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第6章 その5 夜更かしは素敵だ

金欠病予備軍の男子、山本雅人。人生初のバイトは人気の中華飯店。



 ラーメン屋でのバイトに入った初日の後半戦。

 休憩を終え、店内に出て行こうとしたおれ、山本雅人ともう一人のバイト観月希望は、接客の応援に入ってくれた唐沢繭由からさわまゆ先輩から、友人たちが食べに来ていると教えてもらったのだった。


「誰が来てるんだろう。なんとなく、予想はつくけど」

 草食系男子、観月希望みづきのぞみは、困惑を隠せずにつぶやいた。

「心配してくれたんだろうな。ありがたいけど…恥ずかしいな」


 バイトの同僚である彼の気持ちは、おれにはよくわかった。

 同感だった。

「おれもだよ。……いや、おれの友達だったら、面白半分で来てるに決まってる」

 素直な観月がうらやましいぜ!

 

 まず間違いなく、葉月姉はづきねえは居るだろう。

 金欠に悩むおれにこのバイト先を紹介してくれて、それなのに、おれが迷ってなかなか応募しなかったものだから、「もう、何やってるのよ」とばかり、蓬莱に縁の深い…ていうか関係者の生徒会副会長リョウ先輩に働きかけるという念の入れよう。つねに面白いことを探して生きてるような人だからな。

 おれのことなんか構ってるより早く彼氏でも見つけて幸せになってくれればいいのにな。別にあらためて探さなくとも葉月姉のすぐ側には便りになりそうな根岸さんがいるのに、全然気がついてないからなぁ。


「おう、休憩終わりか。後半も頼むぞ」

 店主である、実直そうなおじさんが、調理場から声をかけてねぎらってくれた。


「はい!」

 おれと希望のぞみは、お互い、覚悟を決めて店内に顔を出す。

「ちょうど良かったわ。観月くん、これ3番テーブルにお願いね」

 唐沢さんがラーメンを三つ、差し出す。


「やっほー! にいちゃん! 頑張ってるみたいだね!」

 入り口に近い3番テーブルで、ショートカットの可愛い少女が手を振っている。

「うわ、咲耶さくや!」

 希望のぞみは少なくともおれが今まで見たこともないくらい焦った様子で、ラーメン三つを乗せたトレイを持っていった。

「応援してくれるのは嬉しいけど、僕は今日からバイト始めたばかりなんだから、心配しすぎだよ」

「そーじゃないもん。来たかっただけだよ」

 咲耶ちゃんはほっぺを膨らませて抗議した。

「のぞみちゃん心配しすぎ」

 テーブルを挟んで向かいの席についている男の子が見上げて言う。

「あ、伸ちゃん。……と、紫苑ちゃん。咲耶と一緒に来てくれたのか」

「そゆこと!」

 にっこり。

 えっと、この子、男の子で、中学生だよな?

 天使のような微笑み、ってこんなのかな。希望の横でぼーっと立ってただけのおれにまで、極上の笑顔を見せて。

 彼の隣に腰掛けている、これまた美少女……あれ? 同じ顔?

 もしかして、双子?

 同じような明るめの色のショートヘアで並ぶ少年と少女。


「おじさんも来たがってた。けど仕事だから伸とわたしが代理」

 言葉少な!


 紫苑ていうのか。

 少女が、顔を上げて、落ち着いた様子で店内を見回し、おれの顔を見た。

 不思議な、淡い目の色。


 とたんに、おれはぎくっとした。

 なんの理由もないのに、冷や汗が出た。


 あわてておれは後先考えずに飛び出して行き、自分から名乗る。

「初めまして! 観月くんと同じ日に採用された、山本雅人って言います。彼にはお世話になってます。よろしく!」


「初めまして。こんばんは」

 間髪入れずに柔やかに答えたのは伸という男の子。


「これはご丁寧に。ふつつかな兄ですがどうぞよろしくです!」

 ぺこりと頭を垂れる咲耶ちゃん。

 なんかズレてるけど、そんなことどうでもいいよ。

 か、可愛いな!

 いいなあ、妹かあ。


「……山本さん、頭の中ダダ漏れ」

 羨ましそうに眺めていたのがバレたか、伸くんの隣の女の子……紫苑ちゃんが、クールにツッコミ。

 おれはハッとして我に返る。


 はいその通りです! スミマセン!

 って、中学生、しかもどう見たって1年か2年、二歳以上年下の女の子に見透かされるって、おれ、どうよ?


「おーい後輩くんたち、次の料理、できたよ。ギョーザ3人前。高菜チャーハン特盛りとチャーシュー盛り合わせ、塩バターラーメン大盛」

 できあがった料理がカウンターに並べられた。


 う、うまそう~!


 ゆかりさんと唐沢さんは店内を忙しく飛び回って注文取り。


 おれと観月はなんか照れくさい感じで顔を見合わせた。

「そろそろ仕事に戻ろう」

 困った様子の希望。意外だ。こんなに動揺するなんて。

「じゃあ、ごゆっくり!」


 逃げるように店内に戻る高校生男子ふたりであった。


 なぜかわからないが、おれはどうも、あの双子が、苦手かもしれない。


 出来上がった料理を観月と二人で次々に運んだ。

 その後、手近のテーブルについていた男女6名のグループが手をあげて呼ぶので、あわてて駆け寄る。

「ご注文ですか?」

「ラーメンと半チャーハンのセット」

「チャーシュー志那そばと、わたしも半チャーハンね」

「ギョーザとチャーシュー盛り合わせ」

「小籠包」

「中華ちまき」

 次々と料理の名前があげられ、おれは懸命にメモをとる。


 オーダー伝票をカウンターに届けると、奥から出てきたリョウ先輩が受け取る。


 新しい料理がカウンターに載せられた。

 焼きそばの特大盛りとチャーハン大盛り、ギョーザ6人前。

「これは6番テーブルに。山本くんの友達が来てるよ」

「はい、ありがとうございます」


 さて、おれも覚悟するか!

 な~んだって、クラスのヤツらが何人もそこに雁首並べてるんだ?


「おーい雅人~。魂抜けてんぞー」

 大きな声で呼んだのは、やっぱり、幼なじみの沢口充だった。

「まーくん、こっちこっち!」

 続いておなじみ、葉月姉。

「すてきなお店ね」

 微笑む並河さん。

「すっごい美味しそうだね!」

 名越森太郎に秋津直子。


 そして……杏子がいた。


「雅人、がんばってる?」


 おれに向ける微笑みが、どうしてだか、ひどく優しくて。

 神々しいまでに。

 そんな顔をされると、おれはほんとに困ってしまうのだ。


 料理を運んで行くと、みんなは「うまそう~!」「おいしそう~」のオンパレード。

 そりゃそうだろうな!

 最初に、まかない飯としてご飯が出たが、ものすごくうまかったんだ!


 まさに、おいしいバイトだった。


「山本、ごめんな!」

 充の隣の席に座っていたヤツが、そう言って頭を下げた。

 川野昭二だった。

「あれ、川野? どうしたんだ、しけた顔して」

 川野が小籠包かな?

 やつの前に置く。

「……ごめん! オレ知らなかったんだっ!!!」

 顔をあげ、おれを見た。

 

 なんか、やばくないかお前!?

 すっごい落ち込んだような、おまけに、目まで赤い。


「知らなかったて。何のことだ?」

「オレきょう初めて知って。お、おおおおおまえが」

 思い詰めたように、やつは、声を絞り出した。

「おまえが、深刻な金欠だったなんてっっ!」


 おいおい!

 だれが川野にばらしたんだよ!




【つづく!】


夜中に書いていてラーメン食べたくなりました…。

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現在、全面的に見直してます。
高校入学前のエイプリルフールでのお花見事件から始まり、
4月、5月のエピソードを追加して書き込んでいったり、文章の見直しをした
「妹なんかじゃないっ」というタイトルにしたものを、新たに連載始めました。
どうぞよろしくお願いします!
妹なんかじゃないっ
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