん、川野昭二くん。この際だから言っておきたいことがあるの。わたしの話、聞いてる?」

「はい」

「はい!」

 おれたちは懸命に答える。


「青山さんと根岸さんは立場上、厳しいことは言いにくいでしょ? だから、ここはわたしの役目だと思うの」


 前置きして、並河は、テーブルの上に、わずかに身を乗り出した。


 整った綺麗な顔が近づき、黒い瞳の奥に、店内のライトが映えて神秘的に、淡い色彩が揺らめく。


「……ええ。わかっているわ。二人とも悪い人じゃないってことは。この場に弁護人もいるけど……ここは、譲れない」

 不思議なことを言う。

 見えない誰かか、どこかと会話しているような。


「さて……山本くん、川野くん。あなたたちは、杏子のことを好きだとか大事だとか主張するけど、実際の行動はどうなのか、胸に手をあてて考えてみて。二人で計画したことは、正しいことだったかしら?」


 ……何も、答えられなかった。


 自分の行動は、冷静になってみれば、相当おかしかった。


 なんで金にばかり捕らわれていたんだ?

 仕送りも小遣いも貰っているのに。

 不自由してはいなかった。

 ただ、おれは、勝手に再婚してすぐに海外赴任を決めてきた、頑固な親父への反発で、「世話になんかなりたくない」と、意地を張った。

 自分の奇妙なプライドのためだ。

 我が身可愛さで。

 問題の根は、自分の中にあったのだ。葉月姉のへんてこアドバイスがなくても、いずれ、おれはとんでもないことをしていたに違いない。


「あのね並河さん、責任はぼくにあるんだ」

「そうなの! わたしがいけないのよ。実際にはお父さんから生活費も学費もきちんと貰っててお金に困っていないのに、雅ちゃんに金欠という言葉を植え付けたし、お金のない危機感をあおったり、デートのアイデアだって具体的に出したし」

 根岸さんが、葉月姉が、けんめいに取りなそうとしてくれている。


「ふたりとも、根はいい人じゃと思う……」

 秋津の声は、途中で小さくなってしまった。


「そうだよ。クラスでの打ち上げだって、悪い企画じゃないよ」

 森太郎が遠慮がちにこう言い添えてくれたのは、おれたちのためというよりも、素直で邪心のない秋津のためじゃないかな。


「香織さん、カンベンしてやって? 雅人、悪気はなかったんだよ」

 充も助け船を出す。

「…まあ、いけないは、いけなかったけどさ」


 だが、並河の静かな憤りは消えない。

 

「……心理的に誘導されたことを考慮しても、問題の原点は変わらない。さあ、よく考えて。青山さんの助言に従い、行動したのは、あなたたちの意思。そうよね?」

「は、はい」

「その通りです」


「あなたたちがそうしたいなら、自業自得で自滅したっていいわ。好きにすればいいでしょう。自己責任でね」


「問題なのは周りを巻き込んだことよ。杏子だけじゃない。クラスの皆もよ。これだけは重要。ひとに迷惑をかけちゃいけないのよ。だから、宣言しておくわ」

 いったん言葉を切った並河香織は、人差し指を立てて、おれと昭二に向けた。


「二人とも、恋人候補失格よ! クラスメイトとしてもね。ましてや杏子が好きだなんて一億年早いわ! 死んだつもりで出直してきなさい!」


「は、は、はい~!」


 その夜、おれと昭二はただひたすら平謝りに謝りまくった。


 もう、もう、人生、再出発したい!

こんどこそ!




6章、前回で終わらせられませんでした。今回でようやく決着です。

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現在、全面的に見直してます。
高校入学前のエイプリルフールでのお花見事件から始まり、
4月、5月のエピソードを追加して書き込んでいったり、文章の見直しをした
「妹なんかじゃないっ」というタイトルにしたものを、新たに連載始めました。
どうぞよろしくお願いします!
妹なんかじゃないっ
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